サン・ピエトロ大聖堂で「天下の秘曲」を耳コピ!?&ゲーテも愛した白ワイン「フラスカーティ」

W.A.モーツァルトが演奏旅行で訪れた土地を巡り、そこで造られる美味しいワインをご紹介する「モーツァルトとワイン旅行」。今回は、ローマ滞在中のモーツァルト父子に密着! 世界都市ローマにおいても、ヴォルフガングの天才っぷりがしっかり発揮されます。

フィレンツェからローマへの「ひどい旅」

フィレンツェを発ったレオポルトとヴォルフガングは、5日間かけてイタリア半島を南下し、ローマへとたどり着きました。今は1時間半ほどで移動できる距離ですが、当時は大変な長旅を強いられたのですね。

ただ長い時間がかかっただけでなく、道中の環境もひどかったようです。まず、ずっと雨が降り、寒い風が吹く中を移動しなければなりませんでした。ほとんど建物の影も見えない土地で、「不快きわまる旅館」に泊まり、「よくって(よくても)たまに卵とカリフラワーしかない食物」で我慢し、「断食日には卵をめぐんでもらうのも気にしなければならなかった」とレオポルトは語っています。

そんな旅の末、「貴顕の士を迎える重砲の発射」のような稲妻と雷鳴のただ中に、1770年4月11日正午ごろローマに到着。親子は、この地に約1カ月滞在することになります。

「世界の都」ローマでの充実した1カ月

ローマでモーツァルト親子はたびたび教会を訪れました。教会音楽にも頻繁に触れたようです。

到着の翌日、親子はサン・ピエトロ大聖堂でおこなわれた洗足式に参加しました。何百人もの人々が集まる中、「立派な身なりで、ドイツ語を喋り、ドイツ語で召使いにスイス衛兵を呼ばせて席をしつらえさせるいつもながらのやり方」で枢機卿たちの集まるテーブルにたどり着きます。

そこで出会ったのが、ラザーロ・オピツィオ・パッラヴィチーニ枢機卿。彼は、ボローニャで親子がお世話になったジョヴァンニ・ルーカ・パッラヴィッチーニ・チェントゥリオーニ伯爵の遠縁にあたる存在で、このあとも何かと親子を支援してくれることになります。

パッラヴィチーニ枢機卿のほかにも、モーツァルト親子は貴族、聖職者、音楽家たちと積極的に社交しました。覚書には30人近い有力者の名前が出てきます。1カ月間にこれほどの人物と親交を深めるのは、そう簡単なことではありませんよね。

もちろんヴォルフガングは演奏会にも出演し、さらに作曲もしています。この頃に作曲したと思われる曲の一つが、コントルダンス 変ロ長調 K.123(73g)です。このほかに、交響曲も作曲しました。

ちなみにヴォルフガングは、「サン・ピエトロ大聖堂で聖ペテロの足にキスをした」と、姉に向けて嬉しそうに手紙を書いています。しかし、彼はまだ背が小さすぎたので、抱き上げてもらわないといけなかったとか。凄まじい活躍を見ているとつい忘れてしまいますが、やっぱりまだ子どもなんだなあと思わされます。

音楽や社交以外の時間にヴォルフガングは、街でいろいろな美術品を見たり、聖ペテロや聖パウロ、聖ルカなどのデッサンを描いたり、「球当て」というゲームを教わって楽しんだりしていました。そうこうするうち、親子はもうすっかりイタリアの食事に慣れてしまったそうです。

天下の秘曲を「耳コピ」で採譜

ローマでのヴォルフガングの逸話として、グレゴリオ・アレグリが作曲した《ミゼレーレ》のエピソードは欠かせません。

アレグリの《ミゼレーレ》は、旧約聖書の詩篇51篇をもとに、1630年代に作曲されたと推定される合唱曲。この曲は、復活祭前週の最後の3日間に、サン・ピエトロ大聖堂でしか聴けない「天下の秘曲」です。歌手たちは、パート譜を一枚でも礼拝堂から持ち出したり、写譜したり、誰かにやったりすると破門になってしまうのでした。

しかし、レオポルトは語ります――「ところが、私たちはもうそれを手に入れてしまっているのだ」と。いったいどういうことなのでしょうか?

モーツァルト親子は、ローマについてすぐこの曲を聴きに大聖堂に行きました。そこでヴォルフガングは、たった一度聴いただけの《ミゼレーレ》をすべて覚えてしまい、宿に帰って楽譜に書き起こしたのです! なんて壮大な「耳コピ」なのでしょうか。

ちなみにこの「耳コピ」はローマじゅうに広まり、教皇の耳にも入りました。しかしヴォルフガングがこの件でお叱りを受けることはなく、むしろ、たいへんな名誉となったそうです。

ゲーテも愛した白ワイン「フラスカーティ」

さて、このあたりでワインのご紹介です。今回は、ローマ近郊で造られる伝統的な白ワイン「フラスカーティ」をご紹介します。

法王のワイン、でも毎日飲める親しみやすい味わい

フラスカーティは、古代ローマ時代から銘酒として知られた歴史あるワインで、イタリアでは「法王のワイン」と呼ばれています。

このワインが造られるカステッリ・ロマーニ地方は、文豪ゲーテが『ファウスト』などを書くなかでたびたび訪れて自然の風景をデッサンした、風光明媚な場所。このエリアに位置する街・フラスカーティは、「フラスケッタ」と呼ばれるローマ版居酒屋がたくさん立ち並ぶ、食いしん坊にとって嬉しい街です。ワイン好きで有名なゲーテは、当地に滞在中、フラスカーティをがぶがぶ飲んだそう。

さて、フラスカーティというワインには、いろいろな種類があります。辛口のセッコ、発泡タイプのスプマンテ、遅摘みまたは陰干しのぶどうでつくる甘口のカンネッリーノなどなど……でも、基本的にはフラスカーティは気軽に飲める白ワイン。酸味が爽やかで、かつ丸みや厚みもあり、毎日飲むのにぴったり。ローマでは、魚にも肉にもフラスカーティを合わせるのが普通なんだそうです。「万能テーブルワイン」といったところでしょうか。

Frascati Superiore Secco(生産者:Poggio Le Volpi)

出典:Amazon.co.jp

さて、今回ご紹介するのは、フラスカーティのなかでも特に品質が優れた「フラスカーティ・スペリオーレ」です。

ポッジョ・レ・ヴォルピは、フラスカーティというジャンルで史上初めて「トレビッキエリ」を与えられた、極めて優れた造り手。トレビッキエリとは、ガンベロ・ロッソ社が出版している、イタリアで最も権威のあるワイン評価誌『ヴィニ・ディ・イタリア』での最高評価です。

そのポッジョ・レ・ヴォルピが醸すこちらのフラスカーティ・スペリオーレ・セッコ。華やかなフルーツのニュアンスと美しい酸、カステッリ・ロマーニ地方の火山性土壌から来るミネラル感がバランスよく感じられます。毎日飲みたくなるピュアな味わい。魚、肉、野菜などどんな食材にもぴったりで、しかも1本1,000円代という驚愕の安さ!

今日からあなたも毎日フラスカーティを飲んで、ローマっ子を気取ってみませんか?

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瀬良 万葉
3歳よりピアノを、14歳よりオーボエを始める。京都大学法学部卒業、同大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。クラシック音楽に対する精神史的・社会学的なアプローチに興味があり、大学院では主にローベルト・シューマンの作品研究を通して19世紀ドイツにおける「教養」概念や宗教のあり方、ナショナル・アイデンティティなどについて考察した。現在はフリーライター兼オーボエ奏者として関西を拠点に活動中。