悲喜こもごものマンハイム滞在&珍しい製法のロゼ「バーディッシュ・ロートゴールド」

W.A.モーツァルトの旅先を巡り、現地の美味しいワインをご紹介する連載「モーツァルトとワイン旅行」。

ヴォルフガングは母マリーア・アンナとともに、就職先を探す旅を続けています。ミュンヒェンでの就活はうまくいかず、今度の行き先はマンハイム。自分の才能を活かせる場所で就職したいというヴォルフガング(と父レオポルト)の願いは、次こそ叶うのでしょうか?

「作曲家の楽園」マンハイムで就職する夢

マンハイムの宮廷(出典:Wikimedia Commons

マンハイムは当時、プファルツ選帝侯カール・テオドールの宮廷所在地でした。芸術と学問を大切にしたテオドール候のもと、マンハイムの宮廷楽団は、ヨーロッパ最大規模、そして最高レベルのオーケストラとしてその名をとどろかせていました。

哲学者フリードリヒ・ヤコービに「作曲家の楽園」とも呼ばれたマンハイムで、ヴォルフガングは就職活動に取り組みます。彼が現地に到着して最初にやったことは、宮廷楽団の「偉い人」たちへの訪問です。クリスティアン・カンナビヒ、イグナツ・ホルツバウアーといった指導者たちと面会したあと、宮廷音楽総監督のルイ・アウレル・ザヴィオーリにも会うことができました。

さらにヴォルフガングは、テオドール候の前で演奏する機会も手に入れます。祝賀行事として開かれた音楽会でクラヴィーア協奏曲とソナタを演奏して、テオドール候から直接お褒めの言葉までいただきました。

プファルツ選帝侯時代のカール・テオドール(出典:Wikimedia Commons

ここまでうまくいったなら、就職が決まるのでは……と思いますが、結果は残念。ヴォルフガングのためのポストは用意できないときっぱり言われてしまいます。ミュンヒェンに続きマンハイムでも、ヴォルフガングは落胆させられることになったのです。

ヨーロッパ随一の楽団、その鮮やかな響き

マンハイム宮廷でテオドール候に仕えた音楽家たちは「マンハイム楽派」と呼ばれ、音楽史全体を見ても非常に重要な役割を果たしたグループとして知られています。

彼らは交響曲をはじめ、古典派以降に花開く音楽様式の基礎を築き上げました。演奏の面でも、ボウイングの統一、ダイナミクスの表現方法の刷新など、さまざまな新しい演奏法の導入で音楽を発展させました。

たとえば、階段状に強弱を付けるバロック方式と違って、「だんだんと」強弱を変えるクレッシェンド・デクレッシェンドの技法も、マンハイム楽派の創始といわれます。特に、急激なクレッシェンドとともに分散和音を駆け上がる音楽展開は「マンハイムのロケット」として聴衆を喜ばせました。

クラリネットの音色に魅せられて

ヴォルフガングの作曲技法ももちろん、マンハイムの音楽に大きな影響を受けることになります。上で述べたような新しさ以外にヴォルフガングが魅せられたのは、オーケストラのなかでのクラリネットの響きでした。

故郷ザルツブルクでは、クラリネットは軍楽隊にしか備えられていない楽器でした。しかしマンハイムでは、宮廷楽団にクラリネットの専属奏者が3人もいるという充実ぶりです。

ああ! ぼくらもクラリネットを持てたらなあ!――シンフォニーが、フルートとオーボエとクラリネットを伴ったらどんなにすばらしい効果をあげるか、ご想像になれないでしょう。

(1778年12月3日、のちのマンハイム再訪時にヴォルフガングがザルツブルクの父に宛てた書簡より。海老沢敏、高橋英郎編訳『モーツァルト書簡全集』より引用)

ヴォルフガングがマンハイム訪問後に書いた交響曲第31番ニ長調「パリ」K.297では、彼のシンフォニーとしては初めてクラリネットが使われています。

カンナビヒをはじめとするマンハイム楽派の音楽家たちと交流しながら学びとった、音色やダイナミクスのコントラストに注目して聴いてみてください。冒頭には「マンハイムのロケット」も使われていますね。

比較用に、交響曲第30番の動画も置いておきます。

バーデン地方のロゼ「バーディッシュ・ロートゴールド」

さて、今回もワイン紹介のお時間です。今回ご紹介するのは、マンハイム周辺のワイン産地バーデンで造られるロゼ「バーディッシュ・ロートゴールド」です。

「ロートリング」製法

ロゼワインは一般的に、黒ぶどうを使って白ワインと同じような方法で造るか、黒ぶどうで赤ワインと同じように造りはじめ、色が付いた時点で果皮や種を取り除く方法で造られます。

しかしドイツでは、赤ワインのもろみ(発酵前の果汁と果実の混合物)と白ワインのもろみを醸造段階で混ぜ、一緒に圧搾することでロゼワインが造られています。この方法を「ロートリング」といいます。

バーディッシュ・ロートゴールドは、ロートリング製法で造られる上級ワインの一つです。黒ぶどうのシュペートブルグンダー(=ピノ・ノワール)と、白ぶどうのグラウブルグンダー(=ピノ・グリ)をブレンドして造られます。美しいサーモンピンクのワインで、ピュアな果実風味を楽しめる素敵なワインです。

Badisch Rotgold(生産者:Weinhaus Bettina Schumann UG)

女性醸造家と女性ソムリエ・マーケターの二人組が営むワイナリー。比較的新しい生産者であるにも関わらず、そのワインは国際的なアワードでトップ10にランクインするという実力派です。

このバーディッシュ・ロートゴールドは、伝統的なワインを現代的に復刻させたもの。いちごやラズベリーのような赤い果実風味がジューシーで、そこに柑橘やスパイスが爽やかさを添えます。

ほのかな甘さを残してあり、生産者によるとバーベキューにぴったり。たしかに、みんなでわいわい楽しみたい味わい。しっかり冷やしてパーティーで開けたいワインです。

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瀬良 万葉
3歳よりピアノを、14歳よりオーボエを始める。京都大学法学部卒業、同大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。クラシック音楽とそれが生まれた社会との関係に興味があり、大学院では主にローベルト・シューマンの作品研究を通して19世紀ドイツにおける「教養」概念や宗教のあり方、ナショナル・アイデンティティなどについて考察した。現在はフリーライター兼オーボエ奏者として関西を拠点に活動中。