旅も終盤! ヴェネツィアでの楽しい滞在&ちょっぴりビターな爽やかさが魅力の「ソアーヴェ・クラシコ」

W.A.モーツァルトの旅先を巡り、現地の美味しいワインをご紹介する連載「モーツァルトとワイン旅行」。今回ついに、ヴォルフガングと父レオポルトの第1回イタリア旅行が、大詰めを迎えます!

たのしいヴェネツィア滞在

ミラノでは、いくつもの苦難を乗り越えてオペラ《ポントの王ミトリダーテ》の上演にこぎつけ、大成功を収めたヴォルフガングとレオポルト。その興奮冷めやらぬままミラノを発った2人は、そのまま東へと向かい、1週間後の2月11日、ミラノから約270km先のヴェネツィアに到着しました。

オペラに仮面舞踏会に、充実の日々

ヴェネツィアから送られた手紙には、オペラや仮面舞踏会、貴族たちとの食事を存分に楽しんでいるモーツァルト父子の様子が読みとれます。2人のスケジュールの一部を見てみましょう。

  • 2月11日 ヴェネツィア着。世話になるヴィーダー家を訪問後、オペラ鑑賞
  • 2月12日 オペラ鑑賞(14:00〜19:00)のあと、ヴィーダー家で夕食、そのまま翌朝まで仮面舞踏会を楽しむ
  • 2月13日 仮面舞踏会のあと、オペラ・ブッファを鑑賞

父子がオペラを鑑賞したと思われるサン・ベネディット劇場(Wikimedia Commons)

仮面舞踏会の会場となったサン・マルコ広場(Wikimedia Commons)

モーツァルト父子はオペラを鑑賞するだけでなく、音楽会を開いて演奏活動にも励みました。さらに《ポントの王ミトリダーテ》の成功のおかげで、1772〜73年のミラノの謝肉祭用オペラの作曲契約も取り付けました。このオペラは、次々回のイタリア旅行で初演されることになります。ヴォルフガングのキャリアは、とても順調そうですね。

周りの人々に恵まれて

そして2月下旬から、しょっちゅう貴族たちとの食事を楽しんでいたこともわかっています。モーツァルト父子はヴェネツィアの貴族たちから非常に人気で、宿の前には貴族のゴンドラが絶えず訪れていたようです。

こうして2人がヴェネツィアでの日々を充実させられた理由として、世話人であるヴィーダー一家がとても親切であったことも大きいでしょう。レオポルトはヴィーダー家の人々を、次のような言葉で褒め称えています。

私も世間のいろいろな人たちをいささかためしてみましたが、この一家のような人たちに出会ったのはわずか、本当にわずかでした。

(1771年2月20日、レオポルトから妻マリーア・アンナ宛の書簡より)

ついに旅も大詰め

さて、初めてのイタリア旅行もついに終盤。父子は3月12日にヴェネツィアを発ちます。実は、周囲には11日に出発すると思わせて、1日かけてゆっくり帰りの支度をしようとしていたものの、結局バレてしまって11日にも貴族と食事する羽目になったようです。本当に大人気ですね。

サンタ・ジュスティーナ聖堂(Wikimedia Commons)

ヴェネツィアを出たあと、パドヴァではオラトリオの作曲の仕事も得ました。《救われたべトゥーリア》K118/74cです。このとき、サンタ・ジュスティーナ聖堂の立派なオルガンも弾いています。パドヴァで2回、そのあと立ち寄ったヴェローナでも演奏を披露。旅の最後まで、みっちり仕事をこなしました。

15カ月半ぶりのわが家

ヴォルフガングとレオポルトは、1771年3月28日、ザルツブルクに帰着。1769年12月13日から約15カ月半にわたって続いた旅がついに終わりました。モーツァルト一家にとって久しぶりの、家族4人での生活がはじまります。

ザルツブルクでのヴォルフガングの作曲活動も順調でした。パドヴァで依頼を受けたオラトリオ《救われたべトゥーリア》も完成します。

さらにこの時期ヴォルフガングは、レオポルトに言わせれば「私たちの息子には不朽の名誉」となる仕事の依頼を受けました。それは、マリア・テレジアの皇子フェルディナント大公とモデナ公国のベアトリーチェ皇女との婚礼を祝福する祝典劇の作曲です。

そして、ミラノで上演されるこの祝典劇を準備するために、ヴォルフガングとレオポルトは数カ月後、再びイタリア旅行に出発するのでした。さて、今回は《ポントの王ミトリダーテ》のときのように妨害されずに済むのでしょうか……? この先のお話は、次回以降のお楽しみです。

果実味に加わる香ばしさがおいしい「ソアーヴェ・クラシコ」

それではここで、ワインを紹介します。今回取り上げるのは、ヴェネツィアを州都とするヴェネト州の白ワイン、ソアーヴェ・クラシコです。

「クラシコ」ならではの複雑味が魅力

ヴェネト州を代表する白ぶどう「ガルガーネガ」で作られる有名な辛口白ワインには、「ソアーヴェ」と「ソアーヴェ・クラシコ」の2種類があります。

造られるエリアは、どちらもヴェネト州の西部。ミラノからヴェネツィアへの道を3分の2ほど進んだ場所といえるでしょうか。古くから有名な産地なので、レオポルトたちも道中でおいしい白ワインを口にしたかもしれません。

ソアーヴェは平野部で、ソアーヴェ・クラシコは丘陵地帯で作られるワイン。両者の名前は似ていますが、味わいは異なります。「ソアーヴェ Soave」とは「心地よい」という意味。確かにどちらも爽やかで気持ちのよい白ワインですが、ソアーヴェの多くがシンプルで親しみやすいワインなのに対して、ソアーヴェ・クラシコはより芳醇なアロマと複雑なフレーバーをもっています。

ソアーヴェ・クラシコは、果実の生き生きとした酸味に加えて、ガルガーネガ種特有のアーモンドやレモンピールのような香ばしさをもっているのが特徴。ちょっとビターな酸味が魅力的です。

Soave Classico La Froscà (生産者:Gini)


出典:Amazon.co.jp

今回ご紹介するのは、1700年代からガルガーネガの栽培に取り組んできた歴史ある生産者、ジーニのソアーヴェ・クラシコ。なかでもこの「ラ・フロスカ」には平均樹齢65〜70年のぶどうが使われており、味わいの要素一つひとつが非常に「密」です。

美しい酸、深みのあるミネラル、まろやかな果実味、レモンピールとスパイスの風味……上質な心地よさを感じられるワイン。白ワインがますますおいしくなってくるこの季節に、ぜひ一度味わってみてください。

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瀬良 万葉
3歳よりピアノを、14歳よりオーボエを始める。京都大学法学部卒業、同大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。クラシック音楽とそれが生まれた社会との関係に興味があり、大学院では主にローベルト・シューマンの作品研究を通して19世紀ドイツにおける「教養」概念や宗教のあり方、ナショナル・アイデンティティなどについて考察した。現在はフリーライター兼オーボエ奏者として関西を拠点に活動中。