音楽家のためのメンタルスキル⑦「ストレスマネジメント」

こんにちは。ドイツ、ハレ在住のピアニスト・ピアノ教育者の大木美穂です。

今回は「音楽のための8つのメンタルスキル」7つ目の「ストレスマネジメント」についてのお話しをしていきます。

ストレスは悪いもの?

ストレスのお話しをするにあたって前提として知っていただきたことは、ストレス自体が悪いものというわけではないということ。

ほどよいストレスは、成長をするために必要なエネルギーになります。したがって、ストレスがなさすぎる(リラックスしすぎている)のでもなく、ストレスがかかりすぎているのでもない、真ん中のバランスがとれた状態が理想の状態となります。

リラクセーション・アクティベーションの記事でご紹介した「逆U字曲線」がここでも当てはまります。(参考▷音楽家のためのメンタルスキル②-1「リラクセーション・アクティベーション」前編

ストレッサーとストレス反応

次に、ストレスが発生する仕組みを見ていきましょう。

ストレス反応は、外からの力や刺激(ストレッサー)を受け、それをなんとかしようと頑張ることによって起きます。

ストレスというと悪いことや苦しいことと考えてしまいがちですが、実は、嬉しいことや楽しいことを含めて、いつもと違うことや変化はすべて、ストレスの原因(ストレッサー)です。嬉しくて舞い上がっていたり、わくわくしたりしている状態、これもストレス反応です。

外からの刺激や変化などは、最初からストレッサーとして降りかかってくるわけではなく、それをどう意味付けするかといった認知的評価によって、ストレス反応へつながるのです。

3種のストレス

ストレスの種類として、ドイツのスポーツ心理学者ジェームス. E. レアーは次の3つを挙げています。

  1. 身体的ストレス
  2. 心理的ストレス(メンタルストレス)
  3. 感情的ストレス

1の身体的ストレスは、走る・動くなどといった、身体にかかるストレス。

2の心理的ストレスは、考える・集中する・フォーカスする・イメトレ・アナリューゼ・問題解決するなどといった、頭を使うときにかかるストレス。

3の感情的ストレスは、怒り・不安・悔しさ・ネガティブな感情・フラストレーション・傷心などといった、感情面にかかるストレスです。

ストレスの例(場面別)

次に、音楽家に関係する典型的なストレスの例を、場面別にみていきましょう。

日々の練習のストレスの例:

  • オーバーワーク:練習のしすぎ(身体的ストレス
  • メンタルトレーニング、頭を使う(心理的ストレス
  • 練習が滞り、思うようにいかないことによるフラストレーション(感情的ストレス
  • コンサートや試験に対する不安や、音楽家としての将来に対する不安(感情的ストレス

本番前のストレスの例:

  • 緊張のしすぎによる身体の硬直(身体的ストレス
  • 身体が休みきれていない(身体的ストレス
  • 曲のことなどを考えすぎている(心理的ストレス
  • 本番で失敗をしないか不安(感情的ストレス

本番中のストレスの例:

  • 緊張のしすぎによる身体の硬直(身体的ストレス
  • 間違えたことに対する自分への怒りなど(感情的ストレス

こうして書き出してみると、無意識のうちにさまざまな場面でストレスがかかっていることがわかると思います。最初のステップとして、まずはこういったストレスに気づくことが大切です。

ストレス対処法

ストレスがかかりすぎているときには、リラックスさせる方向にもっていく必要があります。ここではその対処法を見ていきます。

身体的ストレスに対してリラックスするためにできること:

  • 休む
  • 適切な飲食によって体の調子を整える(たとえば、本番前は空腹すぎず、かといって食べ過ぎない)
  • よく眠る(本番が夜にある場合、昼間に一度横になって仮眠をとる)
  • ヨガをする
  • 自律訓練法をする
  • 呼吸法をする

心理的ストレスに対してリラックスするためにできること:

  • ヨガをする
  • 自律訓練法をする
  • 呼吸法をする
  • “ファンタジー” をもつ(妄想など、集中せずにできること)
  • フォーカスする対象を一点ではなく広くもつ(綺麗な風景など)
  • 頭を空っぽにする
  • 頭を使わずに気楽にできることをする(散歩など)

感情的ストレスに対してリラックスするためにできること:

  • リラックスする
  • ポジティブ思考
  • ネガティブ思考から離れるために、視点を変えてみる
  • それでもネガティブになってしまうときは、「ストップ」とキューワードを使う
  • 「絶対に〜」「〜しなくてはならない」といった思い込みから自由になる
  • 本番でうまくいくことを想像する
  • 好きなことを考える
  • 元気が出るものを考える
  • 自分の強みを挙げてみる
  • 自分の内側に気持ちを向け、感じることに正直になる
  • それでも不安なときは、友人や先生などに打ち明けてみる

これらをすることによって、ストレスを、自分を成長させるための程よいバランスが取れた状態にもっていくことができます。

ストレスとうまく付き合おう

もう一度言いますが、ストレス自体は悪いものではありません。むしろほどよいストレスは、自分を成長させるための大切なエネルギーとなります。

ただし、体も心も、ほどよい休息が必要です。これがなくては、ストレスがかかりすぎている状態になってしまいます。

自分の体と心の声を聞いて、ストレスと上手に向き合っていきましょう。

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栃木県出身。3歳からピアノを始める。2010年、横浜国立大学音楽教育課程在学中に日本政府より奨学金給付を受け、ドイツ、エアフルト大学に一年間留学。2013年よりドイツ、ハレ在住。2017年、マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク器楽教育ピアノ修士課程を最高得点で修了。2019年よりエアフルト大学にて音楽教育科にてピアノとアンサンブルの授業を受けもち、後進の指導をしている。現在、ザクセン・アンハルト州より研究奨学金を受け、ハレ大学博士課程にて、スポーツ心理学を応用した音楽家のためのメンタルトレーニングについて研究中。ピアノ演奏、研究、ピアノ指導のかたわら、ドイツ語翻訳及び通訳、メンタルトレーニングコンサルタントをおこなっている。