まずは向き合うところから。自分のあがり症を知るための3つのワーク

こんにちは! ドイツのハレ在住のピアニスト、ピアノ教育者の大木美穂です。

私は現在、ハレ大学の音楽教育科とスポーツ心理学科にて、音楽をする人のためのメンタルトレーニング研究をしています。連載「音楽家のためのメンタルトレーニング」第2回目である本記事では、「演奏の場におけるあがり症」について皆さんとシェアしたいと思います。

演奏の場におけるあがり症とは

あがってしまって音楽に意識を集中できない…

ステージ上での手の震えが気になる…

暗譜が飛んだらどうしよう、と思った次の瞬間、間違えてしまう…

こういった悩みを持っている音楽家は、きっと少なくないはずです。「あがり症なんてなくなればいいのに」と思ってしまいますが、あがり症を「なくす」もしくは「克服する」よりも、あがり症との付き合い方を模索するためのアプローチをとることが重要です。まずは自分のあがり症と向き合うところから始めましょう。

*「あがり症」と一言でいうとその意味は広く、対人恐怖症など社会的不安障害も含まれることもありますが、ここでのあがり症は「演奏の場におけるあがり症」として理解していただければと思います。

ワークを通して、自分の “あがり症” を知ろう

自分のあがり症を知るために、3つのワークを通して分析していきます。

Work1

あがったとき、どんな症状が現れますか。書き出してみましょう。

自分のあがりの症状を知ることは、あがり症を克服するための1つ目のステップです。

あがったときに精神的・身体的に現れる症状には、次のようなものがあります。皆さんはあがったとき、どのような症状として現れますか?

精神的な症状 身体的な症状
  • 不安
  • パニック
  • 極度の緊張
  • 疑い
  • 羞恥心
  • 不快感
  • 怖気
  • 注意力散漫
  • ど忘れなど
  • 筋肉の硬直
  • 呼吸が浅くなる
  • 手が冷たくなる
  • めまい
  • ほてり
  • 汗ばむ
  • 口が渇く
  • 手足が震える
  • 鼓動が速まるなど

(ピアノの生徒16名と音楽家12名に対しおこなったインタビュー調査より)

Work2

さて、こういった気になる症状を作り出すあがり症は、いったいどこからくるのでしょうか。

自分のあがり症の原因と思われるものを、書き出してみましょう。

「自分のあがり症の原因」を見つけることが、2つ目のステップです。たとえば、あがり症の原因には、次のようなものがあります。

  • 準備不足
  • 外部から小さく評価されることへの恐れ
  • 過去の失敗経験から、再び失敗することに対する恐れ
  • 自己過大評価もしくは自己過小評価
  • 自己概念(self-concept)・自尊心(self-esteem)・自己効力感(self-efficacy)が不安定
  • 完璧主義=自分から自分へのプレッシャー
  • 先生や親からのプレッシャー    など

「なぜか漠然と不安」と感じている本番前に、「なぜ不安なのか」書き出してみると効果的です。

★不安になっても大丈夫

間違えたらどうしよう、暗譜が飛んだら、完璧に弾けなかったら、周りにどう思われるか考えると不安…。演奏の際に、何らかの原因によって不安に感じるってありますよね。

そもそも不安とは何なのか。

不安は、動物としての人間の遺伝子に元来から備わった感覚のひとつ。不安の反応は、大きく「攻撃」と「防御」の2つに分けられます(ちなみに防御には逃亡も含まれます)。その結果、精神や身体に先ほど述べたような変化が起きるのです。

Work3

不安になる仕組みを知って、「不安」と「あがり症」の存在を受け入れましょう。

★あがりをネガティブなものと捉えず、ポジティブなエネルギーに

これからはあがりをネガティブなもの、演奏を邪魔するものと捉えずに、ポジティブなエネルギーに変えていく方法を考えていきます。

そのために実践してほしいのが、メンタルトレーニング。次回は、本番で理想のパフォーマンスができている状態についてお話ししていきます。

おまけ・Tipps

  1. 手が震えるとうまく鍵盤がつかめない、と感じるときは、なるべく鍵盤とのコンタクトを意識してみてください。
  2. 手が冷たくなる人は、本番前に手のストレッチや手をぶらぶらと動かす、手袋をするなどして、なるべく手を温めて。それでも冷たいようでも、大丈夫。あがって手が冷たくなるのも、お医者さんによると、心臓が体の必要な部分に血液を送っているから、実は当たり前の現象なのだそうです(手が冷たくなるのは不安からくる防御反応によるもの、とする研究者もいます)。手が冷えていても、意外と演奏にはそこまで支障はきたしません。
  3. 「なぜ不安なのか全く分からない」という場合や、あがり症の程度が深刻が場合もあるでしょう。そんな時は、専門家の助けを借りるのもひとつの手です。
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栃木県出身。3歳からピアノを始める。2010年、横浜国立大学音楽教育課程在学中に日本政府より奨学金給付を受け、ドイツ、エアフルト大学に一年間留学。2013年よりドイツ、ハレ在住。2017年、マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク器楽教育ピアノ修士課程を最高得点で修了。2019年よりエアフルト大学にて音楽教育科にてピアノとアンサンブルの授業を受けもち、後進の指導をしている。現在、ザクセン・アンハルト州より研究奨学金を受け、ハレ大学博士課程にて、スポーツ心理学を応用した音楽家のためのメンタルトレーニングについて研究中。ピアノ演奏、研究、ピアノ指導のかたわら、ドイツ語翻訳及び通訳、メンタルトレーニングコンサルタントをおこなっている。