【苦手意識がある人向け】初見演奏のコツ・上達法

こんにちは! ドイツ在住ピアニスト・ピアノ教育家の大木美穂です。今日は「初見演奏のコツ」についてお話をします。

なお私の専門楽器はピアノのため、基本的にピアノを想定してこの記事を書いていますが、他の楽器でも応用できる部分も多いのではないかなと思います。

初見演奏に苦手意識がある人のための、上達法

音大で勉強をしていたり、演奏活動をしていたりすると、ときどきありますよね。初見で演奏する機会。

明日試験の伴奏者が来れなくなってしまったから、とほぼ初見もしくはスピード譜読みで伴奏をお願いされたり、アンサンブルの授業で使うピアノ譜がレッスンの直前に手に入ったり、あとは練習が追いつかないよーという量の伴奏を頼まれたり。

私も上記すべて経験あります(笑)。

私は職業的コレペティートァ(歌劇場などでオペラ歌手やバレエダンサーにピアノを弾きがら音楽稽古をつける役割のこと)ではありませんが、職業上、伴奏を任せていただくことや、生徒の新曲を選ぶ際など、初見で演奏する機会がたくさんあります。

私はもともと初見はそんなに得意ではなく、ドイツ大学院の入試で初見演奏で失敗した経験もあります。ただここ最近は、初見演奏にただやみくもに取り組むのではなく、「どうやったら初見演奏を上達させられるか」に重点をおいて取り組んできました。

もともと初見が得意!という人もいらっしゃいますが、私のようにそこまで初見が得意ではなかった人がどうやって初見演奏を上達させたかを、本稿ではシェアさせていただきます。

今日の記事は、

  • 初見演奏で大切なこと3点について
  • 弾き始める前にすること
  • 声楽や他楽器による主旋律をチェックする
  • 自分が弾いている場所よりも少し先を見ながら弾く?
  • 普段からやっておくこと
  • スイスで活躍中の日本人コレペティから学んだこと

の流れでいきたいと思います。

初見演奏で大切な3つのポイント

まず、基本的に私は初見とレパートリー演奏はアプローチ方法は別物だと思っています。そして、初見演奏をするにあたって大事なことは

  1. 曲の性格を表現する
  2. 曲全体のバランスを聴く
  3. 止まらずに弾く

の3点だと考えています。

なるべく全部弾きたい! と思うがゆえにテンポもバラバラ、性格もぎこちない、内声ばかりが目立つ上に途中で止まってしまう……という演奏は、あまりよい初見演奏とは言えません。

そのためには、仮に60%しか弾けてなくても、それでも曲の性格をなるべく表現し、全体のバランスを聴き、止まらずに弾くこと。これが大切だと思うのです。

初見演奏をするときのコツ

では、上記3点を実現するために、具体的にどのようなことに注意すればよいでしょうか。

弾き始める前に全体像を把握する

まずは、「弾き始める前に全体像にさっと目を通す」ことです。1分でも、30秒でも、それも難しければ5秒だっていいんです。このとき、以下のことに気をつけます。

  • テンポは?
  • 調性は?
  • 拍は?
  • 曲の中でどこか気をつけなければいけないところはあるか?
  • どっちの手でとるか
  • どこを抜くか

練習が必要そうな難しい部分や、テンポが速い曲の場合などは、「どこを抜くか」をある程度決めます。メロディやバスなど大事なところはちゃんと弾くが、内声など抜いてもさほど全体に影響を与えない部分は抜いてしまいます。バッハのカンタータなど、曲によってはどう考えても短時間の練習で全部は弾けないよ! というときはこの思い切りも大事かと考えています。

様式的に違和感なければちょっとアレンジするのもOK! と、私の友人であり、大学や劇場で伴奏者として活躍中のロシア人ピアニストも言っていました。

声楽や他楽器による主旋律をチェックする

私の生徒や学生さんの指導をしていて感じるのですが、これをやってない人は意外と多いようです。これは声を大にして言いたい。声楽や他楽器の伴奏する場合、伴奏でなくても共演者がいるアンサンブルの場合、

まずは声楽や他楽器による主旋律をチェックしましょう!!

伴奏の場合、目標はソロ奏者に寄り添うことなので、主旋律がチェックできているかどうかは大きい、と個人的に思います。

そして伴奏でなく共演の場合も、つまり両者のソロ比率が似ておりソロ部分が曲の箇所によって入れ替わるような場合でも、自分はこの部分で伴奏をしているのか? どこからどこまでソロの部分なのか? 掛け合いなのか? という点は意識する必要があります。

「自分が弾いている場所よりも少し先を見ながら弾く」の真意

初見演奏の際は、「自分が弾いている場所よりも少し先を見ながら弾きなさい」と、言われたことがありませんか?

この点、今弾いている場所よりもずっと先を見ながら弾くというよりは、どちらかといえば自分が弾いているところを含んだまとまり全体を見るようなイメージで演奏するとうまくいくと思います。

「音読」と同様です。初めて見る文章を音読するとき、どのような目の動きをするでしょうか。今読む一文字だけを追っていく、という人はあまりいないと思います。単語など一区切りずつのかたまりを目で追いながら音読しますよね。そして上級者になると、たとえば次の点まで、などと、一気に把握できる区切り自体が大きくなっていくかと思います。

それは、初見演奏でも同じです。

まずはモチーフからでもいい。ひとかたまりを把握するように気をつけてみます。そしてやがてはフレーズごとなど、把握する区切りの範囲を少しずつ大きくしていけばよいのです。

日頃からトレーニングをおこなおう

ここまで、初見演奏をするときに気をつけていきたいことについてお話ししました。当然ながら、初見演奏力を上げるためには、日頃の努力も欠かせません。私が思うに、

  • 定期的に初見練習をすること
  • 音楽理論と和声法をしっかり学習しておく
  • アレンジ力をつける
  • 移調の練習をする
  • 分散和音や伴奏系で書かれている曲を和音で弾く練習をしてみる
  • プラスでメンタルトレーニングを使った練習も日頃からやっておく

ことが大切ではないでしょうか。

まずは練習の基本として、なるべくコンスタントに初見練習をしましょう。一日に5分を毎日おこなうなど、できる範囲でリズムを作ることをおすすめします。

そして、もはやこれぞ「初見力」ともいえるのが、音楽理論と和声法の知識です。作曲にしてもアレンジにしても即興にしても、これらの知識があるのとないのとでは大きな違いです。それは初見演奏にも言えることだと思います。

音楽理論と和声法の知識を “使えるもの” にする作業が、移調の練習です。まずは、カデンツを全調で弾いてみる練習をおすすめします。そうして慣れたら長めのカデンツも弾きます。これも、できたら全調で。

そして、分散和音や伴奏系(ドソミソ・・・など)で書かれている曲を和音で弾く練習をします。ちなみにこれは、スイスの劇場で活躍する日本人コレペティートァのお墨付きの練習法です。のちに触れますが、初見演奏の際には楽譜を和音のブロックごとに捉えるような感覚になるため、そのための練習になります。

これらにプラスして、メンタルトレーニングを使った練習も日頃からやっておくといいでしょう。メンタルトレーニングの中でも、楽器を使って音を出す前に音楽や手の形や動きを頭の中で想像する、音や動きのイメージトレーニングをすることをおすすめします。

スイスで活躍中の日本人コレペティから学んだこと

最後に、スイスの劇場でご活躍中の日本人コレペティートァ田中美穂さん(以下美穂さん)より筆者が教わったことをシェアします。

「初見演奏のコツ」を聞いた際、美穂さんが教えてくれたことの中で特に筆者の心に残ったのが以下の2点です。

  1. 楽譜を一音ずつ認識して弾くのではなく、楽譜を和音のブロックごとに捉える
  2. 伴奏の神髄は弾き歌いにある!

美穂さんいわく、「初見やスピード練習での伴奏の場合、楽譜の捉え方が普段のピアノ曲の譜読みとは違うので、楽譜の中の重要な音をどう浮き上がらせて見るかどうかが肝」とのこと。そして「楽譜を一音ずつ認識して弾くのではなく、楽譜を和音のブロックごとに捉える感じ。大譜表の二本のラインを横に追うのではなく、縦のハーモニーごとに見る習慣が必要」とのことです。なるほど!

そして「伴奏の神髄は弾き歌いにある!」とのこと。これは、伴奏をうまくできるようになりたければ、まずは弾き歌いをたくさんしてみましょう、ということ。「初見伴奏」と「弾き歌い」って一見あまり関係がなさそうにも思えますが、私もやってみて本当にその通りだなと思いました。やはりアンサンブルや伴奏をするということは、全体の響きを捉えることが大事。自分で主旋律である歌の部分を歌い、それに伴奏をつけて歌うことで、初見演奏の練習にもなるのです。

以上、「もうやっているよ〜」ということもあったかもしれませんが、何かひとつでも新たな視点が見つかれば幸いです。

音楽家メンタルトレーニングします

筆者である私、大木美穂は、これまで数々の音楽家、そしてフロアボール日本代表選手などのメンタルトレーニングコンサルタントをおこなってきました。自分らしいパフォーマンスができなくて悩んでいる、あがり症が年々ひどくなっている、本番に強くなりたい、という方は、ご相談お待ちしています。

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栃木県出身。3歳からピアノを始める。2010年、横浜国立大学音楽教育課程在学中に日本政府より奨学金給付を受け、ドイツ、エアフルト大学に一年間留学。2013年よりドイツ、ハレ在住。2017年、マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク器楽教育ピアノ修士課程を最高得点で修了。2019年よりエアフルト大学にて音楽教育科にてピアノとアンサンブルの授業を受けもち、後進の指導をしている。現在、ザクセン・アンハルト州より研究奨学金を受け、ハレ大学博士課程にて、スポーツ心理学を応用した音楽家のためのメンタルトレーニングについて研究中。ピアノ演奏、研究、ピアノ指導のかたわら、ドイツ語翻訳及び通訳、メンタルトレーニングコンサルタントをおこなっている。