音楽家として本当に生活できる? マネタイズのための第一歩を考える

将来、音楽で生きていきたいけれど、できるか不安」「もうすぐ音大を卒業するけれど、進路に悩んでいる」「これから音楽家として起業したい」これは音楽を生業にしたいと考える人なら、誰もが抱える悩みです。この記事では、私個人の体験をご紹介しつつ、具体的なマネタイズの方法を検討していきます。

内容としては、

  1. 音楽家としてのスキルを活用するいろいろな可能性を探してみる
  2. 音楽プラスαの何かを見つける(音楽以外の得意分野・好きなことを見つける)
  3. 両方を組み合わせてみる

の三本立てでお話しさせていただきます。これからの音楽家としての生き方に悩んでいる人に届いたら嬉しいです。

音楽家としての活動には何がある?

©︎Michael Deutsch / Kunstmuseum Moritzburg Halle (Saale)

まず音楽家の基本的な活動として挙げられるのは、

  • 演奏活動や音楽制作 →ソロ、アンサンブル
  • レッスン →対面・オンライン、機関に所属・個人レッスン

この2つかと思います。

演奏家にとっての演奏活動とは、コンサートやライブをすること、またCD制作もそのひとつと言えますね。作曲家の方であれば、音楽制作が相当します。

また、レッスンに関しては、個人レッスンのほかに、大学・高校や音楽教室など教育機関でのレッスンもあります。従来の生徒さんとの対面レッスンのみならず、最近は新型コロナウイルスの感染拡大防止を機にオンラインレッスンが広まってきています。

私自身は大学での指導と個人指導の両方をしていますが、そのように公的もしくは私的機関でのレッスンと個人レッスンを組み合わせているパターンをよく見かけます。さまざまなレベルの生徒さんを教えられるというメリットがありますし、また万が一勤務先から解雇されても個人レッスンがある、というリスクマネジメントにもなります。

そのほかに音楽家の活動として挙げられるのは、

  • 執筆活動
  • YouTubeなどでビデオ配信
  • ブログ執筆
  • Podcastをやる
  • Web教材を作る
  • オンラインサロンの運営
  • イベント運営
  • 音楽家のためのコンサルタント事業

といったところでしょうか。

執筆活動と聞いてまず思い浮かべるのは書籍の執筆だと思います。でも最近は本だけでなく、note などに代表されるオンライン上のコンテンツ制作サービスもあります。こういったプラットフォームを使って有料記事を書いてもいいですね。

YouTubeなどでビデオ配信するという方法もあります。これは、稼ぐとなると多大なチャンネル登録者が必要なので定期的に配信をおこなってファン獲得の必要があると同時に、動画編集というスキルも必要になります。動画編集に関しては、どうしても苦手だったり時間がかかりすぎる場合には、外注しても良いかと思います。ビデオ撮影をしてWeb教材を作るという方法もあります。

ブログ執筆は、音楽ネタでもいいし、ほかに興味があることでもいいと思います。ただしこれも時間や労力は必要だし、お金が入るまでに多少時間はかかりそう……という気はします。

Podcastをやるのは、ちょっとレベルは高いかもしれません。でも、話すことが好きで伝えたい内容やアイディアがあるならきっとこれもありだと思います。

オンラインサロンの運営に関しては、インターネットが発達した今だからこそできる音楽家のマネタイズです。会員は、月額を払い、Facebookのグループなどで学べるコミュティを作ります。音楽家ではありませんがドイツで知り合った日本人フリーランサーはこれで結構稼いでいました。

イベント運営に関しては、セミナーやマスタークラスの開催などです。

音楽家のためのコンサルタント事業、これもたまに見かけます。

こう見ると、演奏とレッスンのほかにもいろいろな道がありますね。私の経験のあるものないもの含め、ざっと思いつくまま挙げてみました。アイディア次第でまだまだ出てきそうです。

音楽のほかに “プラスα” を見つける

私がおすすめしたいのは、“プラスα” としてもうひとつ「自分な大好きなことで、やっていて幸せで、お金にならなくても続けていきたいくらいのもの」を何か探すということです。それを見つけたら、それも音楽の練習の合間に徹底的に極めて、それでも稼げるようにすると、ユニークなキャリアを築くことができます。

たとえば私の場合は、それが語学でした。

私は現在、研究者・音楽家のほかに、通訳・翻訳家としてのお仕事もいただいています。海外にいると、音楽と通訳業という組み合わせはそこまで珍しいものではありません。私はもともと幅広いことに挑戦するのが好きな性格のため、このように「音楽」と「語学」という2つの軸を持って、いろいろと挑戦しながら生きていくのが幸せなようです。

ここで大事なのは、初めから完璧をめざさないこと。仕事を始める時点でまだ完璧でなくとも仕方ないですし、初めは無償でもいいから始めてみて、経験を積むことが大切だと感じます。

音楽と “プラスα” のコラボレーションも◎

音楽のほかにもうひとつ好きなことを見つけて、それを極めてそれで稼げるようになったら(もしくはまだ稼げてなくても)、今度はそれを音楽と掛け合わせるのも手です。

たとえばかつてレッスン通訳をさせていただいたピアニストさんで、音楽家のチラシ制作でも収益を出している方もいます。デザインが得意なら、こうやって特技の音楽×デザインというコラボで仕事ができるなんて幸せですよね。また、私のかつての学友は在学中、美大生が作成したアート作品とピアノ即興演奏をコラボしてライブ演奏をしていました。

大切なのは、自分の強みを見つけることです。言葉を変えれば、ほかの音楽家ではなく私だけがもっているものを見つける! そのためには、普段からアンテナを張っていることと、自分の内側に向ける時間を作ることが大事です。

そしてその何かを見つけたら、それを伸ばす経験や学びに、時間とエネルギーを投資すること。場合によっては、お金の投資も大切となります。自分の能力をさらに伸ばせるし、副作用で将来的な収益を伸ばすことにもなるからです。

見つけ出した、音楽×語学という道

もう少し、音楽×語学というコラボレーションについて、私自身の話をします。

海外に出てみたいし語学が好きなので、語学を仕事にしてみたい、でもピアノも本格的に続けていきたい……と進路に悩んだのは14歳のとき。いつか海外でピアノを教えたい……と夢を抱き始めたのは18歳のとき。思ったよりも険しい道にはなりそうだけど、それでも絶対音楽で生きていこうと決意したのは20歳のときでした。

大学4年のとき、ドイツのエアフルト大学へ1年間留学し、音楽教育を学びました。留学中に「指揮者の佐渡裕さんが、ベルリンフィルで初めて指揮をするコンサートのドキュメンタリー番組の制作のために、日本語とドイツ語ができる音楽学生を探している」というお話をいただきました。

他の通訳者さんたち、ディレクターさん、カメラさん、音声さん、その他番組製作者のみなさんと筆者(2011年)

このとき私は主にアシスタントやアテンダントではありましたが、音楽家と番組制作者の楽屋での会話の通訳を体験させていただきました。生まれて初めての通訳業でした。このベルリンフィルで過ごした1週間は、今の私の原点となる時間です。

筆者、ベルリン・フィルハーモニーにて

その後、マスタークラスでのレッスン通訳をひたすらやってとにかく経験を積みました(これまで合計200時間以上)。それが長じて、ドイツの音楽祭や映画祭にゲストとして訪れる日本人音楽家のアテンドやインタビュー・ワークショップでの同時通訳などもするように。音楽関係の翻訳としては、音楽学生のドイツ語圏大学への受験応募書類作成や、履歴書のドイツ語翻訳などをさせていただきました。

また、音楽以外の分野(IT展示会やビジネス交渉など)での翻訳・通訳業もたくさん経験させていただきました。

ドイツ国際映画祭にて、作曲家・横山さんのインタビュー通訳(2015年)

通訳・翻訳の仕事は月によって案件数のばらつきが大きいため、これだけで食べていくことはなかなか難しいですが、大好きな音楽と語学、両方で生きていけるということ自体がとても幸せなことだと感じています。

自分でない何者かになるのではなく、自分が何者かを知る

音楽を愛するからこそ、それを仕事にしたくないという人もいます。それも納得。「芸術家とは生き方であり、職業ではない」という言葉もありますしね。逆に、音楽を愛するからこそ、それで生きていきたいという人もいます。私の場合は、後者でした。

かつて中学生のときにピアノ「か」語学か、と進路で悩んでいた私ですが、両方ともがむしゃらに学び続けたのち、気づいたら両方とも仕事になっていました。

大切なのは、「自分でない何者かになるのではなく、自分が何者かを知ること」。

これは、かつて在学時にフランスのピアノマスタークラスに参加した際に、お世話になった元ベルリン芸大教授がおっしゃっていた言葉です。当時、ドイツの大学院ピアノ教育課程に在学中で、卒業後の具体的な進路に悩んでいた私に、とても響く言葉でした。

「音楽を始めたのが遅いから……」
「自分なんかよりうまい人は山ほどいるから……」
「音楽が好きだけど、それで生きていけるほど現実は甘くない……」

そうやって音楽家として生きていく道を手放す前に、自分だからこそできることに目を向けてみませんか。そうすると、あなただからこそできる、意外なアイディアが生まれてくるかもしれません。

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栃木県出身。3歳からピアノを始める。2010年、横浜国立大学音楽教育課程在学中に日本政府より奨学金給付を受け、ドイツ、エアフルト大学に一年間留学。2013年よりドイツ、ハレ在住。2017年、マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク器楽教育ピアノ修士課程を最高得点で修了。2019年よりエアフルト大学にて音楽教育科にてピアノとアンサンブルの授業を受けもち、後進の指導をしている。現在、ザクセン・アンハルト州より研究奨学金を受け、ハレ大学博士課程にて、スポーツ心理学を応用した音楽家のためのメンタルトレーニングについて研究中。ピアノ演奏、研究、ピアノ指導のかたわら、ドイツ語翻訳及び通訳、メンタルトレーニングコンサルタントをおこなっている。