こんにちは。ドイツ、ハレ在住のピアニスト・ピアノ教育者の大木美穂です。今回は音楽における8つのメンタルスキル4つ目、「集中力」についてお話しします。
私たちは「あの人は集中力がある」とか「演奏中に集中力が途切れた」というふうに、「集中力」という言葉を日常的に使います。しかし改めて考えてみたときに、そもそも「集中力」とは一体なんなのでしょうか。
「集中力」とは何か
集中力の4つの段階
以前別の記事で紹介した、『インナーゲーム・オブ・テニス』という本を出版したティモシー・ガルウェイ氏は、集中力を次の4つの段階に分類しています。
- 注意を払う
- 興味を持った状態
- 心を奪われる
- 無我夢中
(高妻 2014より抜粋)
まずはたくさんある対象物から、あるものに注意を払い、それに興味をもち、次第に心を奪われ、最終的に無我夢中になるというわけです。
わかりやすい例だと、子供が遊びに夢中になっていて、お母さんが声を何度かけてもまったく耳に入らない状態などが、無我夢中に「集中」している状態、言い換えれば「注意」を集めている状態なのです。
4の無我夢中になっている状態は、以前の記事でも紹介した「フロー状態」であることが多いはずです。
「注意」の特徴
注意には、選択性、容量、準備性という3つの特徴があります。
- 注意の選択性
私たちは常にさまざまな情報や刺激にさらされており、その中から情報や刺激を選び出して注意を向けたり、無視したり、取捨選択をしています。
- 注意の容量
注意の容量にはキャパシティーがあります。そのため、一度にいくつものことをおこなわなければならない状況では、注意が散漫になり、ミスを冒しやすくなります。
- 注意の準備性
情報や刺激に向けられる注意は、方向(内と外)と幅(狭い・広い)によってカテゴライズができます(後述)。
この3つの特徴に関しては、大場ゆかり著『もっと音楽が好きになるこころのトレーニング』でも紹介されているので、こちらも参考にしてみてください。
もっと音楽が好きになる こころのトレーニング
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集中力の4つの方向
さて、注意の特徴3つ目「注意の準備性」についてもう少し詳しくみていきましょう。
スポーツ心理学では、集中力が次の4つにカテゴライズされます。
内的・狭い | 外的・狭い |
内的・広い | 外的・広い |
それぞれの例を挙げると、
内的・広い:注意が自分の体の内部に向けられている。心臓の音、身体の一部の筋肉の使い方など
内的・狭い:注意が自分の体の内部に向けられている。身体全体の動き、フォームなど
外的・狭い:注意が外の情報に向けられている。スポーツだと敵の動き方、音楽だと聞こえてくる音、目に見える情報の一部など
外的・広い:注意が外の情報に向けられている。スポーツだと敵やチーム全体の様子、音楽だとホール全体の様子など
この集中力の4つの方向性という概念を知っておくと、集中力をトレーニングする際にも、「今は自分の手の動き(内的・狭い)に集中を向けてみよう」「ここのパッセージをよく聞いて(外的・狭い)」「ホールに響き渡る音を感じてみよう(外的・広い)」などと、方向性を意識した練習ができるようになりますね。
なお、日本語では「集中」というひとつの単語に集約されますが、英語だと「concentration」もしくは「focus」と訳され、それぞれのニュアンスが異なります。
「コンセントレーション」は、専門的には注意をひとつのことに向けている状態、つまり4つのカテゴリー上段の2つ、「狭い集中」に関して使われます。一方、「フォーカス」は、たとえばサッカーなどの球技で、刻一刻と戦況が変わり展開の予測ができないような状況において「広い集中」が必要なときによく使われます。
どうして集中力が途切れるのか
集中力が途切れて注意が乱される要因としては、内的な要因と外的な要因があります。
内的な要因としては、心配や不安などネガティブな感情、疲労、飽きなどが挙げられます。
外的な要因としては、楽器の不調、会場の雰囲気、気温、演奏のパートナー、審査員や聴衆など周りの目が気になるなどが挙げられます。
こういった要因によって集中力を途切れさせないためには、トレーニングによって集中力のコントロール力を高める必要があります。
次回の記事では具体的に、どのように集中力を高めていくかという方法をお伝えしていきます。
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