こんにちは! 主に吹奏楽に関する記事を執筆している、コントラバス奏者の井口信之輔です
みなさんは、日本が世界有数の吹奏楽大国だということを知っていますか?
部活動、サークル、市民吹奏楽団、近年ではインターネットを通して参加者を募り吹奏楽を楽しむ演奏会企画などが立ちあがり、今、日本の吹奏楽人口は120万人を超えると言われています。
全日本吹奏楽連盟の加盟団体数は14,169団体(2016年10月1日現在)。毎年夏になると、全日本吹奏楽コンクールが開催され、各地で若き音楽家たちによる熱い演奏が繰り広げられています。
今回は、夏休み特集ということで夏の風物詩、全日本吹奏楽コンクールにスポットを当てていきたいと思います。
全日本吹奏楽コンクールって?
全日本吹奏楽コンクールは6月下旬から全国各地で地区大会が開催されています。部門は大きく分けて4つあります。
- 全国大会まで繋がるA部門(大編成)
- 東日本吹奏楽大会へ繋がるB部門(小編成)
- 人数制限のない部門(地区や県大会のみ)
- 各都道府県独自の部門
A部門は吹奏楽連盟から発表される課題曲と自由曲、その他の部門は自由曲のみを演奏します。
自由曲は、各校が自分たちの持ち味を生かした選曲をしますが、主に吹奏楽オリジナル作品やオーケストラの編曲作品が演奏されることが多いです。
少し前までは、バレエ音楽「ダフニスとクロエ」や「シバの女王ベルキス」、交響詩「ローマの祭」などオーケストラ作品を吹奏楽の編成で演奏できるように編曲されたものが多く演奏されていましたが、近年では邦人・海外の作曲家の吹奏楽オリジナル作品がプログラムに並ぶようになりました。
Twitterのアンケートで今年の吹奏楽コンクールの自由曲は? と聞いてみたところ、こんな結果に。
2018年度吹奏楽コンクールで取り上げた自由曲、次のうちどれだった? #吹奏楽
— 井口 信之輔♩コントラバス (@igu_shin) August 10, 2018
特に、ここ数年で誕生した新作(初演含む)が多く演奏される傾向にあります。
新しく生まれた作品に出会えること、そして新作初演の場に聴衆として立ち会えるのも吹奏楽の魅力のひとつですが、その一方で時代の流れとともに近年ではあまり演奏される機会が少なくなった作品があることも確かです。
今回は、そんな名曲の数々を紹介していきたいと思います!
時代を超えて愛される吹奏楽の名曲
インヴィクタ序曲/ジェイムズ・スウェアリンジェン(1947-)
インヴィクタ序曲
キラキラとした吹奏楽の響きで幕を開けるインヴィクタ序曲は、吹奏楽界に多くの作品を残しているアメリカ合衆国の作曲家ジェイムズ・スウェアリンジェンが1981年に作曲した吹奏楽作品。
スウェアリンジェンの作品には、アマチュア音楽家やスクールバンド(吹奏楽部)の学生たちが無理なく演奏できるように書かれている作品が多く、親しみやすいメロディ、理解しやすい構成となっています。
吹奏楽部に入部してはじめて演奏したのがスウェアリンジェンの曲だった! という人も多いのではないでしょうか。
海の男たちの歌(船乗りと海の歌)/ロバート・W・スミス(1958-)
海の男たちの歌(船乗りと海の歌)
アメリカ海軍バンドの委嘱により1996年に作曲された比較的新しい作品。同年12月にシカゴで開催されたミッドウェスト・クリニックで初演され、日本では1998年に土気シビックウインドオーケストラや市立柏高校吹奏楽部が全日本吹奏楽コンクールで演奏したことをきっかけに、爆発的なヒットとなりました。
曲は3つの場面から構成されています。
- シーシャンティ(Sea chanty)
シーシャンティとはは船乗りの歌のこと。波の音を再現したオーシャンドラムのあとにトランペットとホルンが柔らかい旋律を歌い上げ、聴こえてくる鐘の音は出港の知らせでしょうか。
その後は大海原へと進んでいくようなアップテンポの音楽へと変わり、豪快に鎖をジャラジャラと鳴らす音も登場します。
- くじらの歌(Whale Song)
場面が変わって夜の静かな海では打楽器セクションによってくじらの鳴き声が再現されます。
静かな夜の海で奏でるユーフォニアムのソロ、そしてピアノ伴奏をバックに奏でるオーボエのソロはこの曲の聴きどころ。
くじらは海で、何を歌っているんでしょうね。
- ヤンキー・クリッパーの航海(Racing the Yankee Clipper)
ヤンキー・クリッパーは、19世紀初頭からアメリカが誇る快速帆船。
勇ましいファンファーレのあとはシーシャンティ(Sea chanty)で提示されたテーマが再び顔を出し、豪快に、パワフルに駆け抜けていきます。
呪文と踊り/ジョン・バーンズ・チャンス(1932-1972)
呪文と踊り
ジョン・バーンズ・チャンスは、オーケストラのティンパニ奏者として在籍後、第4第8アメリカ陸軍軍楽隊アレンジャーとして活躍していたが、40歳を前に自宅で感電事故に遭い人生の幕を閉じてしまったアメリカ合衆国の作曲家。
「呪文と踊り」はチャンスの代表作のひとつで、日本では1970年ごろから全日本吹奏楽コンクールや各地の演奏会で取りあげられるようになった作品。
「呪文」と「踊り」に別れた2部構成の楽曲で、曲はフルートのソロからはじまり息の長い不気味なフレーズを木管楽器が歌いあげ、打楽器セクションの提示するリズムでエキサイティングな「踊り」のシーンへと移行します。
大草原の歌/レックス・ミッチェル(1929-2011)
大草原の歌
アメリカ合衆国の作曲家レックス・ミッチェルは。サクソフォーン、クラリネット、キーボード奏者でもあり。クラリオン大学の音楽教育名誉教授としての音楽教育全般に関わったり、吹奏楽、ジャズバンドや合唱の指導者としても活躍していました。
作品は主に吹奏楽作品が有名で「大草原の歌」はミッチェルの代表作のひとつ。大草原とは北アメリカ大陸中央部に広がる温帯草原をイメージして描かれた緩急の二部形式の作品です。「曲の解釈は人それぞれに委ねられるべき」という考えをもっていたようで、本人の解説はほとんど残っていません。
みなさんは、この曲を聴いてどんな世界を思い浮かべますか?
吹奏楽のための「神話」〜天の岩屋戸の物語による/大栗裕(1918-1982)
神話
「神話」は今年(2018年)に生誕100年を迎える日本の作曲家・大栗裕が作曲した作品で、吹奏楽版(1973年作曲)と、管弦楽版(1977年作曲)に分かれています。
この曲は「天岩屋戸の物語による」という副題が付けられており、天岩戸における「岩戸隠れ」の神話(太陽神である天照大神が身を隠し、世界が真っ暗になったお話)を基づく交響詩的な作品。
長らく絶版になっていたが、2013年に原典版が出版され、再び注目を浴びる作品のひとつとなりました。他にも「大阪俗謡による幻想曲」や「仮面幻想」など長年にわたり演奏され続けた曲は、吹奏楽が好きなら一度は聴いておきたい作品です。
アルメニアン・ダンス パート1 /アルフレッド・リード(1921-2005)
アルメニアン・ダンス パート1
アフレッド・リードはアメリカ合衆国の作曲家、指揮者。特に吹奏楽の世界では20世紀を代表する吹奏楽の音楽のひとりとして知られています。
日本で最初にリードの曲が演奏されたのは1965年の第13回全日本吹奏楽コンクールだと言われており、大学・一般部門の課題曲に「シンフォニック・プレリュード」が選ばれ、自由曲として高知県の高校が「音楽祭のプレリュード」を演奏したという記録が残されています。
こうして吹奏楽コンクールによってリードの作品が日本で知られるようになり、20世紀を代表する作曲家が残した吹奏楽作品の数々は今なお色あせない名曲として、多くの吹奏楽ファンに愛されています。
そんな名曲のひとつが「アルメニアン・ダンス パート1」。アルメニア音楽の父と呼ばれるゴミタス修道士が収集した民謡や、作曲した5つの曲がメドレーのような形式で演奏され、ひとつの作品となっています。今回は、その源流となる5つの曲をいろいろなジャンルで紹介します。
Tzirani Tzar 「杏の木」
冒頭の輝かしいファンファーレは、原曲をそのまま用いています。
Gakavi Yerk 「ヤマウズラの歌」
原曲はゴミタス自身が作曲したオリジナル曲で、はじめは独唱と児童合唱のもの。
Hoy, Nazan Eem 「おーい、僕のナザン」
ある若者が恋人ナザンの名を称えて歌った愛の歌。「アルメニアン・ダンス」では8分の5拍子で書かれていますが、原曲の拍子は8分の6拍子。
Alagyaz 「アラギャズ山」
原曲はゴミタスが作曲した、アルメニアにあるアラギャズ(アラガツ)山について歌った民謡。ピアノ伴奏付き独唱曲として生まれ、後に合唱曲に編曲されました。
Gna, Gna 「行け、行け」
原曲は、ゆったりとした「水瓶(みずがめ)」と、軽快で胸躍るような「行け、行け」を交互に歌っていました。アルメニアン・ダンスは「行け、行け」のみ使用されており、原曲の何度も同じ音形が出てくる場面は笑い声を音楽的に描いています。アルメニアン・ダンスでは最後に一番盛り上がるシーンですね。
これぞ吹奏楽!
吹奏楽コンクールを盛り上げてきた名曲、あなたはいくつ知っていましたか?
ここで紹介した作品はほんの一部、まだまだ紹介したい作品はたくさんあります。
次回は、後世に伝えたい! 聴き手を魅了し続ける吹奏楽の「古典的」作品と知ってる? 世代を超えて愛される作曲家たちの隠れた名曲をお届けします。
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