音楽家・音大生のみなさんは「音楽鑑賞教室」の講師 or ゲストとして、幼稚園や小中学校で演奏することがあると思います。
こういった演奏形態は「アウトリーチ」とも呼ばれ、プログラム構成や演出に独特の工夫が必要です。
アウトリーチとは…
《「手を差しのべること」の意》
劇場や美術館などが館外でおこなう芸術活動。自ら劇場などに出向かない人々に対し、芸術に関心をもたせることを目的として、出張コンサートやイベントなどをおこなうこと。
出典:デジタル大辞泉
今回はこういった本番で考えたいことをまとめました。わたし自身はそれほど多くの学校に伺ったわけではありませんが、演奏家として学校で演奏した際の経験と、音楽科の教職課程を修了した観点から記してみます。
どんなことをしたらいいの?
アウトリーチの目的は、音楽に興味・関心を持ってもらうこと。そのために、多くの人が耳にしたことがあるようなメジャーナンバーから本当の名曲の紹介、また楽器そのものの魅力を伝える工夫や、客席参加型の時間を設けられれば、バランスの良いプログラムが組めると思います。
多くの人になじみのある曲で始めるのは、お客さまの耳を慣らすためのひとつの作戦。「ああこれ知っているなぁ、聴きやすいなぁ」というところから入ることで、この音色がヴァイオリンだったんだ、フルートってこの音を出す楽器だったんだ、と気づいてもらうこと、そして音楽を聴くモードになってもらうことがねらいです。
また「体験コーナー」を入れることは、音楽教育つまり先生側から見ると非常に重要です。というのも、先生方は日頃から“鑑賞すること”と“実際に演奏すること”を授業内でどのように結びつけるか考えながら指導計画を立てています。いま自分がこの手で出した音が「音楽」になる、ということを体感してもらえたら、音楽をもっと身近に感じられるのではないでしょうか。
特に低学年のお子さんだと、同じ姿勢で長時間にわたり集中力を持たせるのはなかなか苦しいですよね。体験という能動的な活動を挟むことで全体の構成に緩急ができれば、気分転換にもなります。
具体的なプログラム構成は?
さて「ねらい」はわかったけれど、実際に何を演奏したら良いのかな、と思いますよね。ここからは具体的にそのプログラムを考えていきます。
つかみはOK? 楽器解説もしよう
まずは先述のように聞き馴染みがある曲で始めるケースが多いわけですが、クラシック系ならエルガーの『愛のさいさつ』はかなり鉄板。もはや多すぎて変化を入れたくなってくる頃ですが、多くの人の耳に記憶されているのもまた事実。
またNHKの朝の連続テレビ小説のテーマ曲や大河ドラマの曲もオープニングらしい選曲。特に話題性の高い『あまちゃん』『とと姉ちゃん』『真田丸』あたりは盛り上がります。ウケる曲はもちろんプログラムの終盤で入れるのも有効ですが、つかみは肝心なので 1 曲目は“聴かせる”曲を選びたいところです。
会場が少し温まったら、少しずつクラシック成分を上げていっても大丈夫。必ず入れたいのは、自分の楽器が生きる曲。曲の前にMCで楽器の歴史や音が鳴る仕組みを簡単に説明しつつ楽器の特徴を伝えた上で、その音色や奏法がわかりやすく聴こえる曲を入れましょう。
ピアノならショパンのワルツやドビュッシーの小品も楽しいですね。ヴァイオリンならクライスラーあたり。以前金管楽器とアウトリーチに出かけた時には、イウェイゼンの曲が金管のアウトリーチ鉄板だと教わりました。その楽器の演奏家でもあった作曲家の曲はとりわけその楽器を聴かせることに長けているのでオススメです。
名曲と自分のオススメ曲
そしていわゆるクラシックの名曲もプログラムに組み込みましょう。というのも、そういった曲は音楽の教科書に出ていたりして、生徒児童も一度はCDで聴いている可能性が高いからです。生演奏で聴ける経験は何物にも代え難いので、パートは多少編曲してでも入れましょう。たとえばブラームスのハンガリー舞曲やヴィヴァルディの四季、シューベルトの魔王やチャイコフスキーのくるみ割り人形または白鳥の湖など。
あまり知らない曲が続くと疲れてしまうお子さんもいるので、適度にディズニーやジブリを挟むのも良いと思います。そしてわたしが心がけているのは、1 曲は「隠れた名曲」を入れること。知っている曲ばかりでは結局「クラシックを広める」ことにはならないと思うのです。あまり知られていない曲も、その場で盛り上がることもあります。有名な曲とうまくサンドイッチしながら自分の好みをスッと入れることで、自分にしかできないプログラムができるのではないでしょうか。
なおアンコールは情熱大陸がとっても人気。手拍子も入れやすいし、アツいし、会場と一体になれる音楽なんですよね。もし情熱大陸をプログラムに入れるなら、ぜひ本番前に葉加瀬太郎さんのライブの様子を見てみてください。あの一体感、エンターテイメイント性、すごいので。
客席に参加してもらうには…?
上記のようなプログラムの中にぜひとも挟み込みたい、客席と舞台との交流。その方法は問いかけやクイズといったMCの工夫によるものと、手拍子などで演奏に加わってもらう方法があります。
その内容については……今日は長くなったのでまた今度。次回、客席と舞台の距離の縮め方を考えてみたいと思います。どうぞお楽しみに!
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