卑弥呼のバッハ探究13「無伴奏パルティータ第2番 サラバンダ」

こんにちは、ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。

立秋が過ぎても残暑とは名ばかり、今年は世界的に暑さが異常です。ヨーロッパ諸国ではその高温ゆえに山火事も起こっているということで、「地震雷火事親父」に「熱」も加えるべきではないかと思い始めています。

災害並みの高温がおさまることを祈るべく、本日の曲・サラバンダにまいりましょう。

サラバンダ、実は中米由来?

おそらく、フランス語の “サラバンド” のほうが単語に耳馴染みのある方が多いと思います。この舞曲の起源はかなり古く、一説によると16世紀には中米でこの踊りの存在が確認できているのだとか。その後の大航海時代に、アメリカ大陸やカリブ海諸国を巡ったスペイン船によってこの踊りは欧州へと渡ります。

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特徴はゆったりとした、足をするような付点のリズム。楽曲は基本的に3拍子で書かれます。ヨーロッパに広まった当時は、その振り付けがあまりに色っぽかったために一時は公共の場でこの踊りは禁止されたそうですが、人というのは禁じられるともっとやりたくなるというもの。禁止令の甲斐なくこの踊りは普及し、のちにバロック・ダンスのスタンダードピースとなりました。

横の線をたしかめる

この曲を弾くに当たってのポイントは、和音の扱いでしょうか。特にサラバンダは1拍目と2拍目に重さを置く曲なので、和音で重めに鳴らしたあとで、3拍目をバランス良く流していくのが肝になると思います。

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この手の和音を弾くときに起こりがちなのが、拍の長さの迷走。ヴァイオリンという楽器は3つ以上の和音を弾く際は、楽器の特性上どうしても「じゃららん」とバラさないと鳴らせません。たとえば「じゃららん」とバラした和音の最後に鳴らす音が旋律を担っていたら、その音が耳に入った瞬間から拍をカウントしないと短く聞こえるものですが、弾き手はついつい和音の一番下の音から拍を感じてしまい、その結果聞き手に「拍の長さの居心地悪い」という印象を与えてしまいます。

そんなとき、まずは和音を取り除いて、主旋律だけをなぞって弾いてみると、“聴かせたい音”が何であるのか、自分の中で整理できると思います。理想像を自分の中で明確にすることは、ゴールへの近道です。

縦の線を感じる

では旋律に対して和声はどのようなはたらきをしたらよいのでしょうか。わたしは絵を描くことが趣味なのですが、ときに音楽で行き詰まったときは、絵にアイデアを求めます。和音と旋律というのは、絵画で言えばどちらかが輪郭でどちらかが色だと思うものの、しかしどちらを何にすべきか、わたしはまだ迷っております。

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音楽の枠組みを示すという意味では和声は輪郭とも言えるでしょうし、一方で和声の移ろいは色のグラデーションそのものだとも思います。ただいずれにしろ言えるのは、片方だけでも存在できるけれど、融合するとより美しいということ。お互いの存在がお互いをより引き立てるものであるべきだと思います。

和声の場合は、その進行が音楽の緊張と弛緩を作っているので、これを無視して旋律を奏でると聞き手には何かしら不自然な印象を与えます。そういう意味では和声を色ということができるのかもしれませんね。

ちなみにこの動画は屋外で撮影したため、演奏中は自分の羞恥心との戦いに。一発撮りでキメようとしたところ、背景にしたモニュメントから蒸気が噴き出してきてあっけに取られました。わたしは真顔のままですけれど、内心相当驚いています。

組曲の中でもっとも古い曲

古典組曲(パルティータ)というのは大概、アルマンド・クーラント・サラバンド・ジーグの4曲をベースに、ときにガヴォットやメヌエットなどほかの踊りを挟んだりして構成されます。並べると今回扱ったサラバンドが組曲のセットリストの中ではもっとも歴史が古いナンバーだと言えます。

ゆったりとした曲調が、どこか哀愁や懐古といった単語を連想させる気がするのはわたしだけでしょうか。ちなみに今後登場することになるパルティータ第1番にもサラバンドがあるので、そちらもぜひ聴き比べてみてください!

それでは次回はジーグとともにお会いいたしましょう。こちらもおもしろいロケーションで撮影したので、どうぞお楽しみに!

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栃木県出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程修了、ディプロマ・オブ・ロイヤルアカデミー、ドリス・フォークナー賞を受賞。2018年9月より同音楽院博士課程に進学。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。