こんにちは! コントラバス奏者、吹奏楽指導者の井口信之輔です。今回は引き続き夏の風物詩、全日本吹奏楽コンクールにスポットを当てて、吹奏楽の古典的作品をお届けします。世代を超えて愛される作曲家たちの名吹奏楽曲をお楽しみください!
前回▷夏休み特集① 吹奏楽コンクールで演奏されてきた、今もなお色あせない名曲
後世に伝えたい! 吹奏楽の「古典的」作品
吹奏楽のための第一組曲、第二組曲/グスタフ・ホルスト(1874-1934)
吹奏楽のための組曲は、グスタフ・ホルストが作曲した作品。1909年に書かれた第一組曲と1911年に書かれた第二組曲という2つの作品があります。
ホルストといえば代表作・組曲『惑星』で知られている作曲家ですが、吹奏楽作品も多く作曲していて、それらは吹奏楽の古典的分野で重要なレパートリーとなっています。
世界の吹奏楽に多大なる功績を残してきた指揮者・フレデリック・フェネルも「もし、このスコアを真に理解したなら、それは音楽と指揮というものすべてを理解したのと同じだ」と述べたというエピソードが残されています。
吹奏楽のための第一組曲
第一組曲が書かれたのは、組曲『惑星』が作曲される約5年前のこと。全3楽章構成で、各楽章に出てくるテーマは、第1楽章の冒頭に顔を出すテーマから派生したものです。
洗足学園音楽大学が発信している演奏動画、指揮者はアルヴァマー序曲や第3交響曲など、数々の作品を生み出した吹奏楽界の巨匠ジェイムズ・バーンズです。
吹奏楽のための第二組曲
1911年に作曲された第二組曲は、当初現在の第3楽章「鍛冶屋の歌」を除いた全3楽章構成の曲でしたが、1922年に改定がおこなわれました。各楽章はイングランドの民謡、舞曲に基づいており、第4楽章「ダーガソンによる幻想曲」では、グリーンスリーヴスが顔を出します(聴きどころ!)
この第4楽章は弦楽合奏のために書かれた『セントポール組曲』の終楽章に転用されています。
リンカンシャーの花束/パーシー・グレンジャー(1882-1961)
リンカンシャーの花束は、オーストラリアの作曲家パーシー・グレンジャー1937年の作品。
全6楽章からなる曲で、グレンジャーがイングランド東部のリンカンシャー地方を訪れた際に採取したメロディが使われています。親しみやすいメロディが印象的ですが、不規則なリズムや変拍子が多用され、楽譜にはかなり細かく指示が書かれています。
ホルストの吹奏楽のための組曲に並び、吹奏楽の古典的作品として重要な作品となっており、音楽大学の授業でも取り上げられることも多い作品です。
マーチ『雷神』/ジョン・フィリップ・スーザ(1854-1932)
世界のマーチ王と呼ばれたジョン・フィリップ・スーザはアメリカ海兵隊軍楽隊の隊長に就任してから数多くのマーチを生み出しました。スーザが生み出したマーチは100曲を超え、その躍動感あふれる音楽は世界で愛され演奏され続けています。
オーケストラの定番アンコールがワルツの父・ヨハン・シュトラウスの『ラデッキー行進曲』だとしたら、吹奏楽の定番アンコールはマーチ王・スーザの『星条旗よ永遠なれ』が挙げられるでしょう。
今回紹介する雷神も、スーザの作品の中で最も知られている曲のひとつ。実は東京ディズニー・シーでも流れているんですよ!
シンフォニア・ノビリッシマ/ロバート・ジェイガー(1939-)
シンフォニア・ノビリッシマは1963年に結婚したジェイガーの妻に捧げられた作品で、中間部の優雅でロマンティックな旋律が印象的。邦題は『吹奏楽のための高貴なる楽章』となっており、金管楽器が高らかに歌い上げる序奏を経て急→緩→急と三部形式で書かれています。
近年では演奏される機会が少なくなってきたように思いますが、ライブで聴きたい古きよき作品。1970年代の吹奏楽コンクールを盛り上げた一曲でもあります。
何曲知っている? 筆者のおすすめする隠れた吹奏楽の名曲
吹奏楽のための序曲/フェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847)
メンデルスゾーンはドイツ・ロマン派の作曲家。オーケストラ作品を多く残し、その作品の数々は死後150年近く経った今も、多くの音楽家によって演奏され続けています。
普段、あまりクラシック音楽を聴かない人も「結婚行進曲の作曲者」と言えばピンとくるでしょう。そんなメンデルスゾーンも吹奏楽のための作品を書いています。
1824年の夏、15歳のメンデルスゾーンが父や妹とともに旅行へ行った際に、同地の吹奏楽団のために作曲したのがこの曲の原型。当時は11人編成で「ノクターン(夜想曲)」となっていましたが、最終的にはハルモニームジークと呼ばれた管楽合奏の形態となり、23本の管楽器と打楽器の編成となりました。
現代の吹奏楽編成に合わせた編曲もされており、ドイツ・ロマン派の作曲家が残した数少ない吹奏楽作品となっています。
序奏付きのソナタ形式で書かれたこの曲の持つ、活気溢れる音楽と様式の美しさを、ぜひ一度聴いてみてください。
第4交響曲/ジェイムズ・バーンズ(1949-)
前回紹介したアフレッド・リードに並び、吹奏楽の世界を代表する作曲家ジェイムズ・バーンズが作曲した4作目の交響曲。
バーンズの交響曲といえば「苦悩から歓喜」へという伝統的な図式で書かれた第3交響曲が有名ですが、この第4交響曲も本当におすすめしたい、隠れた名曲だと感じています。
第4交響曲は1999年に作曲されたオーケストラのために書かれた作品で、管弦楽版が書かれた後に作曲者本人により吹奏楽アレンジされたものです。そのため、作品番号103a(管弦楽版)と103b(吹奏楽版)があります。
全3楽章からなる作品ですが、3楽章は単一曲の吹奏楽作品だったという説もあります。
第1楽章 イエローストーン川の夜明け
作品の表題は「イエローストーン・ポートレイト」
世界遺産で世界最古の国立公園であるイエローストーン国立公園がテーマになっており、第1楽章はイエローストーン川の夜明けを描いています。
夜明け前の薄暗さ、不気味さを感じさせる音楽は、徐々に陽が昇るような広がりを見せていきます。どこまでも広がる壮大な自然を描写した美しいメロディが印象的な楽章です。
第2楽章 かもしかのスケルツォ
かもしかとは、イエローストーン国立公園に生息するプロングホーンのこと。体長約150cm、北米大陸最速といわれる俊足を持ち、時速80キロ近いスピードで駆け回る動物だそうです。
頭の上にビックリマークがついたかのような特徴的な冒頭のあとは、技巧的な上行系の音符。その後の一瞬の静けさからの強奏は、大自然の中トップスピードで一斉に駆け抜けるかもしかたちの姿が想像できます。
第3楽章「インスピレーション・ポイント」
元々、吹奏楽曲として書かれた第3楽章。絶景が広がる滝や渓谷の風景が描かれています。
輝かしいトランペットのファンファーレにはじまり、第1楽章で提示されたテーマが再び顔を出しながら壮大な世界を描くフィナーレへ。この曲を初めて聴いたときの衝撃・感動は未だに忘れません。
バーンズの吹奏楽作品の中ではあまり演奏されない作品ですが、もっと多くの吹奏楽ファンにこの曲を知ってもらいたい! と心から思える一曲です。
来年の自由曲候補や、定期演奏会のプログラムにいかがでしょうか。
お気に入りの一曲を探してみよう
吹奏楽が大きな発展を遂げた20世紀を代表する古典的作品も、歴史に名を刻む作曲家たちが残してきた隠れた名曲も、ここで紹介したのはほんの一部です。
コンクールに向けてがむしゃらに頑張っているときは、目の前の課題曲で精一杯だと思いますが、今の時期だからこそゆっくりといろんな作品を聴いてみて、お気に入りの名曲を見つけ出してほしいと思います。
そして吹奏楽への理解を深めたり、来年に向けてモチベーションを再びあげていったりと、有意義にこれからの季節を過ごしてください。
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