【後編】「ハノンをアップデートせよ!」ハノンを音楽的に練習する方法

本コラムは、ハノン生誕200周年を記念して、ピアニストの佐野 主聞(さの しもん)さんにご寄稿いただいた記事「ハノンをアップデートせよ!」の後編です。

▶︎【前編】「ハノンをアップデートせよ!」楽譜を音楽的に読む方法


改めまして、こんにちは。ピアニストの佐野 主聞です。

前編では、やみくもにハノン教本に取り組む危険性と、楽譜を音楽的に読む方法について解説しました。今回はいよいよ、ハノンの効果的な練習法についてご紹介します。

「ハノンは音楽的ではない」は間違い

「練習曲は指のため」と割り切って練習してしまうと、結果的にそれが音楽的に弾くことを邪魔してしまうということは、前編で解説した通りです。

【どうやって弾くか】という方法論は人それぞれあってもよいと思いますが、演奏をする上で【なぜそう弾くのか】という根本的な考え方として、

リズムとメロディーとハーモニーを歌として感じること

これが大切。リズム・メロディー・ハーモニーの3つの要素を感じることができれば、どんな曲でも音楽的に弾けます。

ハノンさん自身が指のことばかり書いてしまっているため、それを見た私たちが「音楽的ではない」と批判することは簡単なのですが、この記事で書いてきた通り、音楽的に楽譜を読むことができれば、音楽的にハノンを弾くことが可能です!

ハノンで「音階練習」

たとえば、39番の音階について。上行・下行のメロディーですが、音が上がっていくにつれて自分の中のエネルギーが増す、音が下がっていくにつれて自分の中のエネルギーが収まるのを感じますよね。ここに感情をのせることによって、自然と音の強弱がつき、演奏に表情がつきます。

また、軽視してはいけないのが終止形の部分。子供の頃はついつい、「終わったー!」という感じで雑に弾いてしまいがちかもしれませんが、各ハーモニーのエネルギーやテンション、色を考えることで、演奏は少なからず変化します。特に同音連打の部分は音色を変えることで説得力が増します!

動画で実演しています。

私が音階を練習するときは、音階単体で練習することはなく、そのとき自分が弾く曲の調の音階と終止形を弾くという感じで練習しています。

ハノンでリズム練習

ハノンにはこうしたリズム練習が、おびただしいほど用意されています。これをやって楽しい人にはよいですが、楽しくない人にとっては苦痛でしかないですよね。私自身、全部やったものは数えるほどしかありません!(笑)

私は、「リズム練習によって歌うことを忘れて機械のように弾いてしまうくらいなら、リズム練習をしない方がよいと思っている派」の人間です。リズム練習は確かに指の支えを作ったりするにはある程度役に立ちますが、それによって歌うことを忘れてしまったら本末転倒です。

逆に、「歌として扱えるならリズム練習をやってもよい」と思います。音階練習同様、自分の中のエネルギーの増減を感じながら演奏しましょう。こちらも、実演はぜひ動画で確認してください。

なお、リズム練習における私のおすすめは、逆付点練習を先におこなうこと。16分音符への意識が高まり、転びにくくなると考えています。

頭・体・耳の関係性

最後にもう一点、ピアノを弾くにあたって重要な視点についてお話します。

ピアノというのは、「頭、体、耳を総動員して弾くものだ!」ということは前編にてすでに言及しましたが、改めて “ピアノを弾く” という作業の手順を言語化してみましょう。すると、

  1. 自分の理想の音をイメージする(頭)
  2. 弾く(体)
  3. 弾いた音が自分の理想かどうか聴く(耳)

という3つのステップになるかと思います。

しかし、最初の音を弾く前は頭でイメージできますが、その音を弾いたと同時に聴いているし、次の音のイメージもしていますよね。ということは、この3つの手順は順番にするというより同時にすることになります。

めちゃくちゃ複雑! ですが、この3つを統合して初めて、演奏として人に何かを伝えることができるのです。このイメージをもっておくことで、練習はより充実したものになります。

まとめ

ハノンを音楽的に弾くための考え方の部分にフォーカスして書きましたがいかがでしたか?

最後にもう一度まとめると、

  • 指を動かすためだけにハノンピアノ教本を使うのは危険!
  • その危険は、音楽的な楽譜の読み方を知ることで回避可能!
  • どんな曲でも音楽的に弾くことができる!

とても長い文章になりましたが、読んでくださりありがとうございました!


佐野 主聞(さの しもん)

東京藝術大学・学部卒業、修士終了後、2年半の社会人生活を経てイスラエルに留学。 ピアノとぷよぷよと麻雀をこよなく愛する人間。 マクロ管理法と筋トレで10kgの減量に成功したが、今は痩せすぎたので健康的な増量を目指している。 夢は、演奏会ができる猫喫茶を開くこと。猫喫茶の奥には、雀卓とビリヤード台、更にサロンと録音設備も完備…が理想。

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