音楽家のためのメンタルスキル①「目標設定」

こんにちは。ドイツ、ハレ在住のピアニスト・ピアノ教育者の大木美穂です。

連載「音楽家のためのメンタルトレーニング」第6回目となる今日は、前回紹介した音楽家のためのメンタルスキルの1つ目、「目標設定」を掘り下げて見ていきましょう。

目標設定とは

みなさんは音楽の目標設定をしていますか?

目指す場所がどこなのかを理解することは、山登りをするときも、旅行先のどこかある場所に向かうときも大事ですよね。

それは、音楽でも同じ。

自分は音楽でどうなりたいのか、どこに向かいたいのかを知ることで、今やるべき練習の意味もわかり、やる気と集中力がUPします。

どうやって目標を立てたらよいか

とはいえ、「どうやって目標を立てたらよいかわからない」という方へ、目標設定のポイントをお話しします。

まず大事なのは、ただ漠然と目標を立てるのではなく、長期・中期・短期目標を立てること。そして、できるだけ具体的に目標を立てること。たとえば、

  • 「コンクールに出たい」(いつ? どのコンクール? そこでの目標は?)→「今年は◯◯コンクールに出場して賞をとる」
  • 「この曲をもっと上達させる」(上達だけだとあいまい)→「この曲を今月中にここまで暗譜で弾けるようにする」
  • 「もっと人前で演奏する」(もっとってどれくらい?)→「半年後までに人前で5回演奏する機会を作る」

など。数値化できるところは数値化して、できないところも、「もっと」などあいまいな言葉ではなく、自分の言葉を使って具体的にどうしたいのか考えるクセをつけましょう。

また、「間違えない」「悔いを残さない」など、「〜しない」という否定的な言葉を使うのではなく、肯定的な言葉を使うこと。

脳は、「〜ない」という否定的な言葉の処理が苦手です。「ピンクの象を想像しないでください」と言われると、自動的にピンクの象を想像してしまうというお話が有名な例です。

目標設定はイメージトレーニングとも密接に関わっており、目標を立てるプロセスの中で、自分のやりたいことや達成したいことを具体的にイメージできればできるほど効果大。

どうしたくないかではなくて、どうしたいのかにフォーカスを当てるようにしましょう。

目標設定用紙を使ってみよう

さて、どうやって目標を立てたら効果的かがわかったところで、次はいよいよ目標を立ててみましょう。まずは下の目標設定用紙を印刷してください。

クリックでPDFを表示→印刷

用紙の一番上から順に、「夢のような目標」「50年後の目標」「30年後の目標」…と順番に書いていきましょう。一文ずつでも良いので、なるべくシンプルに書いてください。

このとき、時間をかけようと思えばいくらでもかけられますが、タイマーを使って、10分〜15分などと制限時間を設けるとよいでしょう。

次に、それぞれの「課題目標」のところに、その目標を達成するために具体的に何をしたいかを書いていってください。

自分のやるべきことがわかっている人、普段から音楽における目標を意識して生活している人は、スムーズに具体的に書けたと思います。このような人も、定期的に目標設定をおこなうことで、自分の芯がブレていないことを確認することができるでしょう。また、定期的な目標設定は日々のやる気のバイブルにもつながります。

スムーズに書けなかった人は特に、この目標設定をすることで、自分が本当は何を目指しているのか、どうなりたいのかが、はっきりとしてきたはずです。

書き終えた後も、一番下から一番上まで一貫性があり繋がっているか、つまり、50年後の目標を達成するために30年後にすべきこと何なのか、未来に向かって今何をすべきなのかをチェックしてみてください。そして、短期から中期へ、中期から長期へとつながるよう、修正をしてみてください。

練習プランを立ててみよう

目標設定をしたあとは、練習プランを立ててみるのもおすすめです。以下に、練習プランを立てるときのコツをご紹介します。

  • 月曜日から日曜日までの練習プランを立てる場合、一日予備日を作る
  • 一日に3時間練習する人は、たとえば45分×4回に分けてみる
  • 休憩もプランに入れる
  • 実現できるプランを立てる
  • 途中で立てたプラン通りいかないと気づいたら、その都度修正していく

立てたプランがハードすぎて達成できないと、やる気も上がりません。休息もプランしつつ、実現可能なプランを立てて、小さな成功体験を積んでいくことを心がけましょう。

練習・本番の振り返りをする

目標設定をし、練習プランを立てたら、その達成度もその都度チェックするようにしましょう。

課題への取り組み、目標の達成度や自分の気持ち、体調など、自分自身を観察して記録することを、セルフモニタリングといいます。

日々の練習のセルフモニタリングをするとともに、本番後も記憶が新しいうちに自分がどう感じたことなどを記録しておくと、次の本番につなげることができます。

目標を立てて、やる気と集中力を高める

今日は、音楽家のためのメンタルスキル1つ目、「目標設定」のお話をしました。

私自身、留学を始めた頃、現実と理想にギャップを感じて焦り、全てをこなす時間がないと感じていたとき、この目標設定と日々の練習プランにとても助けられました。

自分は音楽でどうなりたいのか。何を達成したいのか。そのために今、何をしたらよいのか。

これらを自分に問いかけて、一歩一歩夢に近づいていきましょう。

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栃木県出身。3歳からピアノを始める。2010年、横浜国立大学音楽教育課程在学中に日本政府より奨学金給付を受け、ドイツ、エアフルト大学に一年間留学。2013年よりドイツ、ハレ在住。2017年、マルティン・ルター大学ハレ・ヴィッテンベルク器楽教育ピアノ修士課程を最高得点で修了。2019年よりエアフルト大学にて音楽教育科にてピアノとアンサンブルの授業を受けもち、後進の指導をしている。現在、ザクセン・アンハルト州より研究奨学金を受け、ハレ大学博士課程にて、スポーツ心理学を応用した音楽家のためのメンタルトレーニングについて研究中。ピアノ演奏、研究、ピアノ指導のかたわら、ドイツ語翻訳及び通訳、メンタルトレーニングコンサルタントをおこなっている。