こんにちは、初めまして。ドイツのハレ在住のピアニスト、ピアノ教育者の大木美穂です。
私は現在、ハレ大学の音楽教育科とスポーツ心理学科にて、音楽をする人のためのメンタルトレーニング研究をしています。COSMUSICAでは全15回(予定)に渡って、音楽をする人のためのメンタルトレーニングについてお話ししていきたいと思います。
メンタルトレーニングを研究するに至るまで
私がメンタルトレーニングについて研究を始めた背景には、何よりも私自身の、舞台における “あがり症” との付き合いがあります。
3歳でピアノを始めてから、発表会にコンクールやコンサートなど、さまざまな舞台を経験してきました。子どもの頃は全然緊張なんてせずにむしろ舞台に立つことを楽しめていたのに、中学生の頃から、舞台でのあがりに悩むようになりました。
はっきりといつから緊張するようになったかを述べるのは難しいのですが、私の場合は、中学生のときに出場した、とあるピアノコンクールでの失敗以降、特にあがるようになったということです。
曲を弾いていたのにも関わらず音楽とはまったく関係のないところに神経がいってしまい、完全に曲が止まってしまって前に進めなくなってしまったのです。そのときはもう一度展開部に戻って弾き直し、なんとか曲を終えることができましたが、それ以来、舞台で演奏することが急に不安になり始めました。
その「失敗経験」を境に私の本番での “あがり期” がスタートするわけですが、特に大学での試験や、ドイツ交換留学中のクラス試演会などではあがりもピークに。「こんなに練習しているのになぜ本番で実力が発揮できなくなるほどあがってしまうんだろう」と悩み始めるわけです。
結局それがきっかけで、音楽家の心理面に興味を持ち始め、音楽家のためのメンタルトレーニングをテーマにした修士論文をドイツのハレ大学で書き、今も博士課程でこの研究を続けているという経緯です。
私はこのテーマについて研究を始めた2013年頃から今に至るまで、自分でも自己分析をし、さまざまなスキルを身につけ、試して、今はまた本番を心から楽しめるようになりました。
あがる理由は、千差万別
私自身がそうであったように、あがりに悩んでいる人も、対策をとれば緊張をエネルギーに変えていくことが可能です。これから連載で皆さんにお話ししていくメンタルスキルは、後天的に学んでトレーニングすることができます。
そこでまず大切なのは、自分のあがり症を知ること。
私のように過去の失敗が引き金となり「また失敗したらどうしよう」という不安があがりを引き起こしていた場合もあれば、「周りの目が気になる」といった場合、「完璧に弾きたい」といった完璧主義が原因の場合、準備がまだまだ足りていない場合…など、あがりには様々な原因や理由があります。
まずは自分のあがりを自己分析し、あがりがどこからくるのかを知ることが大事な鍵となります。
もちろん、この時に専門家の助けを借りるのもひとつの手です。「あがり症」というテーマについては、次回もっと詳しくお話ししていきます。
なぜメンタルトレーニングなのか
スポーツの世界では、一流選手になるほど普段の練習にメンタルトレーニングを取り入れています。
日本のスポーツ界でのメンタルトレーニング第一人者である東海大学教授の高妻容一氏によると、メンタルトレーニングの目的は、試合で勝つとかうまくなるという競技力向上を目的に、メンタル面を強化することです。スポーツの世界では、「心・技・体」が重要と言われており、メンタル面というのは心理・精神・こころ・気持ちなどの「心」の部分を指します。
高妻氏は、技術・戦術・作戦などの身体技術面である「技」と、体力・栄養・身体的コンディショニングなどの体力面である「体」だけでなく、「心」の部分を日々の中でトレーニングしていくことの大事さを強調しています。
音楽でも、本番で実力を発揮するためには、ただやみくもに曲を練習するのではなく、コンサートやコンクールなど本番で弾くことを想定した練習が必要となります。
メンタルトレーニングを日々の練習に取り入れることで、これまで本番でのあがりに悩んでいた人も、緊張をエネルギーに変える術を共に身につけていきましょう。
次回のテーマは「あがり症」について
大切なコンサートやコンクール、試験などの際に、全く緊張しない、という人はいないと思います。しかし、緊張することとあがってしまうことというのは厳密には別物。
緊張をエネルギーに変えて実力を発揮できる人と、あがってしまって実力が発揮できなくなってしまう人との差はどこから来るのでしょうか。次回は、「自分のあがりはどこから来るのか」ということを見極めるために、あがり症についてもう少し詳しくお話ししていきたいと思います。
お楽しみに!
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