こんにちは、ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。
日本ほどは暑くないのですが、わたしの住むロンドンもそこそこ暑い日々です。自宅を含め、いかんせん冷房がない場所ばかりなので、スーパーマーケットで涼んで暑さをしのいでいます。
さて、本日はパルティータ第2番の2曲目・コレンテをば。軽やかな舞曲を聞けば、少しは涼しくなるでしょうか…。
疾走するコレンテ
コレンテとはイタリア語ですが、フランス語だとクーラントになります。そしてコレンテと呼ぶかクーラントと呼ぶか、言語によって舞曲のニュアンスが変わってきます。
もともとはどちらも「走る、流れる」を意味する言葉で、クーラントは遅くはなく、でも速すぎない “流れ” のある舞曲を指し、一方、コレンテはより “走る” というニュアンスが強く感じられる、速めの舞曲です。
この舞曲の大きな特徴は、三連符と付点のリズムの頻繁な入れ替わりです。ソルフェージュ的な言い方をすると、3分割系のリズムと2分割系の交代が起こるわけですが、この違いを示すために、付点は甘くならないほうがよいです。3分割と2分割、自分のリズム感覚のスイッチをきゅっと入れ替えるような感覚です。
流れていく調性
ところでコレンテという言葉の「流れ」という意味には、川の水の「流れ」のニュアンスがあるということを、以前書物で読んだことがあります。
そう考えると、ゼクエンツなどを通して調性が変わっていく様は、上流から下流に行くにつれて川沿いの景色が変化していく様子をイメージできる気がします。
音楽史を俯瞰(ふかん)すると、水にアイデアを得ている音楽は少なくないもので、有名どころだとヘンデルの『水上の音楽』やスメタナの『ブルタバ(モルダウ)』が挙げられます。『モルダウ』なんてまさに川沿線の景色の変化を描いた作品ですよね。
標題音楽である『ブルタバ』と違い、バッハのこの作品は絶対音楽なので、音楽に対して具体的に掲げられた象徵があるわけではありませんが、想像の中で物語を膨らませるのは、ありだと思いませんか?
音で形を描く
このような速いテンポの楽曲では特に、アーティキュレーションが大切です。一見同じ音価が並んでいるように見えても、スラーのかけ方でリズムを表現できるのです。
わたしはスラーのパターンが変わるところで、乗り物の車輪の向きを変えるような感覚を抱きます。それともスキーをするようだとも言えるかもしれません。いずれにしろ、走り続けたまま梶(かじ)の方向をきゅっと変更して、何か図形を描くような気持ちです。
いわば音を使ってお絵描きをするような…ちょっと共感覚にも近い話になってきましたね。わたしは共感覚はあいにく持ち合わせておらず、一度はその感覚を味わえたらどんなに興味深いだろうかと思っています。
音楽というのは聴覚を入り口にさまざまな五感を刺激できるもの、いや、音楽がよい音楽たるためには、いろいろな感性を呼び覚ますだけのインスピレーションを持つべきと考えます。
ほかのパルティータも見てみる
ちなみに、同じ無伴奏ソナタの本の中にコレンテがもう一曲あるので、ぜひ探してみてください。鍵盤のための『フランス組曲』には有名なクーラントがあるので、こちらも参照されるのがおすすめです。
わたしは小学生の頃から、練習の合間に、勉強と称して辞書を引いては関連のある言葉を調べたり、関連性のある別の曲を聴いてみたりする作業が好きでした。ときに “勉強” の度が過ぎては、台所から母の「いったい何10分サボってるの」という声が飛んできたものですが…。
まぁ実際のところ、弾くことに疲れたり飽きたりして辞書を手に取っていたので、それをサボりと呼ぶのは間違いではないです(笑)
それでは、次回はサラバンドとともにお会いいたしましょう!
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