こんにちは、ヴァイオリニストのハルカです♪
今まで洋画からクラシックをピックアップしてきましたが、今回は邦画からクラシックをご紹介したいと思います。
『彼岸花』(1958年)
『東京物語』で知られる小津安二郎監督が手がけた『彼岸花』は、1958年製作・公開の日本映画です。
あらすじ
大手の企業に勤める平山渉(佐分利信)は長女・節子(有馬稲子)の縁談を思案していた。すると突然、平山の会社に谷口と名乗る男(佐田啓二)が現れ、節子と付き合っていること、結婚を認めてほしい旨を告げてきた。平山は同期や仲間の娘の結婚には理解を示すものの、自分の娘の結婚については頑(かたく)なに反対する。
とき同じくして、平山の幼馴染で、京都の旅館で女将を務める佐々木初(浪花千栄子)も自分の娘の縁談に奔走していた。初はわざわざ都内へ出て、娘の縁談相手が医師をつとめる聖路加病院へ検査入院するのだった。
小津映画の「ミザンセヌ」
さて、小津監督といえば、映画にあまり馴染みのない方でもその名前を聞いたことがあるのではないでしょうか。「小津調」と称される独自の世界観を演出し、名作を多数生み出した映画界の巨匠です。
その魅力のひとつは、緻密に計算された配置演出。映画批評界では「ミザンセヌ*」なんて言いますが、人物の配置のバランスがとてもよく保たれており、額縁の枠組みのような構図が取られているのです。そのため、一種の写真のフレームのようにどのシーンを切り取っても美しいのですね。
しかも、写真であれば二次元ですが、三次元の映画では、高さや幅に加えて奥行きが加えられます。絶えず動く視覚的要素を流動的なものとして演出するために、小津監督の緻密な計算が光ります。シーンごとにうかがえる日本独特の社会的儀式とは反対に、登場人物の感情が波打ち、淡々とした生活の中で登場人物の個性や人間臭さが際立っているところが見所です。
アヴェ・ヴェルム・コルプス K.618(モーツァルト作曲)
今回ご紹介するのは、初が聖路加(せいるか)病院に検査入院するシーンで流れる曲です。直前の場面で初の娘・幸子(山本富士子)が窓の外を見ながら「ええお天気」とつぶやきます。そのあと快晴の下の聖路加病院のシーンへ切り替わります。
「アヴェ・ヴェルム・コルプス(Ave verum corpus)」とはラテン語で「めでたし 誠の御体」という意味で、カトリックのミサで用いられる、キリストへの感謝と賛美が歌われた聖体賛美歌のことです。
この曲はモーツァルトが妻であるコンスタンツェの療養で世話になった、合唱指揮者のアントン・シュトルのために 1791 年 6 月頃に作曲しました。混声四部合唱・ヴァイオリン・ヴィオラ・コントラバス・通奏低音(オルガン)という大変シンプルな編成で、たった 46 小節の中で 4 回も転調し、それに伴い曲の雰囲気も細かく変化していきます。一貫して静かで穏やか、そして厳粛な雰囲気にあふれており、モーツァルト晩年の傑作と言われるほどです。
儀式的とも言える静かな雰囲気の中に流れる曲として、モーツァルトの「アヴェ・ヴェルム・コルプス」というのは、非常によくマッチしていると思いました。
また、聖路加病院は東京に実在する病院で、アメリカの聖公会の宣教医師のルドルフ・トレイスラー博士によって創立されました。創立以来、キリスト教精神のもと医療と看護をおこなっています。そのような背景を踏まえてこの楽曲が使用されたのかもしれませんね。
今回は映像のことにも触れましたが、音楽との兼ね合いを考えて観てみるとまた違った視点から鑑賞ができますね。
次回もお楽しみに!
月元 悠
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