映画「北京バイオリン」で学ぶクラシック

こんにちは、ヴァイオリニストのハルカです♪

新生活に忙殺されかけて感情を失いがちな時期ですね。そんなときは映画を見て涙を流して心からスッキリするのもストレス解消法のひとつなのではないでしょうか?

今回ご紹介する映画は、何度観ても涙なしでは観られない作品です。

『北京ヴァイオリン』(2002年)

(日本語版がなかった…ごめんなさい)

チェン・カイコー監督による中国映画です。演奏の吹き替えはリー・チュアンユンというヴァイオリニストですが、主人公シャオチュン役のタン・ユンは実際にヴァイオリニストを目指す学生で、撮影当時は中国最高の音楽学府である北京中央音楽学院に在籍していました。

あらすじ
中国の田舎町で男でひとつで育てられたシャオチュン(タン・ユン)は、亡き母親の形見のヴァイオリンを巧みに奏でることができ、誰もが認める才能の持ち主だった。父親のリウ(リウ・ペイチー)と共に、一流のヴァイオリニストになるために首都の北京へ向かうが、都会で彼らを待ち受けていたのは純粋な音楽だけではなかった…。

シャオチュンは高名な教授に選抜され、国際コンクールへの出場が決まりますが、一方で彼の音楽資金を稼ぐために単身田舎へ帰る父親のことも気にかかります。そのシーンでシャオチュンが演奏するのが今日ご紹介する楽曲。個人的には、この映画の中でもっとも印象深いシーンだと思います。

ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35(チャイコフスキー作曲)

1878年にチャイコフスキーによって作曲された、ヴァイオリンと管弦楽のための協奏曲です。3大ヴァイオリン協奏曲(メンデルスゾーン、ベートーヴェン、ブラームス)にこの曲を加えて“4大協奏曲”とうたわれるほど有名な曲。日本では「チャイコフスキーのヴァイオリンコンチェルト」を略した「チャイコン」という通称でもおなじみです。

華やかな1楽章、憂いのある2楽章、エネルギッシュな3楽章、どこを取っても美しい旋律で、この曲を嫌いな人はいないのではないか、と思うほどです。ただ、作曲当時、チャイコフスキーはロシアの偉大なヴァイオリニストのアウアーに初演を依頼したところ、超絶技巧が散りばめられた楽譜を見たアウアーに「演奏不可能である」と初演を拒否されてしまいます。

その後も世間からは酷評が続きましたが、その価値を信じた歴史に残るヴァイオリニストたちが演奏し、のちにはアウアー自身も作品の魅力を見直して自ら演奏会に取り上げるようになります。この曲は彼らの努力によって次第に人々に受け入れられて、今日では4大協奏曲として名が挙がるまでに至りました。

音楽の道を志すことの葛藤を映画化

この『北京ヴァイオリン』という映画には、音楽の道を志す苦悩や困難、親子の間での葛藤などが全て詰められています。音楽家を目指すなら誰もが通る道がストーリー化されているので、ヴァイオリニストの私としてはこの映画を観て共感できるのはもちろんですが、「音楽家の人生とは…」としみじみ考えさせられる作品でもあります。

私が北京ヴァイオリンを観たとき、ちょうど音楽の道を志したい、と決心した時期でした。そのときにチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を聴いて、「いつかこの曲が弾けるようになりたい」と思い目標としたのです。この曲を聴くと、弾けるようになるまでに体験した挫折や悔しい想いや、それを乗り越えて頑張ってきたということ、そしていつも音楽が励ましてくれたことなどを思い出します。

劇中の音楽は実際に演奏されているので余計に自己投影してしまい、感動もひとしおです(役者さんが本物のヴァイオリン弾きだとこうも自然に観られるものか…)。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲以外にもヴァイオリンの名曲がところどころ使用されているので、注目してみてください!

ちなみに、主演のタン・ユンは2001年に出場したヴァイオリンのコンクールでチェン・カイコー監督の目に留まったそうです。もしかして、おけいこニストのみなさんの映画デビューも夢じゃない…!?

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月元 悠

長崎県出身。3歳よりヴァイオリンを始める。田代典子、木野雅之各氏に師事。これまでに、エドゥアルド・オクーン氏、豊嶋泰嗣氏、大山平一郎氏、ロバート・ダヴィドヴィチ氏、ハビブ・カヤレイ氏、加藤知子氏、小栗まち絵氏のマスタークラスを受講。また、ながさき音楽祭、球磨川音楽祭、霧島国際音楽祭、NAGANO国際音楽祭に参加、マスタークラス修了。各地で演奏活動を行う。西南学院大学 国際文化学部卒業。福岡教育大学 大学院 音楽科 修士課程卒業。