映画「ベニスに死す」で学ぶクラシック

こんにちは、ヴァイオリニストのハルカです♪

遂に福岡にも初雪が降りました。どこか暖かいところへ逃げたくなる寒さです。もう一度夏に戻りたい気持ちにあふれております。ということで、今回はほどよい暖かさと切なさを感じられる映画からクラシックを2曲ご紹介します!

『ベニスに死す(Death In Venice)』(1971年)

あらすじ:ドイツからバカンスに訪れた作曲家のグスタフ・アシェンバッハ(ダーク・ボガード)は、ポーランドから家族旅行中の14歳の少年タジオ(ビョルン・アンドレセン)の美貌に心を奪われる。その頃のベニスは疫病に襲われており、アシェンバッハは感染してしまう。静かにタジオを追い続けるアシェンバッハの心の葛藤が表現されている。

原作はドイツの文豪、トーマス・マンの1912年の短編小説で、友人であるオーストリアの作曲家、グスタフ・マーラーのエピソードがもとになっているそうです。トーマス・マンに傾倒していたルキノ・ビスコンティ監督が情熱を注ぎ、映画化する運びとなりました。

交響曲第5番より第4楽章 Adagietto(マーラー作曲)

そんな映画『ベニスに死す』で流れる楽曲のひとつがこちら。この交響曲第5番はマーラーの絶頂期に書かれたと言われています。そしてこの4楽章はマーラーが、のちにマーラーの妻となるアルマへ捧げた愛の調べとして書かれたとされています。

交響曲ですが、弦楽器とハープだけで演奏されます。まるで、遠い過去をおぼろげに思い出しているかのような、静かで美しく、幻想的な雰囲気です。映画のはじめと終わり、またアシェンバッハの心の揺れや懐かしい思い出を回想するシーンで流れます。アシェンバッハの恍惚感に溢れた表情の先にはいつもタジオの姿。まるで若かりし頃の青春が戻ってきたかのように若返るアシェンバッハの、タジオの完成された美しさへの儚い恋心が音楽に乗って伝わってきます。その先にある絶望や嫉妬、官能などが、静寂との対比の中でいろんな解釈ができるのではないでしょうか。

この映画の代名詞と言っても過言ではないくらい主要な位置付けの曲であり、主人公のアシェンバッハはマーラーがモデルと言われています。同じグスタフという名字であることに始まり、マーラーの写真をもとに、口ひげやフチなしメガネを付け、さらには少し足を引きずるようなマーラーの歩き方まで真似をし、完璧に計算された演技だったと言えます!

もうひとつ、有名な楽曲のご紹介です。

エリーゼのために(ベートーヴェン作曲)

『エリーゼのために』は実は『テレーゼのために』という曲名だったということは有名な話ですね。ベートーヴェンのあまりの字の汚さにより解読が難しかったそうです(笑)。ベートーヴェンがかつて恋したテレーゼという女性のために書きました。

劇中、タジオがホテル内のピアノでエリーゼのためにを演奏します。決して上手とは言えない、たどたどしい演奏ですが、その拙い演奏に熱い視線を注ぐアシェンバッハから、胸を締め付けるような切なさが痛いほど伝わってきました。

聴きなれた曲のはずなのに、ここで流れる『エリーゼのために』からはいつもと違う印象を受けるのは私だけでしょうか。アッシェンバッハの想いがそうさせるのか、タジオの色気や儚さなどがあふれ出て、妖艶な雰囲気に包まれるのです。

芸術家の苦悩

タジオの美に取り憑かれたアシェンバッハ。タジオに向ける異常な眼差しから、台詞やナレーションで語られずとも狂気的ともいえるような愛が伝わってきます。

今回ご紹介した2曲に共通することは、どちらも “愛の調べ” であるということ。身を削って作品を生み出し続ける芸術家にとって、恋愛は自身を突き動かす原動力として必要不可欠なのかもしれません。

そして個人的な意見になりますが、見応えがあるのは、あまりに美しすぎて非現実的であるタジオ役の美少年、ビョルン・アンドレセンです!

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完成された美しさを持っています。「ギリシャ彫像が現代に息づき動き出した少年」と言われているほどです。目の保養と耳の保養ができる素晴らしい映画、ぜひご覧ください。

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月元 悠

長崎県出身。3歳よりヴァイオリンを始める。田代典子、木野雅之各氏に師事。これまでに、エドゥアルド・オクーン氏、豊嶋泰嗣氏、大山平一郎氏、ロバート・ダヴィドヴィチ氏、ハビブ・カヤレイ氏、加藤知子氏、小栗まち絵氏のマスタークラスを受講。また、ながさき音楽祭、球磨川音楽祭、霧島国際音楽祭、NAGANO国際音楽祭に参加、マスタークラス修了。各地で演奏活動を行う。西南学院大学 国際文化学部卒業。福岡教育大学 大学院 音楽科 修士課程卒業。