こんにちは、ヴァイオリニストでウィーンに留学中のハルカです♪
こちらはヨーロッパ特有の長くて暗い日々が続いていましたが、最近少し気温が上がり、晴れの日も多くなってきました。あともう少しで春が来るので楽しみです…が、どうやらもう一度雪が降るとの噂なので覚悟しているところです。
さて今回は、そんなヨーロッパの深い冬のように、暗い雰囲気の中をもがくようにストーリーが進んでいくミステリアスな映画からクラシックをご紹介します!
『シャッターアイランド(Shutter Island)』(2010年)
あらすじ:精神病を患った犯罪者を収容する精神病院が孤島にあった。厳重管理された病院からひとりの女性が謎のメッセージを残し失踪してしまう。事件の調査のため連邦保安官のテディ・ダニエルズ(レオナルド・ディカプリオ)とチャック・オール(マーク・ラファロ)は取り調べを進めるが、患者たちがなにかを隠していることに気づき、病院や孤島に怪しさを感じ始める。
精神病院を舞台として繰り広げられ、憶測や証言が飛び交う中でさらに幻想や回想が入り混じり、常に登場人物の動向から目を逃せません。
騙されてたまるか! という気持ちで鑑賞したので、まるで自分も映画の中にいるような感覚になり、この映画ならではの不穏で混沌とした雰囲気を存分に楽しめました。
ピアノ四重奏曲 “断章” イ短調(マーラー作曲)
作中でテディの脳内に断片的にフラッシュバックするナチスの大量虐殺の回想場面で、この楽曲が何度もキーワードのように使用されます。
マーラーが16歳のときに作曲科試験のために作った曲だと言われています。数多くの作品を残したマーラーの唯一の室内楽曲ですが、完成された楽章がひとつしかないため「断章」と呼ばれています(のちにロシアの作曲家、アルフレート・シュニトケが完成させました)。
ピアノが奏でる暗く重い雰囲気の中へ、冷たさを帯びたヴァイオリンに誘われます。盛り上がるにつれて悲劇的になっていき、胸が締め付けられるような悲しみが押し寄せてくるようです。
マーラーはオーストリアでは自身のことをボヘミア人と言っていましたが、彼がウィーンで感じていたであろう、ある種の疎外感や物哀しさが伝わってくるようです。
ピアノ、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロで演奏される室内楽曲ですが、マーラーのもつ壮大な作風がこの曲にも表れ、オーケストラの響きが聴こえてくるようでもあります。もし断章ではなく全ての楽章が完成されていたら、と先を知りたくなる気持ちになりますね。
相容れることがなかった対極の存在がワンシーンに
ナチスといえばヒトラーを中心とした独裁政権により、ユダヤ人を迫害しており、その内閣下ではユダヤ系音楽は完全に禁止とされていました。
ヒトラー政権とユダヤ人であるマーラーの音楽、という決して両立するはずのなかったものがひとつの場面に存在していることから、この映画のもつメッセージ性を感じとれます。
楽曲の背景を知ることで、ミステリー映画がより一層楽しめると思います。ぜひ本連載の過去エントリーもご覧いただけましたら幸いです。
月元 悠
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