今週もおけいこ道のお時間がやってまいりました。ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆がお送りいたします。
今回は少々思い出話を(いつもか)。子供の頃に参加していた、門下の合宿のお話です。
合宿ってこわそう…
合宿というと一般的に多い浮かぶのはスポーツ選手などの「強化合宿」。朝早くに起きてランニングをして、少しでも団体行動の秩序を見出そうものなら怒られて…なーんてイメージを抱きます。
ところが、わたしの門下の合宿というのは、もうのほほーんとしたものでした。一度利用していた宿泊施設で、それこそ某大学ラグビー部の強化合宿と一緒になったことがありましたが、食堂に会したとき、そのあまりの雰囲気の違いにお互いの団体を横目でチラチラと見合っていたのは笑い話です(その後、ガタイの良い優しいお兄さんたちとは打ち解けました)。
音楽の合宿でも強化合宿のようにビシバシとおこなわれるものもありますが、わたしのいた門下では夏と春の年2回開催で、合宿期間中ソロの練習はお預け! 2泊3日で朝から晩まで合奏をして音楽を楽しみました。
合宿では、全員が参加する弦楽合奏と、先生方に合わせていただいてひとりひとりが異なる室内楽に取り組みます。ヴァイオリンの門下なので、いつもヴィオラとチェロの先生をお呼びしていました。
チェロの先生は結構歳が上の方なので、おっしゃることがいつも巨匠のようで子供には理解が難しかったのが印象的です。一方、ヴィオラを弾いてくださるのは門下の卒業生で、すでに独立してお教室を開いているヴァイオリニストの方だったので、生徒の視点でオトナな先生方の言うことを噛み砕いてくださるから、子供はみんな頼りにしていました。子供の頃に言われたそういう「不思議なひとこと」って妙に記憶に残りますよね。
先生の「ムチャぶり」
さて、今ふうな言葉で言うと、わたしのヴァイオリンの先生ってたぶん「ドS 」なんじゃないかと思うんですよね。というのは、合宿中はいつ「ムチャぶり」が飛んでくるかわからないのです。その「ムチャぶり」はどの子にも飛んでくる可能性があって、それは実に的確にその子に必要な“何か”を含んでいる、良い成長の機会でした。
たとえば合奏は、合宿の前にレッスンで譜面をいただいて、譜読みをして臨むのが通常です。しかしあるときわたしは先生に譜面をもらえませんでした。なぜなら先生はわたしに「初見チャレンジ」をさせたかったのです。合宿当日は、みんながさらってきている中、わたしだけが初見というなかなかの逆境です(笑)
またあるときは、夕食後にみんなで談笑していたら、先生方がその隙を見計らって「遊び」でカルテットを弾こうとしていました。しかし第2ヴァイオリンがいないことに気づいた先生は「まほちゃん弾いてみよっか」と、これまた、いや今度は譜読み済みの先生方の中に、初見の小学生を放り込まれて混ぜていただき、あれはわたしの音楽人生の中でももっとも手に汗握る初見大会でした(手汗)
結局そのときに養ったスキルは、のちにものすごく役立つこととなります。だって、あのときを思うと、あれ以上に緊張する初見シーンってなかなか無いんですよ…!(そっちか)
アンサンブルに出会う場所
ムチャぶりは遊び半分・真面目半分といったところですが、なにはともあれ、先生にとって合宿の目的は「アンサンブルの楽しさを幼いうちから知ってほしい」というものでした。
ヴァイオリンの練習・レッスンはどうしても孤独です。ときにその愉しみを感じられなくなってしまうことだってあります。でもわたしはそんな「合宿」に出会って以来、たまにつらいときが訪れても「次の合宿ではまたみんなと弾ける♪」と思うと、落ち込んだメンタルを簡単に立て直せるようになりました。
何より先生方と過ごした時間というのが大きな財産です。わたしの場合は、小学6年生という思春期が始まりかかったような年齢でその先生の門下に入れていただいたので、初めのうちはレッスンでは緊張してしまって「素の自分」が出せませんでした。
でも合宿を通して先生と寝食を共にしたり、同世代の子と無邪気に話している姿を見せるうちに、素の自分を先生に知っていただくことができて、それ以後のレッスンもすごくやりやすくなりました。食事の時間や(日に2回もあった)おやつの時間、夜の体育館でのレクリエーションの時間には楽器と離れて先生とコミュニケーションを取って、レッスンだけでは聞ききれないたくさんのお話をうかがったこともまた、記憶の財産のひとつです。
「なんだ、今回はただの思い出語りかい、役立てられることがないよ! 」なんて言われてしまうかな(笑) たまには箸休め回ということで、また次回お会いいたしましょう!
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