卑弥呼のバッハ探究11「無伴奏パルティータ第2番 アルマンダ」

こんにちは! ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。本日より本連載3つ目の曲、無伴奏パルティータ第2番にまいります。

3つ終われば折り返し地点…! 書き出した(撮り出した)当初は「続くかな」という不安がありましたが、なんだか完遂できるかもしれない! と思い始めました。とはいえ、このパルティータ第2番の終曲には「シャコンヌ」という大きな壁が立ちはだかっているのですが…。

まぁまぁ、気を確かに! まずは最初の「アルマンダ」からいきましょう!

ドイツ由来の舞曲「アルマンダ」

アルマンダ、またはアルマンドとはドイツ由来の舞曲で、少し足を擦る(する)ような重ためのステップです。アルマンダ、アルマンド…この音の違いは各国語の綴りの違いによるものです。その多くが4拍子で書かれていて(古いと2拍子、新しいと3拍子だったりもします)、2分割系のリズムと3分割系のリズムが入れ替わり立ち替わり出てくるのが大きな特徴です。

ちなみにわたくし、一応大学でバロック・ダンスの授業を履修していたので、アルマンダを習った日もありました。踊ってみるとどんなテンポで弾いたらよいか想像しやすいと言いますか…そのステップの足運びが心地よいテンポを知るというのは、弾く上で大きなヒントになります。

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わたしははじめてこの曲に取り組んだときに、かなりテンポ設定に悩んだのですが、実際に自分の足で踊って以来わたしのなかでテンポ観が確立されました。バロック・ダンス、ちょびっと踊ってみるの、オススメです。

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繰り返したときに

さて、パルティータにつきまとうのが繰り返し。今日では、悲しい哉、コンクールの課題曲としてバッハの曲に出会う人も少なくないと思うので、その場合は「繰り返しなし」という指定を受けることがほとんどです。

ですが本来は、繰り返しをおこなうことによっていろいろな表現を魅せることが、我々演奏家に求められていることのひとつであると、わたしは考えます。

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では、繰り返したときに表現を変えるというのは、具体的にどういったことをすればよいのでしょうか。

まず一番シンプルで簡単なのが「1回目と2回目で正反対のことをする」方法。たとえば、1回目にクレッシェンド(次第に大きく)した箇所を、2回目は大きめの音量で入ってディミニュエンド(次第に小さく)していく、といった手段です。

表現を探すときは、とにかく「トライ&エラー」だと思います。いろいろなことを試してみて、自分のフィーリングや解釈にしっくりくるものを見つけるという作業が「練習」「おさらい」の時間なのです。

ゼクエンツここでも登場

ゼクエンツについてはこれまでにも熱く語りましたが(ガヴォットとかフーガとかプレストとか)、しつこくこの曲でも登場です。ゼクエンツというのは、ひとつバロック音楽の特色ですので欠かせません。

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そういうわけでバッハの作品にわたしたちはいろいろなゼクエンツを見つけることができますが、このアルマンダのゼクエンツはとりわけ切なさを抱えているように感じます。その儚い美しさが、わたしにとってはすごく魅力的なのですが、なぜこんなに切なげなんですかね。

わたしはこの件についてひとつの仮説を持っていますが、その話題はいつか、そうですね、あと4回ほどあとの回、シャコンヌを扱うときに譲りたいと思います。

組曲のスタイル

この連載でパルティータを取り上げるのはこの度が2回目ですね。はじめに第3番を取り上げたときに、バッハは各舞曲のタイトルに統一テーマを持たせているというお話をしたと思います。(▶卑弥呼のバッハ探究5「無伴奏パルティータ第3番 ブーレ、ジーグ」

パルティータ2番の場合はイタリア語で統一されています。このバッハの茶目っ気を頭に入れておくと、たとえばピアノのイギリス組曲やフランス組曲を聴くときもおもしろいですよね。

せっかく勉強するなら、同じ作曲家が別の楽器のために書いた、似たスタイルの曲も知ると、有機的な勉強になります。バッハの場合で言えば、ほかの楽器の組曲を知るとその語法が見えてきて、自分が弾く曲の理解もより進むことでしょう。

それではまた次回、今度はコレンテと共にお会いいたしましょう!

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栃木県出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程修了、ディプロマ・オブ・ロイヤルアカデミー、ドリス・フォークナー賞を受賞。2018年9月より同音楽院博士課程に進学。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。