こんにちは! ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。今度ソナタ第3番のフーガを録音するのですが、ほかのナンバーを弾くといい息抜きになりますね(笑)
ただヴァイオリンの無伴奏作品はその「孤高さ」が魅力のひとつでもありますから、息抜きなどせず自分をもっと追い込んでもいいのかな、と思いつつ、本日の曲にまいりましょう!
パルティータ第3番「ガヴォット」
かつて某ネット銀行のCMで使われていたので、バッハのこの無伴奏作品のなかでもっとも一般にも耳馴染みがある曲だと思います。本当のタイトルは『Gavotte en Rondeau』と言いますが、日本語では単に「ガヴォット」と言ってしまうことが多いです。
『Gavotte en Rondeau』、フランス語です。フランス語を第2外国語として学んだ(にも関わらずほとんど話せない)身から申しますと「en」というのが文法上少し説明が難しいのですが、日本語訳をすれば「ガヴォットによるロンド」といったところでしょうか。ガヴォット調のテーマを使ったロンドというわけです。
なおガヴォットとは舞曲の一種で、小節の半分の長さのアウフタクトを持つ2拍子系の踊りであることが特徴です。フランス発祥で、前回の「ルール」同様、太陽王ルイ14世に使えたリュリの頃に大流行していたのだとか。そしてロンドとは楽曲の形式のことで、テーマがパンだとすると、2つ以上の具をひたすらサンドイッチしていく形式で、とても軽快なテンポで奏されます。この曲のタイトルはつまり、ガヴォットを素材にしたサンドイッチだよ、という意味なのです。
コンクールの課題曲や発表会で弾くために、この曲に出会う人も少なくないでしょう。弾くにあたって、本番のことを考えるとつい難しい顔になりがちですが、こんなに楽しい曲です、笑顔で弾きましょう!!!
この出だしの一節がトータルで5回出てくるので、それぞれの立ち位置を考え、強弱やテンションなどの相対性を考えると、全体を構成しやすくなるはずです。
ここで出てくるテーマがいちばん元気! あるいは、ここで出てくるテーマは優しい気持ちで弾こう…。そんなふうに、自分の中でひとつひとつのパンにキャラ付けしてみてください。
短調とデタッシェ
基本的にホ長調(E Dur)で進行する明るい曲ですが、折り返し地点を過ぎたところでがっつり短調のセクションがやってきます。
「2小節未満の音型を転調させて2回以上繰り返す技法」をゼクエンツと言いますが、ここはゼクエンツをたくさん使って調がうつろっていくので、ゼクエンツを聞かせるのが鍵です。変化をつけるのが難しくはありますが、反対に言うと表現で遊べる部分でもあるので、いろいろ試して自分にしっくりくるものを探していくのが良いと思います。
ところで和音が多いこの曲において、この短調の部分は八分音符が続きます。ベタ弾きよりは音の頭とお尻が少しだけ軽やかなデタッシェという技術が適切と考えますが、このデタッシェ、習得するまではベタ弾きとスタッカートの間くらいで動きを保つのが難しいものです。無理に弓を弦から離そうとはせず、たとえば習字の筆ではらいを作るような感覚を探っていきましょう。
クライマックスで
さぁ、トンネルを抜ければそこは…短調のパートを抜け、晴れてホ長調のテーマを奏でると、最後の具がやってきます。
わたしはこの曲だとこの部分がとても好きです。和音がドラマチックだと思いませんか? けれども、音程がいちばん取りづらいのもここですね。この曲の主調・ホ長調から見て平行調の関係にある嬰ハ短調になるので、雲行きは再び少し怪しくなったと言えましょうか。でもこの短調があるから、最後の最後に出てきたテーマですごくほっとします。だからこの短調のセクションは存分に聞かせるべきと思います。
クライマックスで出てくるのが、バグパイプの響きを模したと思われるオルゲルプンクト! オルゲルプンクトとは低い持続音のことで、これを「バーーーーー」と長く鳴らした上で高音部のパートが歌う手法がとられています。オルゲルプンクトはバッハのオルガン曲においても最後のクライマックスで出てきますし、このほかの無伴奏ヴァイオリン作品でも使われています。
どんなサンドイッチにする?
日本人だと押し寿司と言ったほうがしっくりくるでしょうか、いやそれはわたしだけか…。パンの間にさまざまな具を重ねてできるこの曲。具の素材は決まっていますが、味付けはシェフ、つまり奏者次第。あなたのブーランジェリーでは、どんなサンドイッチを作りますか…?
さて、次回はメヌエット2曲です。また近いうちにお会いいたしましょう!
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