今週もおけいこ道のお時間がやってまいりました。ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆がお送りいたします。
ささやかながら、今回からトップの画像をちょっとだけリニューアルしてみました。
今日のテーマは「体の大きさ」。演奏家にとって楽器の次に、いえ楽器と同等かそれ以上に重要な要素である「自分の体」と向き合えていますか? という、自戒を込めたお話です。
体のサイズと楽器
ピアノというのは、誰もが同じサイズの楽器を使いまうよね。それが平等と言えるかどうかはわかりませんが、幼いときから楽器のサイズが変わることはなく、むしろ大人向けサイズに背伸びして自分を合わせていくような感覚かもしれません。
我らが弦楽器には多少サイズがあるわけで、しかもいざ大人サイズになってからも、その個体差で「小ぶりだから」「大ぶりだから」自分に良いとか悪いとか…ピアニストからしたら「ワガママ」なことが言える不思議な楽器です。だいたい、分数楽器を卒業するのは早くて小学校高学年、遅くても中学生になったら、というのがひとつの目安。幼稚園に上がる前後に楽器を始める人が多いですけれど、そこからフルサイズになるまでに、いくつの楽器をどれだけのペースで使うかは本当に人によります。一般的には1/10あたりで始める人が多いですね。
わたくし最近知ったのですけれど、いちばん小さいヴァイオリンって、1/32なんですってね。楽器は1/16で始めたよって人すらちょっと珍しいのに、もっと小さいサイズがあるとは…! しかも1/32って、各パーツが小さすぎてあまりに調整が大変なため、近年ではあまり作られないそうです。テールピース(駒と顎あての間にある、弦を引っ掛ける部品)は1/16のもとを代用することもあるんだとか。
体が小さいことはハンデなのか
日本人というのは世界的に見て小柄です。そして女性人口の多い日本の音楽業界においては、「小柄な体の有効活用」について考える“市場規模”は、ほかの国よりも大きいでしょう。わたしの同級生がある日ふと、最近改めてヴィブラートについて考えているとこぼしたことがありました。そして彼女はクラスメートにこう問いかけました。
「もとからうまくできちゃったって人じゃなくて、苦手だったけれど考えて考えて克服したって人にコツを聞いてみたいんだよね。誰かそういう人いない?」
わたしは彼女のこの発言が名言だと思っていて、高校時代のひとコマながら、未だにはっきりと覚えています。「自分で考えて追求する」というプロセスを経て得たスキルは、最強の武器になります。
というのは、例えば体が大きいと、何の苦もなく弓の先まで使えたり、難なく指が届いたり、「うらやましい条件」ばかり揃って見えます。しかし(自分が大きいから言いますが)彼らは小さい人に比べて「弓の先を支えるありがたみ」や「左手が遠くまで届くありがたみ」についての意識が希薄。弓を常日頃から無駄にたくさん使ってしまったり、何の味わいもなく音程を取ったりしてしまいがちです。
一方、小柄な人というのは、まず自分の体をどうしたら最大限に有効活用できるかということを考えます。そこから効率的な運弓・運指を追求していくというフェーズに入って、自分にあった演奏スタイルを見つけていきます。
この効率的な演奏法を考える作業は、本来、体の大きさに関係なく必要なことですが、“弾けてしまってきた人たち”はそれに気づかず大きくなってしまうことが少なくありません。弾けるならいいじゃん、と思われるところですが、これ、ガタが来るのはもっと大人になってから。若いときから体に向き合えた人との差が、40代・50代になったときにどんどん開いていくと思います。
演奏家は「賢くあれ」
わたしは今までの先生にも「今後の課題として、もう少し体の力の抜き方を覚えられるといいね」と言われてきたのですが、昨秋からついている留学先の先生に、「『弾けちゃうままに弾く』んじゃなくて、頭を使って『賢く』弾くんだ」と口を酸っぱくして言われています。先生曰く「いわゆるヴィルトゥオーゾと呼ばれる人たちがよく弾けるのは、『天才だから』『生まれながらにできちゃったから』だと思うのは間違いだ」と。「彼らはどうしたらそのテクニックを楽にこなせるかということを徹底して考え抜き、それを体に染み込ませているから何でも弾けるんだよ」先生は続けます。
「楽に弾けるスタイルを確立しておけば、今日いきなり『ステージでパガニーニを弾け!』と言われたって、30分もウォーミングアップすればすぐさま弾けるようになるんだ」
さぁ、まだまだ道のりは長そうですが…わたしもいつパガニーニのオファーが来ても大丈夫なようになりたいなと思います。
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