先日は「音楽鑑賞教室」のプログラムをどのように構成するかについてまとめてみましたが、今日は「客席とステージの距離」について考えてみたいと思います。
▷参考記事:「どうする「音楽鑑賞教室」? アウトリーチで考えたいこと」
温度の共有
「鑑賞教室」ではありますが、お客さんが受動的な演目ばかりだと舞台と客席の距離は離れるばかり。客席が冷めるとき、それは舞台との距離を感じたとき。
クラシックの演奏会がなぜMC無しにも関わらず客席は夢中なのかといえば、もともとお客さん自体が持つ温度が高いからだと思うのです。温度とはつまり熱意や関心、興味。この曲が好き、この奏者の演奏を聴きたいという「熱」をあらかじめ持っているから、むしろ余計なMCだとかえってじれったいのですよね。
わたしたちは聴き手の温度を考えてプログラムを組む必要があります。クラシックになじみがない層の場合、相手が思わず興味を持つようなMCや、簡単な問いかけやクイズ、あるいは体験型のコンテンツを入れることによって、舞台の温度を共有してもらえる状態を作りたいですね。
体験型コンテンツを入れる
お客さんにも参加してもらえるようなプログラムって、アイデア勝負というか、悩みます。正直マストではないと思いますが、それは興味を持ってきちんと聞いてもらえるとあらかじめわかっている場合や、よっぽどうまいプログラムが組める場合。一方的に聴いてもらうだけで成り立たせる方が、アイデア力が試される気がします。
では、体験型コンテンツにはどういったものが良いでしょうか。
まず簡単かつ大勢でもできるのは、手拍子で音楽に参加してもらうこと。特徴的なリズムを持つ曲(サンバ系は盛り上がります)を用いて、そのリズムを体感してもらう方法です。この場合、演奏前にリズムのレクチャーをおこないます。特有のリズムを持つ楽曲ということは、民族系の音楽が多いので、レクチャーに併せて楽曲の成立の背景もMCで取り上げたいですね。
人数を限定して演奏に加わってもらう方法は、代表生徒へのレクチャーを全体にうまく“魅せる”ことで、客席にいる人たちにも当事者の気持ちを持ってもらいます。これは舞台と客席の温度差を縮めるための工夫です。反対に影でこっそりと打ち合わせる場合は、代表生徒のための題材と全体向けの題材を別に用意する必要があるので、余念のない準備が求められます。
例)Aさんにだけ舞台上でタンバリンをお願いする→Aさん用のタンバリンのリズムを奏者がレクチャー(=代表生徒のための題材)→レクチャーの間に客席に向けてMCや演奏をおこなう(=全体向けの題材)
演奏者の“ひとりよがり”にしない
アウトリーチは、奏者の数だけ正解があってよいものだと思うので、一概に「この曲を入れるべきだ」「この曲はやめよう」とは、ここでは言えません。自分がアウトリーチをおこなうことの意味、と言うと大げさに聞こえますが、自分だからこそできる題材があると強いです。
ここまで書いておきながら、わたしの場合、アウトリーチのプログラムを自分が組むときは「体験型コンテンツ」を入れません。なぜなら、自分の場合はMCを通した客席とのコミュニケーションのほうが効果的に使えると思うからです。
いちばん大事なのは、まずその日のプログラムを楽しんでもらうこと、そして少しでも音楽に興味を持ってもらうこと、そのきっかけを作ること。目的を見失わなければ、どのような形式でも正解を見つけられます。
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