From London「夏のロンドンの風物詩! BBCプロムスに行ってきた」

こんにちは。ヴァイオリニストの卑弥呼こと原田真帆です。海外の演奏会をレポートしていく連載「World Concert Tour」、今回は夏のロンドンに欠かせない音楽祭「BBCプロムス」の様子をお届けします。

プロムスは毎年7月上旬から9月上旬まで8週間ものあいだ、毎日ひとつ以上の演奏会をおこなう世界最大規模の音楽祭です。1895年から始まったこの伝統ある音楽祭の最大の特徴は…まるでライブのようにアリーナがあること!!

会場のロイヤルアルバートホールは楕円形の建物で、その中央真ん中は椅子が取っ払われてアリーナになっています。しかもアリーナで聴く人はなんと約1,000円( £6)でチケットを買えるのです! 立ち見席は当日販売なので、その日になって突然「やばい、今日コンサート行きたい」と思い立っても間に合います。

会場はロイヤルアルバートホール

プロムスのメイン会場はロイヤル・アルバート・ホールです。1871年に開場したこのホール、なんと収容人数は約7,000人! クラシックの演奏会はもちろん、ポップスのコンサートも開かれますし、たまにテニスやボクシングなどの試合がおこなわれることも。かつて日本の大相撲が公演をしたこともあるそうです。

こちらは2018年のプロムス・オープニングセレモニーの様子。プロジェクションマッピングを使ったかなり派手な演出です!

プロムスという名前は、散歩を意味するフランス語 promenade に由来していて、プロムス発足当時は自由に歩いたり食べたりしながら音楽を聴いていたそうです。そこからプロムスというとどうしても「立ち見」のイメージが強いのですが、実は現在では座れる席のほうが多く、椅子に座って聴きたい場合は事前予約推奨です。

これはアルバートホールの会場案内の写真。「Arena」と「Gallery」が立ち見席、「Stall」「Tier」「Circle」が椅子席です。立ち見席は当日販売が基本で、聴きたい公演の数時間前からホールの入り口でチケットが販売されます。当日券はおよそ1,000枚出るので、せっかく会場まで行ったのに売り切れてしまって入れない! ということはほとんどないでしょう。

一方椅子席は事前に売り出されるので、確実に席を確保したい人にはおすすめです。こちらはかなり早々に売り切れになってしまう公演が多いので、シーズンの前から気になる公演をチェックしておく必要があります。

立ち見ってつらくないの…?

アルバートホールは建物の円周に沿って12の入り口があり、席の種類によって入り口の番号が振ってあるので、混乱もなく入場はとてもスムーズです。わたしは立ち見席の中でも「Gallery(ギャラリー)」席を選び、ギャラリー入場用の入り口でチケットを購入して階段を登ります。

こちらがプロムス仕様のロイヤルアルバートホール! とにかく人が多いのがおわかりいただけると思います。ところでギャラリー席はどこかというと…

上です上! すごく高い場所で、もしかしたら高所恐怖症の人には向かないかもしれません…。アリーナは舞台の真正面の位置。もし前の方を陣取ることができたら、ホールでもっとも奏者に近い場所で聴くことができます。

アリーナはときに後ろのほうが空いていて、そんなときは勝手にジベタリアン(※地べたに座ること)をしている人も見受けられます。でもこの日はアリーナが後ろのほうまでかなり埋まっていて、人気ぶりがうかがえました。

ところで公演のあいだ、2時間半も立ちっぱなしってつらくないの? という疑問が湧きますよね。正直アリーナに立っているのはつらいです! でもわたしが今回選んだギャラリーなら…

みなさん自宅の居間のごとくくつろいでいまして(笑)、自由な姿勢で聴けるので、悪くないですよ。レジャーシートを持ち込んで寝っ転がっている人もいれば、ごくごくわずかながら壁際に設置されている椅子に座る人もいますし、立ちながら手すりに寄りかかって聴く人もいます。

わたしはこの日の昼間にプログラムを見て「やば今日行くわ」と突然行くことにしたので、ホールに着いたのが開演15分前でしたが、チケットは問題なく買うことができました。さすがにステージを見やすい場所は人で埋まっていましたが、なんとか柵の前に陣を取って、いざ開演です!

モーツァルトとブルックナー

この日のプログラムはフィンランド人の指揮者、サカリ・オラモ氏のタクトで、BBC交響楽団によるモーツァルトのピアノ協奏曲第21番とブルックナーの交響曲第5番。協奏曲のソリストには若きピアニスト、ベンジャミン・グロズヴェナーを迎えます。

わたしのいる場所がいかんせん高いので、ステージとの物理的距離がある上に、奏者を後ろから見るような位置だったので音響面を心配したものの、始まってみるとモーツァルトの前奏がかなりまとまった響きで聴こえてきました。

以前舞台を真横から見る席に座って鑑賞したことがあり、そのときの記憶と比較すると、正直今回のギャラリーのほうが響きがよかったような…ピアノの音も、完全に蓋の側から聴いているにも関わらず、音の一粒一粒がかなりクリアな輪郭で聴こえてきました。

これだけ広い会場でも、ソリストもオケも決して音を張り上げることはせずに、美しく紡いでいました。

休憩を挟んでブルックナー。これは80分に及ぶ大作です。4つの楽章どれもが20分前後かかります。なのに今宵は2楽章と3楽章をアタッカで(切れ目なしに続けて)演奏するそのスタミナよ! 2楽章の最終音の余韻が冷めないうちに3楽章の弦の刻みが入ってきて、ちょっと驚きました。

オラモ氏のタクトは、ブルックナー独特の速度変更をかなり強めのメリハリで表現していて、聴いていてまるで譜面が見えるようでした。

ときに「うわぁそこまでテンポ上げちゃう!?」とヒヤヒヤした場面もありましたが(特に4楽章では、ヴァイオリン隊がかなり大変そうにしている部分も見受けられたので、もしかしたら本番特有の速度超過だったのかもしれません)、マエストロとオケ全体がお互いのアイデアをよく共有している印象を受けました。

わたしが立っていた位置が低音部寄りだったせいかもしれませんが、低弦がぶいぶい鳴っていた感じがして心地よかったです(なお弦楽器はストコフスキー配置でした)。また管楽器のまとまりっぷりが何というか、見事でした。

以前プロムスに来た際はシュターツカペレ・ベルリンのブルックナー第4番を拝聴しましたが、あのときはちょっと爆音気味に感じられたのに対して、今回は音量が増してもまったく割れがなく、まろやかな響きのまま駆け抜けた感じです。それとも聴いた場所が舞台から遠かったからそう感じたのかな…。

プロムスはラジオでも聴ける

個人的にモーツァルトもブルックナーも思い出深い曲でしたし、突然思い立って駆けつけたので「ああ入場できてよかった、聴けてよかった」と満たされた気持ちで会場をあとにしました。よりによって小雨気味の、夏にしては寒い日でしたけれど、そんなことは気にならない程度には気持ちがあたたかでした。

ところで2018年のプロムスは9月8日まで開催されています。そして公演の模様はイギリスの国営放送BBCのラジオで毎日ライブ配信されています!

しかもこのラジオ放送はBBCのサイトでもリアルタイムで聞けますし、放送後30日間はサイト上であとからの再生も叶います。日本にいながらにしてプロムスの会場の雰囲気をお楽しみいただけるので、ご興味がある方はぜひ「BBC Radio 3」のサイトを訪れてみてください!

会場を去り際にくるっと振り返ると、ライトアップされたアルバートホールの姿が。これまでいく千もの熱狂を包んできたかと思うと、その姿には圧倒されます。

以上、ロンドンの夏のおすそ分けでした。毎日これだけの観客を動員するクラシック音楽の音楽祭を開催するって、本当にすごいことですよね。しかも一流のオーケストラの演奏を破格で聴けるなんて…そのありがたみを改めて噛み締めながら、帰路につきました。

ABOUTこの記事をかいた人

原田 真帆

栃木県出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程修了、ディプロマ・オブ・ロイヤルアカデミー、ドリス・フォークナー賞を受賞。2018年9月より同音楽院博士課程に進学。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。佐々木美子、山﨑貴子、澤和樹、ジェラール・プーレ、小林美恵、ジャック・リーベックの各氏に師事。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。