インターネットの普及により、かつては考えられなかった活動を実現できる世の中になりました。
今回インタビューするのは、ポーランドに住みながら、オンラインレッスンを通じて日本人の生徒さんにレッスンをしているというピアニスト・須藤梨菜さん。
オンラインレッスンの魅力・難しさとは? などインタビューを通して、インターネットを活用した「音楽の楽しみ方」について考えると同時に、須藤さんが暮らすポーランドの魅力もお届けしたいと思います。
須藤 梨菜(すどう りな)
昭和音楽大学演奏家Ⅱ卒業。ポーランド在住。第26回ピティナ・ピアノコンペティション全国決勝大会G級銀賞・王子賞他受賞、第5回浜松国際ピアノコンクール第4位、第7回ダブリン国際ピアノコンクール(アイルランド)日本人最高位かつ最年少第5位入賞ほか受賞歴多数。また2010年、2015年ショパン国際ピアノコンクール出場(ポーランド)。
6歳でデビューを果たし、プロの道へ
―まずはじめに、ピアノを始めたきっかけを教えてください。
「生まれたときから、3つ上の姉がピアノを練習しているのを見ていたので、自分も自然と興味をもつようになって始めました。
本格的に始めたきっかけは、4歳のときに出たJOC(ジュニアオリジナルコンサート)という作曲のコンクールです。姉は作曲の先生にもついていたのですが、私も同行していたところ『梨菜ちゃんも作曲してみる?』と勧められて。
手探りで曲を作って、先生にアドバイスをもらいながら挑んだところ、全国大会まで進むことができたんです。そのときにある先生が声をかけてくださって、プロを育成するためのマスタークラスに入ることになりました。と言っても当時は幼すぎて、お誘いを受けたときにわけもわからず『やるー!』と答えたような形なのですが(笑)」
―プロを育成するようなクラスだったら、練習は厳しかったのではありませんか?
「そうですね、すごく厳しくていやになるときもありましたが、じゃあ練習をやめる? と聞かれると、そういう決断には至りませんでした。負けず嫌いだったのもありますし、純粋に音楽が好きだったというのももちろん大きいです。
デビューは6歳のときで、指揮者の山本直純さんとの共演で、オーケストラとキラキラ星を演奏しました。その後はずっと、コンクールとコンサートの日々です」
―高校卒業後は上京して音大へ進学されました。ここまで、音楽の道に進むことに一度も迷いは生まれなかったのでしょうか。
「実は、中学校のときにスランプに陥りました。
それまでは、寝るか食べるかの時間以外はずっとピアノを練習していたのですが、中学進学を期に母が練習から離れたんです。そうしたら、練習の仕方がわからなくなり、ピアノを楽しめなくなってしまいまして…。
そのエネルギーが別のところに向いたのか、今度は “学業のほうの勉強” がおもしろくなってきて、進路についても1年ほど迷いました。
結局音楽の道を選んだのは、やっぱり音楽が好きという気持ちに加え、本番の空気の中、ホールで弾く感覚が本当に好きで、それが忘れられなかったから。また、ちょうどその頃に著名なピアニストのコンサートを聴きにいったところ、すごく心を動かされて、やはり舞台に戻りたいと思ったんです」
―なるほど…。ところで、お母様が練習に付き合ってくれていたとのことですが、お母様は音楽をされていた方なのですか?
「いえ、母は音楽を学んでいたわけではないのですが、わたしの演奏が機械的にならないようにと、メロディを歌うことでフレージングなどの感覚を教えてくれていました。これは今でも本当によい勉強になるなと思って、教える際や勉強の際に取り入れています」
ポーランドへ渡り、オンラインレッスンと出会う
―ポーランドには2年前から移住されたのですよね。
「はい。大学卒業後に地元へ戻り、演奏活動や講師活動をしていましたが、個人的な事情でポーランドへ渡ることになりました」
―須藤さんはオンラインでさまざまなレッスンを受講できるサービス『Cafetalk』を通じて世界中の方にピアノレッスンをしていらっしゃいます。なぜオンラインレッスンを始めたのですか?
「日本で元々ピアノ講師をしていたので、その仕事を続けたいと思っていましたが、言葉の壁もありこちらで生徒さんを探すのには少しハードルを感じていました。そんな矢先に、知人からの紹介で『Cafetalk』を知り、これだ! と」
▼Cafetalk 紹介動画
―生徒はみなさん、日本人なのですか?
「そうですね。日本に住んでいる日本人の方だけでなく、海外に住んでいる日本人の生徒さんもいらっしゃいます。たとえばご家族の仕事の都合で海外へ来たけれども、レッスンは日本語で受けたいだとか、海外に住んで日が浅いためにどの先生についていいかわからないとお悩みの場合などに需要があるようです」
―実際レッスンを始めてみて、いかがですか? メリットやデメリットを感じたと思うのですが。
「オンラインレッスンのメリットは、思い立ったときにすぐレッスンを予約できること。お互いの都合さえ合っていれば、『今夜急に予定がなくなったからレッスン受けたい!』といったことも可能です。また、移動時間が必要ないため、少しの空き時間にもレッスンを入れられる点、お子さんにレッスンを受けさせたい場合、お母様は送り迎えの必要なく、家事をしながら見守ることができる点などはかなり大きなメリットなのではないでしょうか。当然講師にとっても、予定を立てやすいという点はありがたいです。
デメリットは、これは講師目線ですが、生徒さんのからだに直接触れることができないため、手の形などを直したいと思った際に少しやきもきします。けれど今はWebカメラの性能もよいですし、手元をアップにして映して見本を見せることで十分教えることができるので、問題にはなりません。オンラインレッスンという形に合った方法でお教えすればよいだけなので。生徒さんが小さいお子様である場合、お母様にサポートしていただくこともあります」
―「教える」ことと「演奏する」ことはまったく違うと思うのですが、演奏とは違うやりがいやおもしろみはどんなところにありますか?
「生徒さん一人ひとり、目標も習熟度もまったく違って、ひとつとして同じレッスンがないというところです。
生徒さんには小さいお子さんも多いのですが、たとえばまったくピアノを弾いたことがないところから始めた子が発表会で堂々と演奏している姿を見たり、前回のレッスンで教えたことを次のレッスンでできるようになっていたりすると、レッスンしていてよかったなあと思います。また、プロをめざしているような生徒さんが、『(コンクールで)入賞しました!』と報告してくれたときは、自分の勉強してきたことがレッスンで生かせたことに喜びを感じました」
―お子さんにレッスンするのは、大人にレッスンするのとはまた違った難しさがありそうですね。
「ほめることでぐんぐん育つ子もいれば、負けず嫌いでちょっと刺激してあげた方が上達の早い子もいて、いかにその子に合わせたレッスンでモチベーションを引き出せるかというポイントは難しさでもあり、やりがいでもあります。それを見極めるため、レッスン中の何気ない言葉や独り言なども聞き逃さないように注意しています。
あと、手の大きさなど物理的な成長とともにテクニックも上がっていくのを見守れるのも、お子さんならではのやりがいだと感じています」
音楽のあふれる国、ポーランドの魅力
―せっかくなので、須藤さんの暮らすポーランドの魅力をぜひ教えてください!
「まず音楽的なことでいうと、日本に比べて音楽がずっと身近な存在に感じられます。たとえば、クラシックのコンサートは日本では敷居が高く感じる人もいると思うのですが、こちらでは屋外でもフェスティバルのように気軽に演奏されていたり、空港にピアノが置いてあって自由に触ることができたり、教会でも音楽は演奏されていたりと、あちこちに “ミニコンサート” があふれています」
―ショパンをはじめとし、すばらしい音楽家を輩出している国ですもんね…!
「各シティにいっぱいコンサートホールがあって、そのうちのひとつ、ワルシャワのナショナルコンサートホールはショパンコンクールが開催される場所です。こういった場所なので音楽を続けるにはとても刺激的な国だと感じています」
―音楽以外ではどうですか?
「歴史的な建物も多く、散歩しているだけでもすてきだなあと思います。国民性はすごくオープンで、家族がすごく近くて和気あいあいと助け合って暮らしています。ご近所同士も仲がよいケースが多いです」
―ちなみに…食べ物はどんなものがあるんですか?(食いしん坊)
「日本人の舌にあうものが多いと思います! ピエロギという料理があるのですが、日本でいう餃子みたいなものですし、サボベというものはとんかつにそっくり。あとはジュレックをはじめとした、スープ類が有名です。ちなみに主食は、パンかじゃがいもです」
―すごく興味あります…!
「この夏のW杯をきっかけに(日本に)オープンしたポーランド料理のお店などもあるようですし、ぜひ行ってみてください(笑)」
ショパンにかける想い
―須藤さんはきたる、2018年10月11日(木)にカワイ表参道コンサートサロン「パウゼ」にてソロリサイタルを予定されています。こちらはオールショパンプログラムとなっていますね。やはり、ショパンの国にお住まいだから…?
「それもありますが、ショパンはなんといっても、小さいお子さんから年配の方まで幅広い層から愛されていますから。有名な曲も多いので、コンサートに行き慣れていない方でも聴きやすいと思いますし、お子さんの中には今まさにショパンを勉強中というケースも多いと思うので、勉強になればと」
―ショパンの曲を演奏する難しさとはなんでしょう。
「テクニック的には、近現代のラフマニノフやプロコフィエフなどに比べれば挑戦しやすい。ですが、曲をいかに自分のものにして表現やコントロールをしていくかという点を突き詰め始めると、途端に難しくなるのがショパンの特徴だと考えています。これまでショパンコンクール含め、さまざまな機会で演奏してきましたが、『ものにできた』という感覚はなかなか得られるものではありません」
―試行錯誤を重ねてきた成果が披露されるオールショパンプログラムということですね。ぜひ聴きどころを教えてください。
「3つのワルツや軍隊ポロネーズをプログラムに組み込んでいるのですが、これらのリズムをぜひ楽しんでいただけたらなと。特にポロネーズはポーランド特有のリズムで、軍隊ポロネーズはポーランドの国の雄大さが表現されていると言われている名曲。ぜひ注目していただきたいです。
ほかにも、ショパンのいろんな側面をお見せできるよう、プログラムは幅広くラインナップしています。一つひとつの楽曲の “違い” を伝えられるように準備しているので、たっぷりとショパンの世界をお楽しみいただければと思っています」
音楽を通じて伝えたいこと
―ずばり、クラシック音楽の魅力はなんだと思いますか?
「言葉がなくても、想いを伝えられるところ。ちょっとした場でも、ピアノを弾くことで誰かが喜んでくれたり、『いやなことがあったけれど幸せな気分になりました』と言っていただけたり。それによって自分自身も幸せを感じられますし、音楽は人に幸せを運ぶものだと感じています」
―インタビューの序盤で、「本番の空気の中、ホールで弾く感覚が本当に好き」とおっしゃっていましたが、なかなかその境地に立つのは難しいように感じます。生徒さんも発表会などに立つ機会があるかと思いますが、何か伝えているポイントなどはありますか?
「間違えることを恐れるのではなく、音楽を通して自分自身を表現できることを楽しんで演奏するよう指導しています。もちろん緊張や不安・恐怖もあると思うのですが、その空気を経験して、乗り越えていった先に成長があるので、演奏の際はぜひ楽しむことだけを意識して、そのときの精一杯を出し切ってほしいと伝えています」
須藤梨菜 ピアノ・リサイタルのお知らせ
コンサート概要
須藤梨菜 ピアノ・リサイタル 〜オール・ショパン・プログラム〜
2018年10月11日(木)
【開場】18:30 /【開演】19:00
会場:カワイ表参道 コンサートサロン「パウゼ」
全自由席
税込 3,240円
※3歳以下は入場できません
お申し込み・詳細はこちらから。
プログラム
★華麗なる変奏曲 変ロ長調 op.12
★バラード 第1番 ト短調 op.23
★スケルツオ 第2番 変ロ短調 op.31
★3つのワルツ op.34
第2番 変イ長調 op.34-1
第3番 ロ短調 op.34-2
第4番 ヘ長調 op.34-3
★軍隊ポロネーズ イ長調 第3番 op.40-1
★2つのノクターン op.48
第13番 ハ短調 op.48-1
第14番 嬰へ短調 op.48-2
★幻想曲 へ短調 op.49
須藤 梨菜 プロフィール(全文)
昭和音楽大学演奏家Ⅱ卒業。ポーランド在住。 若干6歳にして、東京藝術劇場にて山本直純指揮・東京フィルハーモニー交響楽団とモーツァルトの協奏曲を共演、好評を博す。幼少の頃より、国内外のコンクールにおいて優秀な成績を収め、第6回エトリンゲン青少年国際コンクールAカテゴリー第1位、第26回ピティナ・ピアノコンペティション全国決勝大会G級銀賞・王子賞他受賞、「第2回福田靖子賞選考会」福田靖子賞(第1位)、第5回浜松国際ピアノコンクール第4位、第7回ダブリン国際ピアノコンクール(アイルランド)日本人最高位かつ最年少第5位入賞、ヒルトンヘッド国際ピアノコンクール(アメリカ)第3位、I Krystian Tkaczewski国際ピアノコンクール(ポーランド)第3位、また2010年、2015年ショパン国際ピアノコンクール出場(ポーランド)など、多数のコンクールにて上位入賞を果たす。
オーケストラとの共演も数多く、NHK交響楽団、読売日本交響楽団、新日本フィルハーモニー交響楽団、日本センチュリー交響楽団、セントラル愛知交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、クラクフ室内管弦楽団(ポーランド)など、国内外の主要オーケストラよりソリストとして度々招かれている。イタリア、ニュージーランド、ポーランド、フランス等および日本国内の各地にて数々のソロリサイタルおよび演奏会に出演、好評を博す。
宇都宮市市民賞、宇都宮市長特別賞、川崎市アゼリア輝賞を受賞。
提供:Cafetalk
ノリコ・ニョキニョキ
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