3回にわたってロシア・チェコ・スペイン…と魅惑的な民族音楽を紹介してきましたが、そうこうするうちに時代もだいぶ近代へと近づいてまいりました。
今回は、19世紀から20世紀へと世紀をまたぐ時期に活躍し名を残した、グスタフ・マーラー(1860〜1911年)とリヒャルト・シュトラウス(1864〜1949年)の音楽を紹介します。
マーラーの壮大な交響曲
マーラーといえば、その長大な交響曲は特に有名ですよね。私小説とも称され、その難解さ・奥深さが多くの人を魅了しています。
交響曲第1番や第5番は長すぎず、メロディも親しみやすいため最初の一曲に良いかもしれません。
交響曲第1番「巨人」
マーラーはオーストリア出身ですが、出自に関してはなかなか複雑で、本人も「私は三重の意味で故郷がない人間だ。オーストリア人の間ではボヘミア人、ドイツ人の間ではオーストリア人、そして全世界の国民の間ではユダヤ人として」と語っています。また、音楽の才能と美貌にめぐまれた妻・アルマとの大恋愛も有名で(現代で映画化も)、何かとドラマチックなストーリーを抱えている人物でもあります。
マーラーの世界観が惜しみなく反映されている楽曲が聴きたければ、こちらをぜひ。
交響曲第6番「悲劇的」
ティンパニの連打とともに、トランペットとオーボエがイ長調とイ短調の和音を交互にふき鳴らす箇所は、希望と絶望の交替を伝えるもの。その後の美しい第2主題は、アルマを描いたものだそうです。
さて、マーラーと同時代に生きたけれどもまったく正反対の音楽性を持っていた人物…それがリヒャルト・シュトラウス。交響詩とオペラの作曲で知られ、いわゆる西洋音楽を精緻に丁寧に書いた人物です。
天才音楽職人 R・シュトラウス
シュトラウスは、内省的というよりは職人的。「グラスに注がれたビールでも音楽で表すことができる」と言ったというエピソードもあるほど、音楽を表現の手段として巧みに使いこなすことができる人物であったようです。
そんな彼の出世作ともなったのがこちらの交響詩。ドイツの詩人ニコラウス・レーナウの詩にインスピレーションを受けて作られたものです。
『ドン・ファン』
ドン・ファンはスペインの伝説上の人物で、このほかにもさまざまな芸術作品として取り上げられてきた題材です。女たらしとして描写されることが多いのですが、レーナウの作品におけるドン・ファンは理想の女性を求めては失望し…最終的には人生そのものに落胆して死んでしまうという悲劇的な描かれ方をしています。
シュトラウスの表現力は、歌曲でさらに生かされています。
『4つの最後の歌』
第1曲「春」
第2曲「九月」
第3曲「眠りにつくとき」
第4曲「夕映えの中で」
からなる歌曲集。最晩年に作曲したもので、そのどれもが死を詠ったものです。
おお はるかな 静かな平和よ!
こんなにも深く夕映えに包まれて
私たちはさすらいに疲れた
これが死というものなのだろうか?(「夕映えの中で」より一節)
「なんでも音楽で表現できる」と言っていたシュトラウス。晩年にどんなことを思いながらこの詩に曲をつけたのだろうと、私もいずれわかる日がくるのでしょうか。
ノリコ・ニョキニョキ
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