みなさん、お待たせしました。ドイツの後期ロマン派において最も重要な人物と言っても過言ではない、あの人。楽劇王の名で知られる、ヴィルヘルム・リヒャルト・ワーグナー(1813〜1883年)がついに登場です。
彼の提示したオペラには大きく2つの特徴があり、ひとつは従来のように歌と歌の間にセリフやレチタティーヴォを挟まず、途切れなくずっと音楽が流れ続ける無限旋律 。そしてもうひとつは、登場人物や物、感情などのひとつひとつにモティーフとなる旋律をつけ、それらが延々と織りなし壮大な物語を紡いでいく「示導動機(ライトモティーフ)」という特徴です。
ニーベルングの指環
そんなワーグナーが26年もの歳月をかけて書き上げた超大作オペラが『ニーベルングの指環』。北欧神話に着想を得たもので、ストーリーは叙事詩(かなりざっくり言うと言い伝え)となっています。『ラインの黄金』『ワルキューレ』『ジークフリート』『神々の黄昏(たそがれ)』の4部から成り、演奏時間は全曲通すとなんと15時間。全編上演しようと思ったら4夜がかりという大長編です。
今日は、4部作の中でもっとも単独上演される機会の多い『ワルキューレ』から名曲を紹介します。
『ワルキューレの騎行』
第3幕の前奏曲。ワルキューレとは、日本語で戦乙女ともいい、戦死した勇士を天上の宮殿ヴァルハラへと迎え入れる女神的な存在。今作では神々の長ヴォータンと知の神エルダの間に生まれた娘たちがそれにあたります。戦死した兵士の魂を岩山へ連れ帰るべく、天空を駆け巡りながらワルキューレたちが集まって来る…そんな情景を彷彿とさせる『ワルキューレの騎行』です。4管編成で華やかな音楽。これを聴くと、映画『地獄の黙示録』を思い出す人もいらっしゃるかもしれませんね。
『ヴォータンの告別』
兄妹でありながら恋に落ちたジークムントとジークリンデ。ジークムントには死の未来が待っていましたが、二人の愛に心を打たれ、助けようと試みたのがヴァルキューレのひとりブリュンヒルデです。結局ジークムントは命を落としてしまうのですが、ブリュンヒルデは父ヴォータン(神々の長)の命に背いてジークムントを助けようとしたことから、激怒した父親に「父娘の縁を切る」と告げられます。
ブリュンヒルデは必死に釈明し、ヴォータンも次第に心を動かされるのですが、結局は娘の神性を奪いとることに。そして、これは娘を守るためなのですが、臆病者がブリュンヒルデに近づくことのないよう彼女のまわりに火を放つのです。それがこの曲『ヴォーダンの告別』。父娘の切ない別れが美しく壮大な音楽にのせて表現されています。
ワーグナーの緻密な計算の元に生まれた楽曲たちは多くのファンを魅了し、現代に至るまでずっと愛され続けてきました。毎年夏にドイツで開催される「バイロイト音楽祭」(別名「リヒャルト・ワーグナー音楽祭」)ではワーグナーのオペラ作品を約30公演も上演するのですが、ワグネリアンなるワーグナーファンたちが「バイロイト詣」などと称して通い詰めるほどです。
そこまでワーグナーが支持される理由はなんなのか? というのは私には到底計り知れないのですが、気になる方はぜひいろいろな楽曲を聴き込んで、その深淵を覗き込んでみてください…!
ノリコ・ニョキニョキ
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