あまり表立って話題になることは多くありませんが、音大生の中には演奏家の道ではなく、一般企業への就職を決意する学生もたくさんいます。ですが、その多くが「学内で就職活動についてオープンに話すことができない」「相談相手がいない」という悩みを抱えています。
この問題を解決すべく立ち上がったのが、今回お話を伺う白鳥 さゆりさん。音大生に特化した無料の就活支援サービス「ミュジキャリ」を運営しています。白鳥さんは、一体どのような想いでミュジキャリを立ち上げたのでしょうか。
RENEW株式会社 代表取締役。3歳からピアノをはじめる。兵庫県立西宮高校音楽科、大阪教育大学教養学科芸術専攻音楽コースを卒業し、新卒でリクルートキャリア入社。会社員をしながら出場した第18回ペトロフピアノコンクール(現東京国際ピアノコンクール)にて第1位受賞。会社員とピアニストのパラレルキャリアを実現。ビジネスの世界と音楽の世界を経験する中で見えてきたクラシック音楽業界の課題を解決するため、「業界の人材とコンテンツを生かして世の中をよりよくする」というビジョンで、2018年RENEW株式会社を創業。
音大生の就活はもはやマイナーなものではない
十分なキャリア支援を受けられていない音大生
自身も音大からリクルートキャリアに入社し、採用コンサルタントとして法人営業に従事してきた経験をもつ白鳥さん。だからこそ、音大生が肩身の狭い思いをしながら、情報の少ない中で就職活動をしている現状に大きな課題を感じたと言います。
「まず最初に誤解してほしくない点があって、ミュジキャリはあくまで、音大生に就職を勧めたいのではなく、就職を決意した音大生の支援をすることを目的としています。当社の調査では、平成30年度の首都圏に位置する音楽大学や音楽系学部(合計18大学)卒業生の総数※は2506人にのぼり、そのうちの24.4%にあたる610人が一般企業への就職という進路を選んでいるんです。
音大生の1/4という人数が就職という選択をしているのに、いつまでも就職を “マイナーな進路” として認識し、十分な支援体制をもてていないことは不適切な状況だなと。情報が足りない中で納得のいかない就活をしてしまうのは、とてももったいないですよね」
※音楽之友社「音楽大学・学校案内2020 国公立大・私大・短大・高校・中学・音楽学校・大学院」より
−もったいないとは具体的にどのような点について思うのですか?
「就活をスタートするとき、66.7%の音大生は『音大生の就職活動は不利だと思っていた』と回答しているんです。ですが、同様の進路を選んだ社会人や内定者に『就活や就職をした結果、音楽を通して培った力は社会で活きると感じますか?』という質問をしたところ92.1%がはいと回答しています。
また、就活中に身近に経験者の相談相手がいなかった人に、経験者に相談したかったかと質問したところ、88.2%がYESの回答でした。このことから、就活中の音大生、就活を終えた内定者、働いている音大卒社会人とのつながりを作りコミュニティを広げていく有益性を感じたのです」
専門性を生かしたミュジキャリのサポート
ミュジキャリでは、音大卒社会人や内定者などがアドバイザーとして、現役音大生の自己分析やエントリーシートの添削、企業分析、就職活動スケジュール設定などの指導をおこないます。また、24時間365日対応可能なオンライン面談やチャットツールによるオンラインサポートを提供し、音大生はいつでもどこでも、就職活動のアドバイスを受けることができるそう。2019年8月にテストパイロット版としてサービスを開始以降、関東圏を中心とした音大生185人(2020年5月1日現在)が利用しています。
「実際、音大生がもつスキルは就活において本当に大きな強みになるんです。それをミュジキャリ独自の自己分析によって明確にし、エントリーシートや面接対策に生かすことで、高い内定率を実現しています。企業にとっても就活する音大生にとっても、ここのマッチングがうまくいくことはwin-winなんです」
−具体的にどのように自己PRを作っていくのですか?
「カウンセリングを通して、一人ひとりのモチベーションの源泉がどこにあるのかというのを探っていきます。音楽を頑張ってきたというのは、音大生共通のこと。ですが『なぜ頑張っているのか』『どう頑張ってきたか』は人によってさまざまです。そこを明確に見つめ直すことによって、説得力のある自己PRが作成できるんです。
やり方としては、たとえば少人数での自己分析講座ではモチベーショングラフを使っています。人生のモチベーションの上下を振り返ることで、モチベーションの源泉が見えてくるんですよ」
モチベーショングラフというのは、年齢軸を横軸に、モチベーションの高低を縦軸にとって、人生の中でモチベーションがどう推移してきたかを可視化したもの。音大生がグラフを描くと、コンクール前にグラフが隆起するなど、おおむね音楽人生と連動したものになることが多いという。白鳥さんは、特に印象に残っているケースとして、この春に新卒社員として大手企業に就職した学生のことを振り返ります。
「彼女はとても向上心があって、志望している企業群のレベルも高かった。ですが、『音大の学歴は不利だ』と思い込んでいて、音楽経験ではないエピソードで戦っていたんです。20年間打ち込んできたピアノの話は一言もせず、数カ月だけのインターンの実績を話していたりする。
なぜそのようになってしまうかと言うと、音大生にとって『音楽に対する努力』があまりに当たり前のものになってしまっていて、客観的に見てそれが価値あるものだと気づけていないんですね。ですが、若いうちから目標意識をもって毎日8時間もの練習をこなすのは、一般の方から見たら十分すぎるほど立派な『努力する才能』の証です。
あとは伝え方の問題。ただ『ピアノを20年間やっていました』ではなく、なぜ、どのように、ピアノに打ち込んできたかを伝えなくては、その努力値が相手に伝わりません。このように本質的な部分からテクニカルなところまで綿密にフォローすることによって、結果的に本人にとっても納得のいく会社から内定をいただくことができました」
音大生の就活インフラへ!
ミュジキャリは音楽やエンタメ業界ばかりでなく、製造、IT、人材、小売、広告、アパレル……大企業からベンチャー企業まで幅広く内定者を出しています。「やるからには仕事で成果を出したい」という意欲をもった就活生に特に迎合するサービスです。
「就職後も音楽を続けていきたいという想いはほとんどの子がもっています。ですが、そのために『残業がない』とか『休みが多い』のような条件ありきで職場探しをするのはおすすめできません。もちろん、職場環境がよいことはよいことなのですが、それはそれとして『やりがいを感じられる仕事に、モチベーション高く打ち込むことのおもしろさ』を知ってほしいと思うのです。それは音楽に次ぐやりがいとなって彼らの人生を豊かなものにすると信じています」
ミュジキャリ卒業後も、OG会としてともに就活を乗り越えた仲間たちとの交流は続くそう。また、卒業生の多くは、次の世代の就活生にアドバイスをするポジションとして協力してくれると言います。
「めざしているのは、ミュジキャリが音大生の就活インフラになることです。現状で、関東では音大生の就活人口の1/4くらいがミュジキャリに登録してくれているので、今年度は1/2のシェアをとれると見込んでいます。
就活をする音大生が、少しでも楽しく、希望をもって活動してくれたら、これほど嬉しいことはありません。こうしてクラシック音楽業界と社会との接点を少しでも多く創出し貢献していくことが、私個人にとっても大きなやりがいになっています」
人生において一度しかない「新卒採用」という市場で、満足のできる結果を残せるかどうか。音大生は、今こそ真剣に就活との向き合い方を再考すべきなのかもしれません。00
ミュジキャリでは、①個別就活相談 ②少人数での就職支援講座 ③オンラインイベント など自分に合った形でプログラムを受けることができます。将来に不安を感じている音大生がいたら、下記URLから登録をしてみてはどうでしょうか。
ノリコ・ニョキニョキ
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