今週もおけいこ道のお時間がやってまいりました。ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆がお送りいたします。
今日のテーマは「いろいろな先生に習う」。同時にふたり以上の先生に習って、混乱した経験はありませんか…?
いろいろな先生に習うと…
同時にいろいろな先生にレッスンを受けたとき、生徒は少なからず混乱します。なぜなら、先生によって考え方が異なるからです。
わかりやすいところだと、ボウイングやフィンガリングが違って迷うことがあると思います。大きくなればなるほど、さまざまな弓使い・指使いに出会う可能性が広がるので、これを「混乱の原因」ではなく「発展の材料」にしたいものです。
今回はこの「混乱」に具体的に対処する方法を考えていきましょう。
フィンガリングは語る
今回は「複数のフィンガリングを教わって迷っている」事例を取り上げましょう。手元によい実例があります。
この原稿を書いている今現在、わたしはプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番を勉強しているのですが、この曲を勉強するのはこれが2回目。前回弾いたときは大学受験曲だったこともあり、さまざまな先生に教えを請い、その時点でいろいろなフィンガリング(指使い)を教わりました。
そして今回また別の先生と勉強するとあって、先生の譜面を見せていただいてフィンガリングを写していたら、楽譜の上が指番号で洪水になっていました。
この状態をどうしていくか、子供のうちはこういったことでものすごく混乱し悩んでしまうものです。そんなときは親御さんが思考の整理をお手伝いしてあげても良いのかなと思います。
指番号というのは、ただ弾きやすい弾きにくいだけを考えているわけではなく、そこにはさまざまな音楽的思考(嗜好とも言えるか)が反映されているので、指番号を見れば先生のフレーズの取り方がわかると言っても過言ではありません。つまり、ここで大切なのは、指番号の向こう側にある先生の意図を読み取ることです。
たとえば前述のコンチェルトの第1楽章冒頭、7小節目から8小節目にかけて、ある先生は弓を返すタイミングで移弦したほうが弦を変えたことが聞こえにくいのでオススメと言い、またある先生はひとつの弓の中で隣の弦に行っておいたほうが移弦が聞こえなくて良いと言います。
一見、正反対のことをおっしゃっていますね。
でもこれ、本質を見れば同じことを言われているのがわかると思います。どちらの先生も、ここで実現したいのは「移弦が聞こえないようになめらかに弦を変える」こと。つまり、これが追い求めるべき本質です。もしフィンガリングを選べるのならば、自分がよりなめらかに移弦できる方法を取ることで、先生に言われたことの本質を体現したと言えるでしょう。
何をどう選びとるか
とはいえ現実としては、メインで習っている先生のフィンガリングを全面的に最優先するのが良いでしょう。先生はそれが一番良い方法だということでオススメしてくださっているわけなので、それにわざわざ逆らうのは天の邪鬼です。
ただ、もし生徒がとても上手に移弦できていたら、先生はご自分のフィンガリングをお伝えにならないかもしれません。レッスンで生徒の演奏を聞いていて「あまりうまく移弦できていないな」と感じるから、「このほうがきれいに移弦できるよ」という意味で、先生はご自分の指使いを教えてくださるわけです。
ここで出てくるのが我が師匠の名言。「うまけりゃなんでもいい」。一瞬投げやりに聞こえるこの言葉ですが、以上のことをふまえると、とても本質をついた言葉だと思いませんか…?
複数の先生に習うに至る状況にはいろいろな事情があると思うので、ときに、ある先生に教わったことは全面的に受け入れられないシーンもあるでしょう。それでも、その教わった技法の奥にある本質を生徒さんが理解してくれて、その上で取捨選択をするのだったら、先生も理解を示してくれると思います。
言葉だけに惑わされて、その向こうにある本質を見落とさないようにする。これが、同時に複数の先生と勉強するときに必要な考え方だとわたしは思います。
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