卑弥呼のバッハ探究4「無伴奏パルティータ第3番 メヌエット」

こんにちは! ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。

本日は無伴奏パルティータ第3番より、ふたつのメヌエットをまとめてみました。メヌエットを始めとする3拍子の舞曲は、日本人の弱点と言われて久しいですが、どのようにアプローチしていったらよいのでしょうか。

ふたつのメヌエット

さて、この組曲は「メヌエット Ⅰ 」と「メヌエット Ⅱ 」を持っています。これはこの時代のメヌエットのスタイルで、Ⅰ と Ⅱ は通常切れ目なく演奏され、Ⅱ を奏したあと再び Ⅰ に戻るのが正式な形です。メヌエットはもともと二部形式で、対照的な性格を持ったふたつのメロディーを8小節ごとに繰り返すスタイルが取られていましたが、これが次第に拡大していき、三部形式のようになっていきます。結果、この曲にも見られるように、初めに演奏したセクションをまた繰り返して曲を締めるようになったのです。

ところでこのパルティータ3番の演奏をいろいろ聴くと、「メヌエット Ⅰ 」に戻らない音源もあります。なおバッハより少しあとの時代になると「メヌエット Ⅱ 」は「トリオ」と呼ばれるようになります。

まずどんなテンポで弾き出そうか、そこが悩みどころだと思いますが、メヌエットという舞曲のステップを思い浮かべるのが最適だとわたしは考えます。この曲はちょっと速めのテンポで弾きたくなってしまいますが、実際に自分の足でステップを踏んでみると、あまり速くは踊れないことがわかります。かつメヌエットのステップは2小節でひとつ、つまり弾くにあたっても2小節ごとの “単位” を感じることは必須のはずです。

このメヌエットは、優しい顔をしていきなりダブルストップ祭りなので奏者にとっては嫌な感じです。和音の音程を整えつつ、2本の弦にバランス良く弓の毛を乗せて、声部の弾き分けに努めましょう。上の方の弦にやや重みをかけつつ、下の声部を均一な長さで鳴らしていけるよう練習していきます。

ストロークを整える

メヌエット Ⅰ の後半では、フーガで言ったら嬉遊部のような、八分音符の分散和音で遊ぶセクションが登場します。これは “八分音符3つを連ねたスラー” 対 “八分音符ひとつずつ” の弓の比率が難しいために、音がいびつになりがち。

そんなときは、ゆっくり練習に限ります。テンポを落として弾くことによって、弓や腕の様子を観察する余裕ができるので、どのような動きを取ると快適に音楽を運べるのかじっくり観察し、腕に染み込ませます。そうすれば、元のテンポに戻してもきっと弾けます、ええきっと。

バグパイプを鳴らそう

メヌエット Ⅱ を見てみましょう。なるほど、メヌエット Ⅰ の快活な感じとは全く反対の性格を持っていますね。のどかな曲調で、比較的スラーがながーく続いていきます。

メヌエットⅡ では、ミュゼット(バグパイプ)の模写が顕著です。長い音をずっと均一に鳴らせるのは、弦楽器ならでは…! とはいえ、音が非常に長ければ我々は弓を返す必要が出てきます。わたしは弓を変える場所をあえて小節の頭とずらしています。そうすることで、ストロークを変える瞬間が“聞こえづらく”なるからです(ボウイングがへたなのでお聞きの通りもろバレなのですが)

自分のメヌエットをつかみたい

メヌエットの Ⅰ と Ⅱ でテンポは変更せず、基本的には同じテンポで演奏していきます、が、まぁ Ⅱ のが気持ち緩やかにはなりますよね。その場合は、Ⅰ に戻ったときにテンポもしっかり戻していくことをお忘れなく。

メヌエットはもともとフランス発祥の古典舞曲(バロック・ダンス)で、長く宮廷で愛された踊りですから、優雅さ・高貴さは必然のもの。技術的な困難は表に出さずに、涼しい顔で弾きたいですね。

同じパルティータ第3番の中でも、ルールやメヌエット、次回取り上げるブーレは、コンクールの課題曲になりがちなプレリュードやガヴォット、そして終曲のジーグほど弾く機会は多くないかもしれません。けれども、全曲に触れてみてこそ、真のプレリュードの在り方やガヴォットの立ち位置が見えてくるとわたしは考えます。特にテンポなどは前後の曲との相関性もありますので、ぜひぜひ課題曲に収まらず全曲勉強してほしいなぁ、と思うのです。

次回はブーレとジーグを弾いてみます。パルティータ第3番の終わりが見えてきましたね! それではまたすぐにお会いいたしましょう。

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栃木県出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程修了、ディプロマ・オブ・ロイヤルアカデミー、ドリス・フォークナー賞を受賞。2018年9月より同音楽院博士課程に進学。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。