クラシックバレエ恋物語~第1幕『コッペリア』


こんにちは、ライターの田下愛です。

今回から、数回にわたって連載コラムをお届けします。テーマはずばり、“クラシックバレエと恋”

クラシック音楽における重要なジャンルのひとつであるバレエ音楽。その中で描かれる素敵な恋の物語とおすすめの曲を紹介したいと思います。

第1幕(1回)となる今回の作品は、『コッペリア』です。

バレエ『コッペリア』のあらすじ

舞台はポーランドの村。村の若者たちの注目を集めているのは、人形師コッペリウスの家の窓辺で本を読む美しい少女・コッペリア。村娘のスワニルダは、婚約者のフランツがコッペリアに夢中なのがおもしろくありません。

実は、コッペリアはコッペリウスが作り上げた人形ですが、とてもよくできているので、誰もそのことに気がつかずにいます。

ある日、外出したコッペリウスは家の鍵を落としてしまいます。そして、その鍵を拾ったスワニルダは友人たちとコッペリウス宅へ行き、コッペリアの正体を知るのです。

そこへコッペリウスが帰ってきます。逃げ遅れてひとり隠れるスワニルダですが、間の悪いことになんとコッペリアに会いにフランツが忍び込んできます。コッペリウスに捕まったフランツは、睡眠薬の入ったワインを飲んで眠らされ、コッペリウスはフランツの魂をコッペリアに移そうとします。

隠れていたスワニルダは、コッペリアになりすまして命の宿ったふりをしてみせます。そして、スワニルダは大暴れをして人形師を困惑させ、目を覚ましたフランツもコッペリアが人形であることを知り、2人は逃げ出すのです。

その後、仲直りしたスワニルダとフランツは、晴れて結婚。領主から結婚祝いにもらったお金をあげることでコッペリウスともケリをつけ、村ではお祝いのダンスが繰り広げられます。

強気なヒロイン・スワニルダの恋の行方は?

あらすじを読んでいただいて、察しがつくかと思うのですが、『コッペリア』は、スワニルダ、フランツ、コッペリア(+コッペリウス)が繰り広げる恋のさやあてとドタバタの物語。いわばラブコメディーです。

優美なクラシックバレエの世界では、しとやかなお姫様を描いた作品もありますが、『コッペリア』の村娘・スワニルダは、おてんばで焼きもち焼きで、どちらかというとじゃじゃ馬タイプのヒロイン。

実は私が少女時代に初めて『コッペリア』の物語を読んだとき、まず冒頭に「本を読む美しい少女」という描写が出てきまして、その印象が強かったので、てっきりコッペリアがヒロインかと思ったんですね。

スワニルダは、少しあとから登場して、しかも「フランツったら、あんなすましたコッペリアに…」のようなぎすぎすした文句を言っていた記憶があり、当時てっきりヒロインをいじめる敵役の女の子かと勘違いしてしまいました(笑)

しかし、物語を読みすすめて全体像がわかっていくと、スワニルダが非常に人間らしくて生き生きとしたキュートなヒロインであることがわかってきます。

婚約者のフランツがコッペリアに惹かれるのを見て焼きもちを焼いたり、好奇心からコッペリウスの家に忍び込んだりと、彼女は、まさに気が強く大胆不敵なヒロイン。そして、フランツの魂を抜きだそうとするコッペリウスの悪だくみを知ったとき、機転を利かせて愛する婚約者を助け出します。

正直、相手のフランツという青年は、スワニルダと婚約していながらコッペリアに心奪われ、しかも脈がありそうとなると、コッペリアの家にまで入り込んできて、この時点で、けっこうな不実な男である気がします。さらに、忍び込んだところをコッペリウスに捕まり、眠らされてしまう情けなさ。個人的にですが、スワニルダ、こんな男やめとけよ…と、ちょっと思ってしまいましたね。

でも、スワニルダはフランツが好き。彼が好きだからこそ嫉妬もするし、彼のピンチをなんとかしようと大奮闘する。好きな人に一途なこの姿もまた彼女の魅力。

そして、スワニルダは見事な行動力でフランツを救い、コッペリアに惹かれていた彼の心を自分のもとへ取り戻します。

そう、強気なヒロインは、恋も自分の力で勝ち取ってみせるのです!

『コッペリア』のおすすめの一曲は~第1幕の『ワルツ』

フランス生まれのレオ・ドリーブが作曲した『コッペリア』には、フランスらしい優美だったり、小粋だったり、華やかだったりする楽曲が詰まっていますが、中でも愛されている名曲は、第1幕のワルツ。

ドリーブの作品の中で特に知られている曲であり、クラシックの「ワルツ」の分野においても非常に人気がある一曲で、日本でもCMに使われたことなどがありました。このワルツは、明るくかわいらしい旋律がとにかく印象的。2分前後の短い曲ですが、終始美しくのびやかな旋律が続き、聞いている人の心を魅了します。

また、その美しさは、バラや華やかな女王様のドレスのような豪奢なそれではなく、野に咲く花や村娘のかわいいエプロンのような素朴で若々しい美しさ。そう、まさにおてんばで明るい村の人気者・スワニルダの魅力そのものといってよい曲なのです。

バレエの第1幕では、この曲にのせてスワニルダが登場し、軽やかに踊り出します。彼女がその美しさ、軽やかさ、明るさで、自身が物語のヒロインであることを観客に知らしめる最初のシーンです。

そして、このワルツを踊る中である意味見せ場なのが、スワニルダがコッペリアに挨拶をしてみせるシーン。ていねいに挨拶するスワニルダに対し、人形のコッペリアは当然無反応。スワニルダは「なに、この子?」という感じでちょっとムッとしてみせます。

ここで、スワニルダがかわいいだけでなく、ちょっと気の強い女の子であることもわかる。スワニルダ役のバレリーナの演技力の見せどころだと思います。

ちなみに、スワニルダには知らん顔だったコッペリア、その後の展開で、フランツには愛想を振りまきます。

もちろん、それはコッペリウスが仕組んだいたずら。しかし、行動だけを見れば、同性を無視して異性には媚びを売るという、同性側からするとほんと「なに、この女?」ってイラっとするパターンのやつ(笑)。

我ながらこのような彼女をよくもヒロインと勘違いしてしまったものです。ごめんね、スワニルダ!


ABOUTこの記事をかいた人

田下愛

ライター/クラシック随想家。普段はマンガ・アニメ・映画・音楽などのエンタメを中心に取材・執筆活動中。ヴァイオリン演奏が趣味で、都内のアマチュア・オーケストラで長年活動を続けています。好きな作曲家はブラームス、ドヴォルザーク、フォーレなど。