今週もおけいこ道のお時間がやってまいりました。ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆がお送りいたします。
今日のテーマは「弦の張り替え」について。弦を替えるときのあれこれです。
替えるタイミング
近年は丈夫な弦も増えて切れにくくなりましたので、弦の替えどきってわかりにくいですよね。目安は音色。音が鳴らなくなったらもう古びている証拠です。つまり、音をよく鳴らしたいときは交換したほうが良いでしょう。
新しい弦は張力がとても強く、張ってすぐはクルクルともどりがち。本番前に弦を新しくしたいときは、太い弦なら 1・2 週間前に、高いほうの弦なら 1 週間前から 3 日前くらいには張り替えを済ませましょう。張り終えたら、指で引っ張るようにして伸ばすと、比較的早く音程が落ち着きます。
弦の使用期限としては、体感的に 3 か月くらいで「古びたなぁ」と感じます。大体、音色のピークは張って 1 か月くらい。ピークまでは上り調子ですが、そこを超えると質はどんどん下がっていきます。フラジオレットを弾くときなどは顕著で、新しい弦だとかなりクリアに鳴るし、古い弦だと圧倒的に鳴りづらくなります。
弦を替える
弦を替える作業って少し怖いですよね。わたしが子供の頃は、いつもレッスンの中で先生が替えてくださっていました。ゆえに自分では弦を張れないものだから、おうちで切れると一大事! まるで病院に急患で飛びこむように先生のお宅に駆けこんでいました。
弦を替えるときに何が怖いって、駒を動かしてしまったり、倒してしまうこと。駒が動いてしまうことで起こるリスクは、第一に音色の変化。また倒してしまった場合には、楽器を傷つけたり、駒が割れるなどの事故が考えられます。
駒というのは言わば音色の要。木箱の中に立つ魂柱(こんちゅう)との兼ね合いで駒の位置が決まるので、素人では設置はまず難しいです。また駒は楽器ごと、奏者ごとの特徴に合わせて手作りするもの。割ってしまうと作り直すことになり、修理代もかかります。
そういったアクシデントを防ぐために、弦を替えるときは 1 本ずつ交換すると安全です。1 本緩めていても、ほかの 3 本で弦の張り(テンションといいます)を保てば、駒の位置も保持できるので動きにくいのです。
ですが、弦の弛緩があると駒がゆがむため、全体をすこし緩めてから弦を替えることをおすすめしている先生もいらっしゃいました。原則、習っている先生がなさっている方法に従うのがいいと思います。
弦を交換するときは、張りながら駒がゆがんでいないか確認しながらおこないます。糸巻きで引っ張るために、駒はどうしても指板側に倒れていくからです。それでも替える過程で駒が動いてしまうことはあります。そのときは調整に出して職人さんに見ていただきましょう。
なお駒の角度を整えると簡単に書きましたが、実際には少し難しい作業です。弦を全て張ってある状態で駒の角度を直すには、ちょっとしたコツと勇気がいります。とても文字ではお伝えしきれないので、習っている先生や見てもらっている職人さんに直接習うとよいと思います。
弦の張り替えアクシデント
わたし自身、弦の交換時にありとあらゆる失敗をしてきました。駒を倒したことは一度や二度ではなく(汗)、一番ひどいときは弦を張っている最中にバッターンと…そしてそのまま駒はぱっくり割れてしまいました。かなり弦のテンションが高い状態だったので恐ろしい音がしましたし、テールピースの裏側に出ているE線のアジャスターの裏で楽器の表板に傷をつけてしまいました。
幸いそのときは楽器をすぐに職人さんにお預けできたのですが、その帰り道、母の運転する車の中であまりのショックに放心状態だったわたし。バックミラーに映るわたしの顔を見かねた母は、通り道にオープンしたばかりのスターバックス路面店(田舎の証拠)があったので、そこでホットココアを買ってくれました(笑)。今でもココアを飲むとそのときのことをちょっと思い出します。
駒の適切な位置やその角度は、職人さんでも数年は経験を積まないと見極めが難しいそうです。駒は一見小さな木片ですが、とても重要で繊細なもの。少しでも心配なことがあるときは、先生や職人さんにご相談しましょう。
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