【検証】尺八奏者は水中で何秒間息を止められるの?

みなさんは尺八の演奏を間近で聞いたことがありますか?

尺八は1500年前からある伝統楽器で、昔は虚無僧と呼ばれる僧侶たちが修行の一貫として演奏していました。その構造は非常にシンプルなため、音量も音色も、奏者の機微が反映される繊細さを持ち合わせています。

私は先日尺八の演奏を聴く機会があったのですが、そのとき奏者さんが大量の息を楽器に吹き込む様子を見て、思いました。

(肺活量すごそう…)

そこで、今回は「尺八奏者が水中で何秒間息を止められるのか」を調べます。

尺八奏者 中村 仁樹さん

今回ご協力してくださるのは、尺八奏者である中村仁樹(なかむら まさき)さんです。

<プロフィール>

愛媛県宇和島市出身。宇和島文化大使。浄土宗芸術家協会会員。蓮-REN-主宰。斬月メンバー。HANABIメンバー。増上寺にて仏教成人大学講師。

17歳で尺八に出会い、その魅力に魅せられ、東京藝術大学音楽学部邦楽科尺八専攻に進む。尺八本来の響きを生かし、さまざまなジャンルを自在に行き来するスタイルは多くのファンを魅了してやまない。これまでに10枚のアルバムを発表。30枚以上のアルバムに参加。サントリーホール・両国国技館・アメリカ大使館・フランス大使館などで招待演奏をおこなう。

増上寺、東福寺、大覚寺、當麻寺、上賀茂神社、春日大社など社寺仏閣で100回超の演奏を重ねる。藤原道山、上妻宏光、川井郁子、鳥羽一郎、坂本冬美、水谷千重子、嶋田彩綜、紫舟、ライムグリーンオーケストラ、ルビパ・ド・オーケストラ、とコラボレーション。


ご覧の通り、本格的に演奏活動をしていらっしゃる中村さん。しかし、水中で息を止めるお仕事は初めてとのことです。

では早速、タイムを計らせていただきたいと思います。比較対象として誰かいた方がわかりやすいかと思い、COSMUSICAライターでフルーティストの岩崎花保さんにも参加してもらいました。

水中で何秒間息を止められる?

「家で練習してきました」という尺八奏者 中村さんと、「ゴーグルを持ってきました」というフルート奏者 岩崎さん。何事にも本気で取り組む姿勢に胸を打たれます。

ゆっくり息を吸う必要があるとのことで、カウントダウンは10秒前から。6秒を過ぎたあたりからふたりの形相が変わっていき、よく「奏者は演奏が始まると人が変わったようになる」なんて言いますが、まさにそんな印象を受けました。

…30秒経過

…1分経過

そして1分19秒で、

岩崎さんが浮上!

…1分30秒経過

…2分経過

そして…

中村さんの記録は、2分5秒という結果に!

実は2回タイムを計測しておりまして、ふたりとも2回目の方が大きくタイムが伸びました。おふたりいわく「これはちゃんと練習すればかなり伸ばせそう!」とのこと。「また半年後にやりたい!」という言葉も飛び出すほど謎の盛り上がりを見せました…(笑)

ちなみにフリーダイビングの世界では22分を超える記録を持つドイツのダイバーがいて、ギネス記録となっています。そこまでくるともはや肺活量うんぬんではなく、いかに体が酸素をためこめるように訓練するか…という話になってくるとかなんとか。奥が深いです…。

中村仁樹 1st アルバム『祈り』

さて、今回撮影に協力いただいた中村さんは、昨年10月に自身初となるソロアルバム『祈り』をリリースしています!


「祈り」
Ancient Blue Records
¥2,400+tax

このアルバムに収録されているのは全て中村さんのオリジナル曲。サウンドプロデューサーにフジキ テツ氏を迎え、打ち込みにストリングス、アコーディオン、二十五弦箏、津軽三味線などを交えたジャンルレスな作品に仕上がっています。

ここからは、『祈り』の魅力を、インタビュー形式でみなさまにお伝えしたいと思います。

−アルバム『祈り』はどのようにして生まれたのでしょうか?

「伝統音楽は敷居が高いと感じている人はとても多いため、もっと身近に感じてほしいなと思いながら作りました。これまでもポピュラリティを意識してジャズをやったり、なじみやすいメロディを書いたりしてきましたが、今までの作品はすべて生楽器で制作していたという共通点があります。ですが、今の時代なかなか「全部生楽器」という音楽を聴く機会がないですよね。そこで、今回のCDは打ち込みのトラックを入れました。

背景で壮大に作り込まれた音が鳴っている中で、尺八という対象的な楽器が鳴ります。尺八は、息や感情そのものが出る、“声”のような楽器ですので、そのコントラストをぜひお楽しみいただければと思います。

また、このCDは気軽にカフェでも聴いても良いし、腰をすえてスピーカーでじっくり聴くこともできる、そんな仕上がりになっています。ぜひ日常的に楽しんでほしいですね」

−オリジナル曲はどのように作っているのですか?

「大きく分けて3パターンあって、まずは頭の中でメロディを作って書き残していくというもの。あとは、楽器を即興で吹きながら考えることもあります。そして3つ目は、実は以前ギターを弾いていたので、リフ*から考えることがあります。それは琴の旋律に使ったり、ベースに使ったりしていますね」

*リフ:繰り返されるコード進行や旋律の音型のこと。主にリズムセクションの楽器によって演奏され、楽曲の基礎や伴奏として成立する。

−中村さんにとって、オリジナル曲を作ることはどのような意味がありますか。

「やはり自分の中から出てきた曲というのは “自分そのもの” なので、それをアウトプットして聴いてもらうということは大切だなと。実は小学生のときからずっと作曲がやりたくて、4年生くらいからときおり曲を書いていたんです。進んだのは奏者の道ですが、自分の中にあるものをアウトプットするということはずっとやりたかったことなんですよね」

−尺八の良さが生きる曲とはどんな曲なのでしょう?

「尺八にはさまざまな独特な奏法があります。『尺八は風の音を表現できる』と言われるように、こすれるような音も、微妙に上ずった音も、ドからレにいく途中の音もすべて “音楽” となって、さまざまな情景を表現することができるんです。なので、その表現力を十分に生かせるような楽曲になれば良いなと」

アルバム『祈り』はAmazonなどで手にはいるほか、Apple MusicやGoogle Play Musicでも配信されています♪ 本当に、尺八をじっくりと堪能するのでも、原稿作業のお供にでも、繰り返し楽しめる作品だと思いました。ぜひチェックしてみてくださいね。

尺八とフルートは似ている!?

ところで…。

インタビューで尺八を見せていただいた際に、「尺八とフルートは似ている」という話題になりました。

もちろん、そもそも東洋楽器と西洋楽器ですし、違いを挙げればキリがありませんが、どちらも奏者が口形(アンブシュア)によって吹き込む空気の束を調整しなければならないという点で共通しています。それだけでなく、実際に並べてみると、C管同士では長さがほぼ一緒。一方で倍音の鳴り方や吹き込む量の違いなど、細かな違いにも気付きがあったようでした。

お互いの楽器に興味津々のふたりは、レクチャーしあって演奏に興じていました。その光景は副科レッスンを彷彿とさせましたよ…(笑)

すぐに音が出ていたところはさすが!

なぜか怪しい音階ばかり奏でる中村さん

とても気さくに取材に応じてくださった中村さん。本当にありがとうございました。

中村さんには、演奏家として身を立てていくために必要な心構えや、今後挑戦していきたいことなど、もう少し踏み込んだ話もインタビューさせていただきました。後日公開となります。どうぞお楽しみに!

The following two tabs change content below.

ノリコ・ニョキニョキ

COSMUSICA発起人/編集長。1989年生。ハープ勉強中。東邦大学医学部医学科中退、東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。インハウスライターをしながら副業で執筆仕事をお引き受けしています(文字単価10円目安)。お気軽にお問い合わせください。