先日、「▶︎【検証】尺八奏者は水中で何秒間息を止められるの?」という無茶振りとも言える取材に快く応じてくださった尺八奏者の中村 仁樹(なかむら まさき)さん。
中村さんは若手尺八演奏家の第一人者で、サントリーホール、両国国技館、アメリカ大使館、フランス大使官、諸外国で招待演奏をおこなうほか、増上寺、春日大社など社寺仏閣での演奏も100回を超えています。さらに、第六回尺八新人王決定戦優勝など受賞歴も数多く、ミュージシャン、芸術家などとのコラボレーションでも注目を浴びる新進気鋭の演奏家でいらっしゃいます。
今回は、中村さんのこれまでの演奏家人生についてお話しを伺い、さらに進路に悩む音大生へのメッセージもいただいてきました!
コラボレーションが生み出す「出会い」
中村さんは、ご自身の演奏活動だけでなく、さまざまなジャンルの演奏会にもゲスト出演されています。クラシック奏者との共演や、東京ジャズフェスティバルへの参加などから得られたものは、経験だけでなく、新たなインスピレーション、チャンス、そして新しいお客さんとの出会いなど無数にあると言います。
「今まで関わりがなかったジャンルの人との交流は、とても刺激的です。ダンスミュージックとのコラボレーションは今までなかったのですが、HANABI projectを通じて踊る事の純粋な喜び、楽しさを身を持って感じることが出来ました。実感することによって『だから踊るんだな』という感覚を自分の中に取り入れることができたんです。そのようなコラボレーションを重ねていくうちに自分が豊かになって、表現の幅も広がっていきました。
もちろん自分の軸として、尺八本来の曲も手を抜かずに勉強を重ねていく必要がありますが、変に頑固にならずにいろいろなものを取り入れていきたいと思いました」
−音楽だけでなく、CDのジャケットにもなっている、写真家の浅井寛司さんとのコラボレーションも印象的ですね。
「彼は世界中を飛び回って、チベットやミャンマーなど世界中の秘境と呼ばれる場所や、軍艦島のように普段だったら行けないような場所で作品を撮っている方です。僕も四季折々、さまざまなロケーションで撮影してもらいましたが、毎回ものすごく過酷なんですよ…(笑)。氷点下の奥日光で撮影したときは、凍りついた湖の真ん中を指差して『じゃあ、あそこに立って』って…(笑)」
浅井寛司の廃墟写真展:東横線綱島の旅カフェ「ポイントウェザー」で開催中 3月5日まで。
−すばらしい作品の裏にはやはり並々ならぬ努力があるんですね…! それにしてもコラボレーションの幅広さに驚かされます。演奏も、すごくいろいろな楽器とコラボレーションされていますよね。
「尺八って、案外他の楽器となじみやすい楽器なんですよね。たとえばお箏は弾ける調性に制限がありますし、三味線はコードを演奏することができないので、コラボレーションをするとなったら多かれ少なかれ工夫が必要です。それに比べると尺八は意外といけちゃうっていう。だからこそ求められることもどんどん増えていって、日々研究しなければいけないのですが」
−コラボレーションをするときに、何かこだわりポイントはありますか?
「必ず即興的な部分を入れるようにしています。その場でしか起こらない会場との一体感を出しつつ、メロディの表現などでここは譲れないという部分はしっかりと示していくようにしていますね」
−邦楽の魅力を広く伝えていくためには、どのようなアプローチが効果的だと考えていますか。
「尺八のいろいろな側面を知ってもらうことではないかと。独奏が一番シンプルな形ですが、そこに他の楽器が加わりデュオ、トリオ、カルテット、最終的にはオーケストラと、編成が変われば尺八の“声”も変わっていきます。編成が大きくなればなるほど広がりが出る一方で、個人的な声は届きにくくなりますよね。それぞれに違う魅力があるので、いろいろな“声”を聴いてもらうことで、『尺八ってこういうことね』と感じてもらえたらなと」
一生、演奏家
−言わずもがな、音楽で生計を立てていくということは簡単なことではありません。音楽家として生き残っていくためには、どのようなことが大切だとお考えですか?
「成長曲線って、ずっと同じ角度で右肩上がりというわけにはいかないじゃないですか。ふと5年前の自分と見比べたときに、本当はすごくうまくなっているはずなのに、なんだか何も変わっていない気がするっていうことはよくあるし、そこをどう乗り越えていくかというのが永遠の課題だと思っています。
僕に関して言えば、今は『尺八が元々禅の修行に使われていた』というところに立ち返って、自我を捨てていく作業や、何も考えず自然に良いものを出そうという方向に意識を持っていくのが“マイブーム”ですね(笑)。全てを削ぎ落として、シンプルに音楽や感情そのものを届けるという。
いずれにせよ尺八は一生やっていくものですから、あらゆる角度から成長する方法を模索していいくしかないなと」
−精神論的な部分では、どうですか?
「『すなおになる』ということでしょうか。僕もそうだったのですが、演奏家って結構頑固で、人の言うことを聞かない人多いですよね(笑)。場合によっては、『100人にひとりでも感動してくれればいい』という考えを持っている人もいるかと思いますが、やっぱり演奏は人を相手にすることなので、どうすれば喜んでもらえるかという意識は大切です。
僕は30歳の頃に、意識的にいろいろな職業の人と話すようにしてみたんです。学校の先生やサラリーマン、それまで自分が関わってこなかったありとあらゆる人と話してみたら、急に自分の世界が広がって。演奏会に来てくれているひとりひとりの方が身近な存在に感じられて、この人たちに喜んでもらいたいし、喜んでもらえることが自分の喜びなのだと気付きました。
昔はひねくれたところもあって、『良かったよ』と言っていただけても、『いや違うんだ、目指すべきはこんなもんじゃないんだ…!』なんて思っていたときもありましたが(笑)、今は良かったと言ってもらえたら、それをすなおに受け取れるようになりましたね」
ビジョンは明確に
−COSMUSICAには、音大生の読者も多くいます。進路についていろいろ悩んでいる方もいるかと思うので、フリーの演奏家として何かアドバイスがあればいただけますか?
「難しいですね(笑)。でも、数年後のことを考えられるようになれば良いのかな、と思います。たとえば30歳までには年間何本演奏会をしていて、お弟子さんは何人いて、CDを何枚出している…というふうに、具体的に目標を持つということ。そうすれば、それを叶えるために何をするべきで、誰が必要かということが自然と見えてきます。誰というのは、人によってはお弟子さんかもしれないし、マネージャーさんかもしれないし、お客さんかもしれないのですが、僕の経験則から言うと、必ず人がいないとだめだなと。
それから、音楽といってもひとつだけじゃないですよね。演奏家だけじゃなくて、曲を作っている人も、レッスンを生業としている人もいるし、どれが正解ということもないから、一番自分にしっくりくるものを見つけてほしいです。もし10年後の姿が思い浮かべられないのであれば、なぜ思い浮かべられないのかというところを突き詰めて考えてみると良いと思います。きっとなにか問題が見つかるはずです」
まっすぐ、それでいて柔軟に音楽と向き合い成長されてきた中村さんの言葉。それは中村さんの演奏される尺八の音色と同じく、とても力強いものに感じられました。
これからもきっと、私たちがあっと驚くようなコラボレーションやパフォーマンスを見せてくれるのだろうと思うと、わくわくすると同時に、自分ももっとがんばろう、がんばりたいと思えた筆者なのでした。
出演情報
■青葉台JAZZ Experience
青葉台東急スクエアがご提案するジャズライブ企画“青葉台 JAZZ Experience” 第4回目。ピアニスト佐藤昌との相性抜群なデュオセッションです。尺八で奏でるジャズ、めちゃくちゃかっこいいですよ! 絶対あなたも、体を揺らすはず!
日時:2/19(日)13:00~/16:00~(各回40分)
会場:South-1 本館 1F アトリウム
詳細はこちらから!
■舞台「THE FACTORY」
舞台は世界のエンターテイメントを生み出す工場 “THE FACTORY”。謎の工場長と愉快な工場員たちが、工場の作り出すエンターテイメントや伝統芸能をコミカルに解説していくエンターテイメントショー。
アーティストとして、中村さんのほか、能楽師狂言方の大藏基誠さんや津軽三味線奏者の久保田祐司さん、和太鼓奏者の響道宴さんなどそうそうたるメンバーが出演。
“見たことのない”日本文化を目撃するチャンスです!
日程:2017年2月24日(金)~2017年2月26日(日)
会場:CBGKシブゲキ‼︎
詳細・ご予約はこちらから!
ノリコ・ニョキニョキ
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