進め! ヴァイオリンおけいこ道 第37回「楽器と移動する」

今週もおけいこ道のお時間がやってまいりました。ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆がお送りいたします。

今日のテーマは楽器との移動について。交通手段ごとに考えてみます。

楽器と移動する

楽器と移動するのは、ヴァイオリニストの宿命というか義務というか…誇りでもあり、負担でもあることは否めません。持ち運べる大きさとはいえ、通常の日常生活を送る上ではなかなか手にしないサイズです。

それが関係あるのかどうかわかりませんが、わたしがこれまで習ってきた先生全員が車の運転がお得意、という奇遇なご縁があります。都内にお住まいの方も、地方まで高速をブンブン飛ばしていけるくらい、運転に苦がない先生ばかりです。ヴァイオリニスト運転しがち説はいつか検証したいと思っています。

さて、移動が多いのは演奏家の特徴です。車、電車、バス、飛行機…それぞれに楽器と一緒に乗るちょっとしたコツがあるので、簡単にまとめてみます。

乗用車

乗用車の場合は、後部座席のほうが楽器を乗せやすいのは言わずもがな。人がいなければ座席の上に置けますし、わたしは後部座席と運転席or助手席の間にスポッとはめるのが安定するので好きです。

もしたくさんの人と席を分かつ必要があるときは、楽器を縦にして自分の足の間に挟みます。これは複数人でタクシーに乗るときなんか、特に役立ちます。この場合は自分の体を半身先に車内に入れてから、楽器を立てて、残り半身を収めるのがスムーズ。これなら助手席にも楽器と座ることが可能です。

そしてくれぐれも、トランクに入れるのは避けてくださいね。なぜならトランクルームは空調がききません。

電車・バス

バスや電車のような公共交通機関は、いかに邪魔にならないかということに気を遣います。ヴァイオリンは手で持っても肩に背負っても、やはり自分の幅からははみ出すので、どうしても邪魔になるものです。

たとえばあまり疲れていなくても、状況によっては座ったほうが邪魔にならないこともあります。座席に座るときに、背負った楽器は降ろすべきか、そのまま座るべきかも少し考えますね。楽器を背から降ろすときは、ケースで周りの人をぶたないように気をつけましょう。そして座っている間は、紐を手綱のように持ち、両足の間に立てたり、足の甲に乗せたりするのが一般的です。

しかしこれが意外に邪魔になることもあって、誰かのハンドバックが楽器にアタックしてきたときには涙がちょちょぎれます。一瞬キレそうになるけれど、でもやっぱり楽器が邪魔なのは否定できないのですよ(涙)。精一杯腰を椅子の背につけて、なるべく深く座るよりほかないです…。

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新幹線

電車と言えど、新幹線の場合は少し楽になります。まず新幹線なら網棚に乗せたほうがかなり楽です。わたしなんかは当初、網棚に楽器を置くことに抵抗があったのですが、考えてみたら自分の膝の前に置いてケースをぶっ倒しているようなわたしは、網棚に乗せたほうが絶対安定しています(汗)。

新幹線の網棚は在来線と異なり、縁が上を向いているので、荷物落下の可能性はかなり低いです。お箏の方も網棚に乗せると言っていました。在来線も「グリーン席」には“縁上向き型”の網棚がある座席があり、これは穴場です。

また自分の前を人が通ることもありますよね。そんなときは楽器が無いほうがスムーズです。と言いながらわたしは楽器を自分の前に置いてケースをテーブル代わりにしているんですけれど…網棚にケースを置く瞬間に立てる音で、周りの注目を集めちゃうのが気恥ずかしくって…。

飛行機

飛行機に関しては、楽器は頭上の荷物棚に収めるよう、むしろ義務付けられています。かつて中学生の頃に国内線に乗ったら、楽器を上に入れるようキビしめに言われたのですが、ときを同じくして別の航空会社に乗った友人は、荷物棚にいれて何かあっても責任を取れないから、座席の前で抱えているよう指示を受けたと言っていて、驚いたものです。

ひと昔前のことなので、楽器の収め方についてまだ習慣が確立されていなかったのだとは思いますが、とにかく飛行機はCAさんの指示がイチバン。従わないと飛行機に乗れませんからね(汗)。自分の座席から離れたところに置くことになってしまうこともあります。

そんなときに大事なのは、絶対に譲れない条件を伝えること。楽器でコワレモノであること、天地無用であること、上に重たいものを乗せないでほしいこと…それらを「笑顔」で伝えることで、相手も「信頼に応えなくては」と思ってくれます。

また荷物棚を共有する近隣の座席の方とのコミュニケーションも大切です。ただ黙って占領しているのと、どういったわけで棚を使っているのかを説明するのとでは、相手の態度も変わります。その意味でも、もし旅の道連れがいたら、近くを身内で囲むほうが気は楽ですね…。

▷参考「【機内持ち込み】飛行機への楽器持ち込みのリアル【楽器】

快適な旅を!

「移動が多い」という、職業柄の事情。せっかくなら移動も楽しく過ごしたいものです。周りの人が不快な思いをしていたら、楽しい旅は成り立ちません。気遣いは忘れずに、でも自分も楽しめるように楽器の環境を守りつつ、「旅芸人」ライフを送りたいですね!


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栃木県出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程修了、ディプロマ・オブ・ロイヤルアカデミー、ドリス・フォークナー賞を受賞。2018年9月より同音楽院博士課程に進学。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。