進め!ヴァイオリンおけいこ道 第2話 「レッスンに何を着ていく?」

こんにちは。卑弥呼こと、ヴァイオリン弾き原田真帆です。
本日の「おけいこ道」は、レッスンの服装について語ります。

◼︎どんな服装が適切?

レッスンとは、どのような服装で行くのが望ましいのでしょうか?

「そりゃあ、トラッド系のきちんとしたお洋服で」
「平日は学校に行った服でそのまま行かなきゃ間に合わない」

いろいろな考えがあると思います。

特に、地元の先生と、都会の大学教授とを掛け持ちするようなお子さまとは、

「東京の先生のところに行くんだから、このスカートを履いて!」
「そんなトレーナー着ないで、こっちのラルフローレンのシャツ着てちょうだい!」

といった攻防があるのではありませんか?

わたしは小学6年生まで出かける時の洋服は母にコーディネートしてもらっていました。
しかし好みははっきりしていて、母が買ってくれた服を拒否することも多々ありましたし、「絶対似合うから!」と説得されて渋々着て行くこともありました。

とりわけ頑固に主張したのがスカートは嫌いということ。
絶対パンツ主義のわたくしは、小学校にスカートを履いて行ったことは、数えるほどしかありません(あ、大学もそうだった)。
注※中学生になってからは自分でコーデを考えるようになりました。

幼い頃から、譲れないことへは頑なにこだわるわたしに堪忍して、母はいつもパンツコーデを考えてくれましたし、そんなわけだからレッスンもほぼパンツ

それできちんと感を出すために、少し「いいとこの坊ちゃん」風の服装をしていました。

◼︎初対面はさすがに

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しかしさすがに「発表会の日のリハーサル」や「初めての先生のところに伺う日」は、ワンピースを着るわけです。どうしても女の子はパンツだとカジュアルに見られてしまうから、季節折々でよそ行き的ワンピはひとつふたつ用意がありました。

ところが小学生時代、わたしは年に7、8cmずつ背が伸びていて、ワンピースは数回しか着ないうちに丈が足りなくなりました。
実は母が選ぶワンピースは、いつも先生方に大評判のかわいさ。着られなくなった服は、当時の先生のところに5つほど歳下の娘さんがいらしたので、「お下がり」ということで差し上げていました。

先生は

「うわー! いつもかわいい服をありがとうございます〜! これ着てたね、色が鮮やかで大好き!」

と喜んで娘さんに着せてくださるのでした。

その後も「母チョイス」の人気は健在。
高校時代のある夏休み、その日はブラックウォッチのチェック柄でAラインのオーソドックスなワンピースを着ていました。涼やかだね、と言わんばかりに心なしか先生の表情が和らぎます(女性の先生です悪しからず)。

◼︎日本だけの習慣?!

高校入試の暁には、先生からも厳しい服装チェックが入りました。中学校の制服は弾きづらいので、私服で臨む人も多いヴァイオリン専攻。
受験直前の試演会では、演奏の講評ののち、「スカートが少し短い、弓が元に来た時にあがる」「カーディガンはカジュアルでよろしくない」など、誰から見ても悪い印象を持たれないように先生が気を遣ってくださいました。

そんな厳しいチェックのもと入学したため「やはり藝大の先生は服装を気にするんだなぁ」と思っていました。実際に「レッスンは必ずスカートで受けている」と公言していた子もいたくらい。
わたしの場合、高校時代は制服で受けるのが基本でしたので、大学生になってからは「せっかく制服がなくなったのにスカートを履くなんて……」という思いから、ジーンズを避けたパンツスタイルを選んでいました。

しかしその発想が、大学1年の夏に大きく覆されます。
初めて海外の講習会に参加したら、海外の子はみんなとてもラフ。Tシャツにレギンス!でレッスンに行きます。
藝大から一緒に行った先輩は「なぜレギンスだけなのか」と疑問を連呼していました。日本人ならレギンスは下着、お尻の形が見えないようにショートパンツでも重ねますからね……。

何より、先生がGパンをお召しなのにびっくりしました。日本の師匠にくっついて海外まで来たわけですが、日本で師匠のGパン姿なんて見たことがなかったのです。
日本では、大学でのお立場上スーツをお召しなのでしょう。先生ご自身は、カジュアルな格好自体は嫌いではないのだな、と思いました。

教訓◼︎服装は臨機応変に

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というわけで、わたくしも(少し調子に乗って)その講習会ではショートパンツに生足の、大好きなリゾートスタイルでレッスンに行ったりしましたが、それを普段大学で実行したら間違いなく浮きます
以来大学でのレッスンには、肩肘張らず「日本社会で通常の学校生活を営めるレベル」の服装、つまり普通の服で伺っています。だからジーンズは解禁しました(デニムショートパンツにニーハイソックスとサンダルで行ったことも)。

それでもやはり、公開レッスンでは空気感に合わせてワンピースを着ますし(むしろ海外の人は、公開レッスンでは全身黒でオーケストラの本番のような衣装だった)、相手を不快にさせないという観点が大切だと思います。

ですから、気張りすぎて「この前このスカートを履いてしまったから、新しいものを買わなくては……」とヒステリックになることもないし、でも前後の生徒さんがきれいな格好なのにひとりだけ穴あきジーンズだと浮きますし。
服装に関しては絶対的な正解があるわけでなく、門下の雰囲気や催し物の状況に合わせたチョイスをしましょう。

考えた上で、悩んで悩んで決まらなくて仕方なかったら、女の子はAラインのワンピースを、男の子はラルフローレンかブルックスブラザーズのシャツにスラックスを着せておけば、誰も責めませんから!

ちなみにわたしは、細身パンツスタイルを確立することに成功し、大学では先生方に「あなたいつもシュッっとしてるわねー!」と覚えていただきました。こういう生き方もあります

原田 真帆

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栃木県出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程修了、ディプロマ・オブ・ロイヤルアカデミー、ドリス・フォークナー賞を受賞。2018年9月より同音楽院博士課程に進学。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。