卑弥呼のバッハ探究22「無伴奏パルティータ第1番 コレンテ」

こんにちは、ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。

本日取り上げるコレンテも、前回のアルマンダ同様にドゥーブルという変奏を伴うのですが、これが6つの無伴奏作品中もっとも◯◯な曲で…。一体どんな曲なのでしょう! さっそく中身をのぞいてまいりましょう。

コレンテとは

 

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コレンテまたはクーラントとは、後期ルネサンス時代からバロック時代に流行した3拍子の舞曲です。バロック時代には、ゆったりとしたフランス式と、急速なイタリア式、ふたつのタイプがありました。フランス式はだいたい2分の3拍子または4分の6拍子で書かれ、場合によってはこの2種類の拍子を交互に用いることもありました。当時フランス宮廷で用いられていた踊りはどれもゆったりとしていたので、クーラントも例にもれず落ち着いたテンポが採用されていたのです。

バッハはフランス式とイタリア式でスペリングを変えて書きわけていたと言われていますが、ただクーラントの場合は、その書き分けが本来のスペリングにそぐうものではないこと、また多くの楽譜編集者は、バッハの鍵盤作品においては、この違いはあまり重視していないらしい、ということは付記しておきます(出典:wikipedia)。

こちらのパルティータ1番は、何系統でしょう。1曲目の「Allemanda」や4曲目「Tempo di Borea」と名付けてられていることからも、イタリア系統かなと思いきや…、3曲目の「Sarabande」とフランス式なスペルで書かれていることに気がつきました。どういうことだろう…。まぁこの「Corrente」は曲調からもイタリア式コレンテと言って差し支えないと思うのですが。

移弦とテンポ感

 

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この曲固有の難しさは、移弦の大きさにあります。けっこうな速さの中で弦を何本もまたいでいくので、右腕の動きをいかに必要最低限に収めるかがポイントです。

ところで、どんな速さで弾いたらよいのでしょう。譜面を見てみると、この曲は独特の記譜法が使われています。短い小節線が使われているのが、おわかりいただけますか?

これは、6つの無伴奏作品の中でも、ソナタ第1番のプレストとこのコレンテの2曲にしか使われていません。でもバッハは時折短い小節線を用いていて、鍵盤楽曲の譜面にも見受けられます。

2小節ごとにまとまりを作ると、4分の3拍子で書かれていてもまるで4分の6拍子のようですよね。でも4分の6拍子で書くのは違ったんだろうな…ソナタ1番のプレストも然りですが、きっと3拍子の疾走感は失いたくなかったのでしょうね。

そして、この曲の速さを決めるヒントはドゥーブルにあります。

奏者泣かせのドゥーブル

 

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前回「ドゥーブルは原曲と同じテンポで弾く」と書きましたけれども、逆算すると「ドゥーブルも成り立つ速さで原曲を始める」必要があるわけです。ドゥーブルに細かい音符がある場合は、特に…!

コレンテのドゥーブルは譜面をご覧いただくと一目瞭然、16分音符のお祭りです。無窮動なこの曲は、6つの無伴奏作品の中で忙しさがもっとも長く続きます。だからわたしは、この曲がいっちばん手に負担を感じます…まあ使い方が悪いせいと思いますが…。

というわけでこの曲のテンポ設定をする際は、コレンテの疾走感は守りたいのですけれど、自分の手も守れるテンポと擦り合わせて、最大公約数を探していきましょう。

右手の急速な動きもさることながら、左手は爆速で音階をなぞっていかなければいけません。次々に指の支度をしていかないと、弓との噛み合わせが乱れて崩壊します。練習では弾けたのに本番で…なんてことも(実体験)!!! ひたすら丁寧にゆっくり練習を重ねて、もっとも省エネルギーな動きを自分の手に染み込ませるよりほか、手はありません。

組曲の中のメリハリ

前曲のアルマンダと、次回扱うサラバンドはゆったりとした舞曲、一方コレンテと終曲は急速な踊りで、曲のメリハリがかなりはっきりしています。特にパルティータ第1番の場合は、終曲「Tempo di Borea」と比較すると、今回のコレンテのほうがより軽快です。

つまり、この曲でしっかりアクセルを踏んでおいたほうが、曲全体が生き生きします。もちろんブレーキペダルも視界に入れながら(!)、この曲のスリリングさを楽しんでみませんか?

次回はサラバンドです。また近いうちにお会いいたしましょう!

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栃木県出身。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校、同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程修了、ディプロマ・オブ・ロイヤルアカデミー、ドリス・フォークナー賞を受賞。2018年9月より同音楽院博士課程に進学。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。