こんにちは、ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆です。2019年もどうぞよろしくお願いいたします。
年をまたいでしまいましたが、本日はソナタ第2番の終曲アレグロを取り上げます。今回は学校のホールで録音をしたので、いつもよりきれいな音質で撮れたと思います(笑)。わたしの学校のホールは、英国のエドワード朝のスタイルで建てられた美しい内装を持つのですが、ただ残念がら今回のフレームには収まりきりませんでした…。そちらも、またいつか。
アンダンテからアレグロへ
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アレグロの直前の曲といえば前回取り上げたアンダンテです。個人的な好みを申せば、アンダンテとアレグロはほとんど間をあけずに、続けて弾くのが好きです。アンダンテのあと自分とお客さんとの間の空気を動かしたくないと言いますか…アレグロに入ったら、一気に最後まで駆け抜けていきます。
なんて書いておきながら、動画の冒頭で、なぜわたしは走っているのでしょうね…全く覚えがなく、あとから動画を見返して我ながら驚きました。
ソナタ第3番の終曲も16分音符が多用された速い楽章ですが、あちらはアレグロ・アッサイ、こちらはただのアレグロです。アッサイというのはイタリア語で “程度が大きい” ことを表すので、ソナタ3番のほうがより快活なのでしょう。こちらの曲のほうが、少し冷静さも持ちあわせているように思います。
強弱記号の意味
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この曲は強弱記号の書き込みが多くあります。バッハの6つの無伴奏作品を見渡しても強弱記号の記載が多くないことは、これまでにも触れました。つまり強弱を書くということは何か強調したい意味があると考えます。
バロックダンスの一種に、みんなで輪になって横向きにステップを踏んでいくダンスがあります。右に2歩行ったら左に2歩、そして右に4歩行って1セットです。たとえばこの楽譜を見ていると、そのステップが見えてくる気がしませんか?
舞曲というとソナタよりはパルティータのイメージがありますが、ソナタだからと言ってダンスのエッセンスが皆無だとも思いません。強弱とは単に音量ではなく、それは方向かもしれないし、歩幅かもしれないし、アイデア次第でどうにでも表せるもの、と捉えると表現の幅が広がるのではないでしょうか。
くり返しも楽しく
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ある日わたしがレッスンでこの曲の前半部分を一度弾き終えたとき、先生は言いました。
「今やったこと、2回目は全部逆にして弾いてみて」
この曲は前半と後半をそれぞれ繰り返して弾きます。音の上り下りやゼクエンツの進行に合わせて音量の変化をつけて弾いていたわけですが、繰り返しではそんな表現のディテールを全て逆にしておこなうとわたしの先生は言ったわけです。
この章で言いたいのは、繰り返しで表現に差を付けるということ。わたしは先生の教えに習って正反対のデュナーミクを付ける方法を取っていますけれど、そうでなくてもいいのです。またそういったディテールは弾くたびに変化してよいものだとも思います。本番の瞬間の気分に委ねてみると、臨場感が生まれる気がします。
短調だけど暗くはない
この曲には暗さや深刻さ、重さは感じられず、むしろ前向きで快活さのある曲だとわたしは思っています。無伴奏作品6曲中4曲が短調で、ト短調ロ短調イ短調ニ短調というラインナップですけれど、イ短調という調性自体が短調の中では軽やかなほうですよね。
今日でソナタ第2番はおしまいです。次回からはパルティータ第1番を追っていきましょう。それでは、また!
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