今週もおけいこ道のお時間がやってまいりました。ヴァイオリン弾きの卑弥呼こと原田真帆がお送りいたします。
風邪が増えるこれからの季節。本日は体調不良と演奏の関係について考えます。
喉が痛いと音が出ない?
わたしの先生のひとりは、風邪のときはうまく音が出ないわよね、と言います。喉の調子が良くなかったり、頭がクラクラしていると、スピーカーの役割を果たす体もうまく振動しないから、というのがその理由。確かに具合が悪いとふんばりがききませんよね。
具合が悪いと一口に言ってもその内訳は多種多様。多少の熱ならがんばれちゃったり、咳が止まらなくてとても楽器を構えていられなかったり、お腹がいなくて立っていられなかったり…。今日はわたしの「体調不良エピソード」をご紹介します。
咳き込みが止まらない
小学 4 年生の夏の初め。先生にご指名いただき、先生のコンサートの中でバッハの 2 台ヴァイオリンのための協奏曲をご一緒させてもらうことになりました。ちょうど春の発表会でその曲を弾いたところでしたので、先生との合わせもバッチリ。会場は日光は霧降高原のステキなホテルとあって、本番を楽しみに待っていました。
しかし本番直前、高熱でダウンしたわたし。そんなことは初めて、かつ夏です、あまり風邪の時期でもありません。食欲不振も相まって、フラッフラでレッスンに行けば、先生に「やつれているわね」と言われる始末。しかもそんな中、以前注文しておいた「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」がアマゾン川から届きまして、読みたいのに起き上がれないのジレンマ。母が「元気になったら読もうね、置いておくから」と言い、何の「魔法」かまだビニールのかかった分厚い単行本が枕元に置かれました。
前日にはダメ押しで病院へ行き、事情を説明して、それまで飲んでいたお薬に加えて咳止めを出してもらいました。熱は下がりましたが、咳は止まらないまま本番の日を迎えました。
ホテルでの本番ということで控室にお部屋を貸してもらえて、リハーサルと本番の間は休めましたし、咳止めと気合いのおかげで咳き込むことなく無事出番を終えましたが、その後先生のソロを聞きたかったのに客席で咳が止まらなくなって控室に泣く泣く戻りました。鼻水も辛いけれど、咳は物理的・音量的にアウトです…。
貧血でふらり
ある日のレッスンでのこと。先生はお話好きで、レッスンの中でたくさんのことを語ってくださいます。5 分 10 分は途切れることなく語り続けることができる先生のお話は、ときどき難しいこともあるけれど、ありとあらゆる興味をかき立て、その先生のレッスンを受ける醍醐味でもあります。
が、その日のわたしはどうも意識が散漫になってしまい、お話にも集中できません。なぜだろう、と思っているうちに視界がブラウン管テレビの砂嵐のようになって、先生の姿が欠けていきました。
これは貧血だ、と思いふらふらとその場にしゃがみ込みます。
成長期の女の子に貧血は多く、とくにニョキニョキと背が伸びていたわたしは、貧血で授業や全校集会からドロップアウトした経験が何度もあります。ただ楽器を持っているときに貧血になったことはなかったので、そのときはたいそう焦りました。
楽器もろとも倒れてからではいろいろ遅いので、「やばい、気持ち悪い、貧血だ」と感じたら早めに声をあげてしゃがみこんでください。具合が悪いときに、誰の許可もいりませんから。周りにいる人が倒れかかったときは、本人を介抱しつつ、まずは楽器を引き取って安全なところに置きます。そうすることで本人も安心して休むことができます。
わたしがレッスンでしゃがみこんでしまったそのとき、お話に夢中だった先生がふと我に返って、まず楽器を引き取ってくれたのでとてもほっとしたのを覚えています。
体がいちばん大事
何を言っても、いちばん大切なのは体です。体あってこそヴァイオリンが弾けるのであって、どうぞ体は大切にしてください。
体調が悪い日は無理にレッスンに行くより休んだほうが良いし、風邪菌を持ち込むのは先生にかえって失礼です。マスクをしてレッスンに行ったら「僕コンサート前で今絶対に風邪ひけないから、悪いけど帰ってくれない?」と言われた、というエピソードを聞いたこともあります。その言い方の良し悪しはともかく、本番が立て込む先生にとっては恐怖ですし、レッスンって結構先生と生徒の距離が近いので、感染リスクは高いですよね。
一方、風邪をおしてレッスンしてくださる先生も多くいらっしゃいます。ある日レッスンにうかがったら「今日、僕、風邪をひいていて熱があって…空気清浄機、僕のそばに置いておくね」というお茶目なごあいさつをされたこともありました。
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