From London「サイモン・ラトルを楽しむ夜」


海外の公演の様子をお伝えしていくこの企画、本日はロンドンで7月9日に行われたサー・サイモン・ラトル指揮、ロンドン交響楽団の公演レポートをお送りいたします。

ラトルがロンドンに帰ってきた!

サイモン・ラトルと言えば、今世界でもっとも有名な指揮者のひとり。ベルリン・フィルハーモニー交響楽団の芸術監督としての活躍が記憶に新しいですが、もともとは英国リヴァプールの生まれで、英国王立音楽院の出身です。この2017/18シーズンからロンドン交響楽団の音楽監督に就任することになり、生まれ育ったイギリスに帰ってきました。そのため今回の公演は、9月からの就任1シーズン目を前にプレ登場という形だったようです。

この日の会場は、ロンドン交響楽団のホームグラウンドであるバービカンセンター。演劇・音楽・映画館などの複合施設で、日本で言えば東京芸術劇場や渋谷東急Bunkamuraのようなところです。開演前には忘れずお手洗いへ……。

案内の看板がレトロでかわいかったので思わず撮影。

スクリーンの向こうにオーケストラ!?

今回のプログラムには、ロンドン交響楽団と提携を結んでいるギルドホール音楽・演劇大学の学生の一部も出演、わたしの友人もオーケストラの一員として出演するということで足を運んだのですが、前半のプログラムには “英国初演” の文字が。なんと前半は子供のためのオペラでした!

ストーリーは、フランスの19世紀末の有名な無声映画『月世界旅行』にインスパイアされたもの。人類が月に行ったもののロケットが壊れてしまい、その修理の最中に現地人と出会うというお話です。元の映画のほうは地球人と月の人(Moonish)で争いが起こりますが、今回のストーリーでは両者が協力してとある “敵” に立ち向かっていました。なお、『月世界旅行』の映像は今日でもパロディなどで使用されるので、誰もが一度は見たことがあるのではないかと思います(むかしのポンキッキーズにも出てきた)。

オーケストラは舞台の後方にスタンバイ、その上空にはスクリーンが張られていて、宇宙の景色が投影されていました。正直はじめは「何かラトルお得意の楽曲を聴きたかったな…」と思っていたのですが、始まってみるとこれがおもしろい。登場した歌手の歌声とSFめいたストーリーにぐいぐい引き込まれました。

また少年少女合唱団が月の民族として参加していて、運良くわたしの座席の前を彼ら彼女らが歌いながら歩いて演じるシーンがあり、舞台と一体化して楽しんだ感覚になりました。

レポートでこれを言ってはおしまいですが、人の声は生で聴くに限るというか、生で聴くのとスピーカーで聴くのは “月とスッポン” ほど違う、と改めて感じた次第です。

しかしここで忘れてはいけないのがラトルの棒さばき。演劇やスライドの進行にオーケストラの演奏がぴったりはまっていきます。そして役者の立ち位置からラトルが見えないので、舞台のぎりぎり手前に立ちラトルの動きに追随して振る副指揮者もいて、神がかり的な連携を見せる音楽家たちの集中力に感服しました。

シベリウスに魅せられて

さて、後半はシベリウスの交響曲第2番。シベリウスは北欧フィンランドを代表する作曲家で、なんと1957年まで生きていました。しかしもともとメロディックな作品を書くこと、そして晩年はまったく作曲しなかったことも相まって、現代音楽というよりはロマン派の音楽といえます。

そんな彼の作品の中でももっとも有名…なのは祖国を思って書いた交響詩『フィンランディア』ですが、その次ぐらいに有名なのは、今回演奏された「交響曲第2番」です。

全4楽章ですが、それぞれの楽章がなかなか長めなので、結構ボリューミーなシンフォニー。しかしラトル×LSOはそれを聴衆が決してもたれることのない味に仕上げて聴かせます。

北欧らしさである重厚な響きを、イギリスらしく「人の胸を打つ歌心」でまとめあげるさまに、思わず飲み込まれます。何よりも、オーケストラと指揮者の両方から、お互いに “共演できてうれしい…!” という気持ちが伝わってきて、曲の終わりを迎えるのが名残惜しく感じられるほどでした。

来年はラトルを聴きに行こう!

まもなく迎えるオーケストラの新年度。2017/18シーズンはラトルがたくさん登場する予定なので、また近いうちに足を運び、レポートしていきたいと思います。

そしてもしロンドンにご旅行の予定がある方は、ぜひバービカンセンターに立ち寄って、ロンドン交響楽団の演奏を聴いてみてはいかが?


ABOUTこの記事をかいた人

原田 真帆

栃木県出身。3歳からヴァイオリンを始める。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校・同大学器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修士課程2年在学中。第12回大阪国際音楽コンクール弦楽器部門Age-H第1位。第10回現代音楽演奏コンクール“競楽X”審査委員特別奨励賞。佐々木美子、山﨑貴子、澤和樹、ジェラール・プーレ、小林美恵、ジャック・リーベックの各氏に師事。弦楽器情報サイト「アッコルド」、日本現代音楽協会HPにてコラムを連載。