彼はギフトか、厄災か? 10月4日公開予定「蜜蜂と遠雷」の先行試写に行ってきた

史上初の快挙となる、直木賞(第156回)と本屋大賞(2017年)のW受賞を果たし、現代を代表する作家のひとり、恩田陸の新たな代表作となった『蜜蜂と遠雷』が実写映画化され、2019年10月4日(金)に全国公開を控えています。

試写会にて一足先に鑑賞させていただいたノリコ・ニョキニョキが、(もちろんネタバレにならない範囲で)レビューさせていただきます。

なお、本記事では映画版についてのレビューに終始しておりますので、書籍版のレビューはぜひ以下をご参照ください。

恩田陸からの “ギフト”とは?『蜜蜂と遠雷』レビュー

17.08.03

映像化不能と言われた作品はどう化けたのか?

まず原作を読んだ方ならおわかりの通り、本作がこれだけ多くの人に支持された理由のひとつに「文字だけで真っ正面から音楽表現に挑んだ」という点があったかと思います。作者の恩田陸さんが「読者の頭の中に、文字で音楽を鳴らしたい」とおっしゃっていた通り、臨場感あふれる多彩な表現力で、気づけばすっかりピアノコンクールの世界へ引き込まれていましたよね。

それを映画化となると、さて、本作の魅力のひとつは失われてしまうということになるのでしょうか?

そんなことを思いながらいざ作品を拝見したところ、私の中での結論はこうなりました。

「頭の中で鳴っていた以上の音楽を聴くことができた」

それは豪華な演奏者陣のおかげでもあり、映像と音楽を巧みに融合させた監督の手腕でもあると思います。本作はストーリーを追うというよりも、コンテスタントの心的世界を描いた作品ですが、その部分が「メタファーを多分に含んだ映像」と「バックに流れるクラシック音楽」によって上手に表現されていたと感じました(このあたりはぜひご覧になって確認していただきたい!)。

個人的には、「まるで新種のミュージックビデオかのような映画だった」という感想も抱きました。

遊びゴコロあるBGMにも注目

演奏シーン以外にもさまざまなクラシック音楽がBGMとして使われているのですが、その選曲が絶妙にベタで微笑ましいです。たとえば、幼少期の亜夜が、雨の降る日に母と弾いているのはショパンの『雨だれ』。亜矢と塵が月夜にピアノ連弾をするのは、ドビュッシー『月の光』とベートーヴェン『月光』。審査員たちが、夢破れて舞台を去る演奏家たちの話をしているときにはドビュッシーの『夢』が流れるなど、「ベタだね〜〜〜!」ボタンがあれば押してしまいそうなシーンがたくさんありました(笑)。

しかしそれがよい! ほとんど誰にも気づかれないニッチすぎる仕掛けより、これくらいの遊びゴコロのほうがたくさんの人が楽しめると思うので。ちなみに私は、この流れならブラームスのヴァイオリンソナタ『雨の歌』もきっと出てくるに違いないと確信していたのですが(本作では「雨」は非常に重要な役割を担っています)、出てこなかったので「使われていないんか〜い!」と一人ツッコミを楽しみました(寂)。鑑賞後にご友人とBGMトークで盛り上がれるのもひとつの楽しみ方だと思いました。

音圧たっぷりのクラシック

それからもう一点。普段生演奏のクラシック音楽を聴くとき、コンサートであれ録音であれ、爆音で聴く機会というのはほとんどありません。しかし本作は、さすが映画。低音はぶいぶい鳴りますし高音はスコーンと抜けてきますし、コンチェルトを演奏するシーンなんかビジュアル系バンド顔負けの音圧が迫ります(笑)。これは新しいクラシック音楽の楽しみ方かも……と目覚めそうでした。

また本選で亜夜とマサルが演奏したプロコフィエフの『ピアノ協奏曲 第2番 ト短調』と『ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調』が迫力満点なもので、これらを演奏するクライマックスは映画化の醍醐味だったなあと感じました。

豪華キャストなのは俳優だけではない!

©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

演奏は本当にすばらしかったです。ストーリーの中心にいる4人の登場人物の演奏はそれぞれ実力派の演奏家が担当し、作品に見事に息を吹き込んでいました。

担当されているピアニストの面々は以下の通り。みなさんが発表しているコメントも転載させていただきます。

河村 尚子氏(英伝 亜夜役)

ミュンヘン国際コンクール第2位、クララ・ハスキル国際コンクール優勝。ドイツを拠点に、リサイタルのほか、ウィーン響、バイエルン放送響等にソリストとして迎えられ、日本でもヤノフスキ指揮ベルリン放送響、ビエロフラーヴェク指揮チェコ・フィル等のツアーに参加。文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞等、受賞多数。CDは「ショパン:24 の前奏曲&幻想ポ ロネーズ」など(RCA Red Seal)。現在ドイツ・フォルクヴァング芸術大学教授。

恩田陸さんは、演奏家がピアノに向かうまでの心の機微、不可思議で魔法のようなピアノ音楽の姿を、リアルかつ細やかに描かれています。映像と音を伴うことで、音楽を志す若者たちの熱い精神がより鮮やかに伝わりますように!

福間 洸太郎氏(高島 明石役)

パリ国立高等音楽院、ベルリン芸術大学にて学ぶ。20歳でクリーヴランド国際コンクール優勝。カーネギーホール、ベルリンコンツェルトハウス、サントリーホールでリサイタル他、クリーヴランド管、モスクワフィル、イスラエルフィル、NHK交響楽団などと共演、一流フィギュアスケーターやバレエダンサーとの共演など幅広く活動する。CDは10枚以上リリース。テレビ朝日系「徹子の部屋」や「題名のない音楽会」などにも出演。

このプロジェクトに参加させていただき、大変光栄です。録音前に小説を読み返し、家庭を持つ社会人としてコンクールに挑戦する高島明石の音を追求してみました。聴く人へ勇気と癒しを与えることが、明石と私の願いです。

金子 三勇士氏(マサル・C・レヴィ・アナトール役)

1989年、日本人の父とハンガリー人の母のもとに生まれる。6 歳で単身ハンガリーに渡りバルトーク音楽小学校に入学。2001年、11歳でハンガリー国立リスト音楽院大学(特別才能育成コース)に入学し、2006年に全課程取得とともに帰国、東京音楽大学付属高等学校に編入する。同大学、大学院を修了。2008年バルトーク国際ピアノコンクール優勝の他、数々のコンクールで優勝。第22回出光音楽賞他を受賞。スタインウェイ・アーティスト。

国際コンクールの本選には、まず選ばない難曲をあえてぶつけてきたマサル。彼に同化して弾いたプロコフィエフの協奏曲がどのような映像作品に昇華したのか、一番楽しみにしている一人です。

藤田 真央氏(風間 塵役)

2017年、弱冠18歳で第 27 回クララ・ハスキル国際ピアノ・コンクールで優勝し、世界の注目を浴びる。2018 年には、ルール音楽祭でリサイタルをおこなった他、ヴェルビエ音楽祭にアカデミー生として参加。スイス、並びにパリのルイ・ヴィトン財団主催New Generationシリーズに招かれた。今シーズンもオーケストラと共演を重ねる他、10 月には紀尾井ホールで のリサイタルなどを予定している。現在、20歳。特別特待奨学生として東京音楽大学2年ピアノ演奏家コース・エクセレンスに在学中。

「蜜蜂と遠雷」は、発売されてすぐに読みました。音楽を文章でここまで表現できるものなのかと、とても感動しました。今回担当させていただいた風間塵くんのように、私も“音楽の神様”に愛されるピアニストであり続けたいです。

藤田氏といえば今年6月に、世界三大コンクールに数えられるチャイコフスキー国際コンクール(第16回)で第2位に入賞し、改めて注目が集まっていますよね。まだ演奏を聴いたことがないという方はこの機会にぜひ!

書き下ろされた課題曲『春と修羅』

そして今回、もうひとつ注目されている点として、コンクールの課題曲『春と修羅』を作曲家の藤倉 大氏が書き下ろしているということが挙げられます。

恩田陸さんは作中で、この作品がどういったものなのか詳しく描写しているため、それを実際の作品に落とし込むという難しさがあったかと思いますが、それを感じさせない堂々たる出来栄えだと感じました。

そして後半のカデンツァ部分においても、これまた見事にそれぞれの奏者の個性が反映された演奏が楽しめるだけでなく、映画ならではだと思いますが、それぞれのアレンジの背景にあるストーリーがしっかりと描かれているために、標題音楽を楽しんでいるかのようなエンターテイメント性がありました。

藤倉 大氏(課題曲『春と修羅』作曲家)

1977年大阪生まれ。15歳で渡英しジョージ・ベンジャミンらに師事。ザルツブルク音楽祭、BBCプロムス、シカゴ響など から作品を委嘱され、国際的な共同委嘱もますます増えている。2019 年はオペラ〈ソラリス〉組曲版世界初演、アーティスティック・ディレクターを務める新しい音のフェス「ボンクリ 2019」などが控える。2017 年ヴェネツィア・ビエンナーレ音楽部 門銀獅子賞受賞。録音多数。Minabel Records を主宰。

この度は「蜜蜂と遠雷」に出てくる架空の作曲家の作品の作曲をすることができ、その上に4人の全く違う今をときめくピアニストに演奏していただき大変嬉しいです。原作の著者恩田陸さんはこの架空の作品の描写を長く詳しく書いており、その表現全てを実際に反映し、なおかつ僕の音楽になっていて、一人一人のピアニストの個性がバッチリ出る曲、と言うものを目指しました。映画を観るのが待ち遠しいです。

2019年10月4日(金)全国公開

©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

公開まで残り2ヵ月ということで、これからますますプロモーションが加熱してくる頃合いかと思います。

10月といえば芸術の秋ですから、ぜひみなさんお誘い合わせのうえ、劇場に足を運んでみてください。そして、ネタバレを恐れて今回書ききれなかったこともたくさんあるので……鑑賞された際はぜひ編集部にお声掛けを! 語り合いましょう(笑)!

原作:恩田陸「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎刊)
キャスト:松岡茉優 松坂桃李 森崎ウィン 鈴鹿央士(新人)
監督・脚本・編集:石川 慶 / 配給:東宝
©2019 映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会

映画『蜜蜂と遠雷』公式サイトはこちら

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ノリコ・ニョキニョキ
COSMUSICA発起人/編集長。1989年生。ハープ勉強中。東邦大学医学部医学科中退、東京藝術大学音楽学部音楽環境創造科卒業。外資広告代理店にてコピーライター、フリーランスのライター/編集を経て、現在は教育業界にてインハウスライター。SEO記事やWebメディアでの執筆経験多数。記名/無記名、単発/継続問わず、執筆のお仕事随時受け付けておりますのでお気軽にご連絡ください。

1 個のコメント

  • […] 音楽コンクールのことをご存知の人もそうでない人も、詳細で巧みな描写によってその世界に引き込まれていくような小説でした。 なかなかコアな世界のことですし、”のだめカンタービレ”の時よりも演奏のシーンは多分多いと思われ、役者さんがどこまで表現できるのかなと(演奏はもちろんプロ奏者が吹き替え)最初は映画化も不安視する声もあったようですが、 先行試写会のレビューを読むと興味が出てきました、見に行く価値は大いにありそうです、ああ、行きたい・・・ […]