ストップやアシスタントの存在にびっくり!「楽器の王様」と呼ばれるオルガンの仕組みを解説

初めまして。阿部翠と申します。私は現在東京藝術大学オルガン科の修士課程を休学して、パリに留学しています。

実は私、以前は東京藝術大学の楽理科というところに在籍していました。そのときに、大学にある奏楽堂という大きなホールにてオルガンの音色を聴き、その迫力に度肝を抜かれ、鳥肌がたち、何だこの楽器はーーー! と大きな衝撃を受けました。

その時点で20歳をとうに越えていましたし、周りの同年代の人が就職している中で「また新しいことを始めるなんて…」という考えもありました(というか、今も常に悩んでいます)が、それを上回るくらいにオルガンの魅力にとりつかれていました。そんな出会いから、オルガン科へ入学し、私なりに今もオルガンの探求を続けています。

残念ながら、オルガンの知名度はとても低く、音楽をやっている方でもオルガンのことを分かる方は少ないのではないでしょうか。COSMUSICAでは、少しでもオルガンの魅力をお伝えできたら…と思っております。

大迫力! オルガンの音色

さて、前置きが長くなりましたが、さっそく「オルガンってどんな楽器?」というのをご紹介したいと思います。

オルガンと言ってもさまざまなのですが、今回取り上げるのは私が最初に出会った楽器である、奏楽堂のオルガン! フランスのガルニエという会社が製作した楽器です。

東京藝術大学内・奏楽堂のオルガン(ガルニエ)

ホールにそびえたつ巨大な楽器。前面に見えているパイプはほんの一部で、大小合わせて5568本! のパイプがこの奥に収められています。長いものは4メートル以上あります。自分の演奏がこの巨大な楽器を通してホール全体に響き渡るのは何とも言えない快感です。

音色も迫力満点! 昨年オーケストラと共演させていただいたときの映像がこちらです。

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オーケストラにも負けない迫力というのがおわかりいただけると思います。鍵盤楽器ではありますが、パイプに空気が送られて音が鳴っているので、管楽器ということもできますね。

オルガンの特徴

ここでは、オルガンの構造上の仕組みや、独特な音色を奏でるための仕組みをご紹介します。

演奏部分の複雑な構造

オルガンによってそれぞれ違うのですが、鍵盤が数段あり、奏楽堂の場合は手鍵盤の音域は低いドから高いソまで4オクターヴ半あります。ピアノは7オクターヴ以上ありますから、それに比べるとだいぶコンパクトな印象です。

ピッチも楽器によってさまざまで、奏楽堂の場合はA=440ヘルツです(ピアノより少し低め)。楽器によってはピアノより半音低いものや高いものもあるので、絶対音感がある場合は慣れるまでちょっと大変です。

横にニョキニョキと出てるのが「ストップ」と呼ばれる音色のボタンです。オルガンによって数が違いますが、奏楽堂の場合全部で76ストップあります。このストップを手前に引くと音が出ます。これを組み合わせることでさまざまな音色を作ることができます。

また、オルガニストは手と同じように足も使って演奏します。エレクトーンにも足鍵盤がありますが、オルガンの場合は音域がもっと広いです。これもオルガンにより違いますが、奏楽堂の場合は低いドから2オクターヴ上のファまであります。ベース音だけでなくフーガのテーマなんかもがっつり弾きます。ここで鳴らされる重低音が、オルガンの迫力を作っているのです。

ストップを用いて音色を作成

音色の作り方についてもう少し詳しくご説明します。先ほど「ストップを手前に引くとその音が鳴る」と言いました。下の写真で手前に出ているのが今使用中のストップです。

とあるコンサートのリハーサル風景。複数のストップが引き出されている

フルートのような音色のストップ、チェロの音色のようなストップ、オーボエのような音色のストップ…といったふうに、さまざまなものがあります。また、それぞれの音色に対して、1オクターヴ上の音が出るもの、1オクターヴ下の音がでるものなど、音の高さが違うストップがあります。大きな楽器だと、それだけたくさんのストップがあります。鍵盤数は少ないけれどオーケストラに匹敵する迫力が出せるのはそのためです。

もちろんひとつのストップだけを単独で使うこともできますし、たくさんのストップを重ねることもできるので、音色の可能性は無限大! 音色作りもオルガニストの能力のうちのひとつで、試験やコンクールの審査対象にもなります。

欠かせない、アシスタントの存在

オルガンの演奏会に行かれたことのある方は分かると思いますが、演奏者のとなりにもうひとり(もしくは両脇に2人)いることが多いです。演奏会後に「あの黒子みたいな人は何をしていたの?」という質問が来ることがよくあります。

この人は「アシスタント」と言って、ストップの操作をする人です。演奏者は両手両足を使って弾いていますから、ストップの操作はこのアシスタントに任せます。アシスタントは、ストップの操作の他に、譜めくり(オルガニストは基本的に本番でも暗譜で弾きません)や場合によっては音を弾いたりすることもあるんです。

またリハーサルにも立ち会い、音作りを手伝ったり、演奏者が客席から音色のバランスを確認したいと思ったときには代わりに弾いたりします。本番も演奏者の邪魔にならないように、なおかつ息を合わせてストップを操作するのはなかなかの技が必要です。

大抵の場合は、アシスタントもオルガニスト(またはオルガン科の学生)が務めますから、先生や先輩のアシスタントについていって、「あ、譜めくりの方ね」なんて言われるとちょっと寂しくなります(笑)。演奏会のときは、ぜひアシスタントの動きにも注目してみてください。

オルガンの演奏を聴きたいときは

日本でも生のオルガン演奏を聴く機会はたくさんあります。しかもホールや教会で無料で聴けるランチタイムコンサートなどがたくさんあるのです。この奏楽堂のほか、サントリーホールやオペラシティ、東京芸術劇場など大きなホールにはオルガンが入っていることが多いです。

各ホールのホームページなどでももちろんチェックできますが、日本オルガン研究会のホームページに載っている演奏会情報が大変便利です。

参考リンク▷オルガンコンサートガイド(日本オルガン研究会)

オルガンはホールと一体化してるので常にコンサートの「背景」になりがちですが、オルガンのコンサートでなくても、ホールに行かれた際はぜひオルガンにも注目してくださいね!

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阿部 翠

東京藝術大学音楽学部楽理科、同修士課程を経て、器楽科オルガン専攻卒業。楽理科在学中にオルガンを始める。これまでにピアノを山口優、山脇聆子、オルガンを長谷川美保、廣野嗣雄、徳岡めぐみ、Aude Heurtematte、Christoph Mantoux、通奏低音を椎名雄一郎、即興演奏を近藤岳各氏に師事。2016年、「長崎でオルガン音楽を」オルガンオーディションにて審査員賞を受賞。2017年、奏楽堂モーニングコンサートにおいて藝大フィルハーモニアと共演。現在、東京芸術大学留学支援奨学金を得て、パリ地方音楽院へ留学中。カトリック市川教会、目黒教会オルガニスト。オルガニスト協会会員。