吹奏楽の響きで蘇る人類最古の世界文学。ベルト・アッペルモント/交響曲第1番『ギルガメシュ』


こんにちは。コントラバス奏者、そして! 吹奏楽指導者の井口信之輔です。

このコラムは、弦楽器奏者なのに吹奏楽を愛するコントラバス奏者の僕が、「吹奏楽」に高校時代に唯一得意だった「世界史」を組み合わせて、おすすめの作品を紹介していく連載企画です。

近年の吹奏楽作品には歴史や神話、伝説を題材とした作品が多くあり、部活動やサークル、市民バンドの演奏会から吹奏楽コンクールまで世代を超えて多くの人たちに演奏されています。僕も、そういった歴史が絡んだ作品が好きでいろいろな作曲家の曲を聴いてるので、作品の魅力を感じたままに書いていきたいと思います。

第 1 回目は、人類最古の世界文学『ギルガメシュ叙事詩』を題材に書かれた作品を取りあげます。主人公のギルガメシュとエンキドゥが繰り広げる、壮大な物語をベルト・アッペルモントが描くドラマティックな音楽とともにお楽しみください。

ベルト・アッペルモント 交響曲第1番「ギルガメシュ」

この作品を書いたのは、ベルギーの作曲家、ベルト・アッペルモント(Bert Appermont)。

日本の吹奏楽界にとってはおなじみの作曲家ヤン・ヴァン=デル・ロースト氏のもとで作曲を学び、レメンス音楽院の卒業課題として作曲した『ノアの箱舟(1998)』によって、日本でもその名を知られるようになりました。

そして2003年、アッペルモントは、人類最古の世界文学とも言われる『ギルガメシュ叙事詩』をテーマにした第 1 作目の交響曲を書き上げます。

このギルガメシュ叙事詩とはどういうものかまとめると、

  • 主人公は、おそらく紀元前2600頃、シュメール時代の都市国家ウルクに実在した王であった
  • 彼の死後、さまざまな物語が作られ「ギルガメシュ物語」として伝えられた
  • そして、紀元前1800年頃、アッカド語の『ギルガメシュ叙事詩』がバビロニアで作られる
  • その後、西アジア全域に広まり、紀元前1200年頃に『ギルガメシュ叙事詩』の標準版が完成

参照:名著で読む世界史120 山川出版社

となっています。

この交響曲は標準版『ギルガメシュ叙事詩』のあらすじに近い形で書かれていますので、あらすじを追いながらききどころを紹介していきたいと思います!

第1楽章 ギルガメシュとエンキドゥ

おはなし

物語の主人公は、ウルクの英雄かつ暴君ギルガメシュ。圧倒的な力を持ち、誰もかなう者はいません。人々を思うがままにし都の乙女を奪い去るなど、その暴君さからウルクの市民に恐れられていました。

ウルクの市民たちが助けを求め、神に祈りを捧げたところ、大地の女神アルルはギルガメシュをこらしめるため、粘土から野人エンキドゥを作り出します。

ききどころ

この物語は、吹奏楽では使用されるのが珍しい 5 弦コントラバスをはじめとした低音セクションが奏でる、おどろおどろしいテーマとともに幕を開けます。木管楽器が奏でる上行〜下行する音型は、全楽章を通して顔を出す「ギルガメシュのテーマ」のひとつであり、遠くから聴こえてくる淡々としたリズムとともに「ギルガメシュのテーマ」が激しさを増し、ついに暴君ギルガメシュが姿を現します。

楽章の後半へ進むと、曲調は軽快な音楽へと変わり、粘土から生まれたエンキドゥのテーマが顔を出します。高音域を受け持つピッコロと、低音域を受け持つファゴットが奏でるアンバランスなテーマが、最後はフルオーケストラへとなっていくのは、粘土から作られた野人エンキドゥが知性と理性を身につけいく様子が描かれているのでしょうか。

第2楽章 巨人たちの戦い(6:00〜)

おはなし

神殿娼婦シャムハトの誘惑に惹かれた野人エンキドゥは、野人性を失い、人間としての力強さや知性と理性を身につけました。そして「ウルクにはギルガメシュという暴君がいる」というシャムハトの言葉に従い、自らの使命である、ギルガメシュとの戦いへと向かうのでした。

ききどころ

冒頭から激しくぶつかり合う様子が描かれ、その音量からも激しい戦いであることが想像できます。ギルガメシュとエンキドゥのテーマが力強く奏でられ、一瞬の静寂をあとにまた激しい戦いが繰り広げれれます。そして、再び二人のテーマが顔を出し、何度も同じリズムが強打され、ついにこの戦いに決着がつきます。

戦いの末に芽生えた友情

ギルガメシュとエンキドゥは、ほぼ互角の力を持ち、激しい戦いの末、お互いの力を認め合った2人に生まれたのは友情でした。第2楽章の後半では、戦いの末に生まれた友情、そして深い友情で結ばれて親友となった2人の姿を、アッペルモントがドラマティックな音楽で描写しました。

第3楽章 森の中の冒険(13:00〜)

おはなし

激しい戦いの末、親友となったギルガメシュとエンキドゥは、森の番人フンババを倒す旅に出ます。フンババが倒れ、一瞬の静寂の中、誘い込むようにギルガメシュのテーマが顔を出しますが、何かを断ち切るように再び明るさを取り戻し、物語が幕を閉じたように感じさせます。

しかし、最後の不吉な響きが、この先に待ち受ける二人の運命を暗示させるのでした。

ギルガメシュに愛と美の女神イシュタルが恋をする。

イシュタルは求婚を迫るが、ギルガメシュはイシュタルの愛人となった者たちの悲惨な末路を数え上げ、その不貞と残忍性を指摘し求婚を断った。

イシュタルは立腹し、ギルガメシュを殺害しウルクごと滅ぼすため、父アヌに聖牛グガランナを送ることを求めるがアヌは拒否する。イシュタルは冥界から多数の死者を蘇らせ、地上に生ける者を喰わせると言ってアヌを脅し、グガランナを造らせた。

その夜、エンキドゥは不吉な夢を見た。

参照:Wikipedia-ギルガメシュ叙事詩

ききどころ

颯爽と駆け抜ける音楽は、突如不気味な雰囲気となり、不協和音とティンパニの激しい強打音によって奏でられる音楽とともに姿を現すのがフンババでしょうか。高い演奏技術が求められ、奏者泣かせの楽章だったりもします。

第4楽章 ウトナピシュテムへの道のり(17:55〜)

おはなし

神々は天の会議において、森の番人フンババ、そして聖牛グガランナまでをも倒した報いとして2人のどちらかに死を宣告。そして、エンキドゥは不吉な夢を見て、自らの死を悟ります。

静かに息をひきとる親友エンキドゥの姿に自分を重ね、死の恐怖を知ったギルガメシュは、永遠の命を求め、太古の洪水を生き延びたウトナピシュテムの元へと旅立つのでした。

ききどころ

第3楽章の終わりに暗示された不吉な響き。そしてこの交響曲の最後に描かれたのは、親友エンキドゥの死でした。神から死の宣告を受け、息をひきとるエンキドゥの死を描いたレクイエムともいえるテーマをユーフォニアムとフリューゲルホルンが奏でます。

すると、ピアノを中心に第1楽章の冒頭に顔を出した上行〜下行の音型が再び現れ、親友を失ったギルガメシュの悲痛な叫びを思わせるような盛り上がりを見せ、2人のテーマが演奏されます。

終楽章では親友と死別をした主人公ギルガメシュの悲痛な叫びが、重々しくときに悲しく、アッペルモントの魅力である美しいメロディで表現されています。

そして最後は、ギルガメシュのテーマが何度も繰り返され、旅に出るように遠くへと消えていき、物語の幕を閉じるのでした。

おしまい

幅広い層に愛される「ギルガメシュ」

ベルト・アッペルモント初の交響曲となったこの作品は、今でも国内外でも多く演奏されています。日本で知られるようになった当時は、人気番組『笑ってコラえて!吹奏楽の旅』で全国大会に出場する学校がコンクールの自由曲として取り上げたことからも話題を呼びました。

また、この作品にはコントラバスの他にチェロが入っており、弦楽器の豊かな響きが管楽アンサンブルに暖かさを加えます。

吹奏楽×世界史でお届けするこのコラム、次はどの時代へと向かうのでしょうか? お楽しみに。


ABOUTこの記事をかいた人

井口信之輔

千葉県出身。洗足学園音楽大学卒業。クラシック音楽を軸にコントラバス奏者として活動するほか「吹奏楽におけるコントラバスの理解と発展」に力を入れており、SNSを通し独学で練習に励む中高生に向けた発信をおこなっている。また「弦楽器の視点から見たバンド指導」をテーマに吹奏楽指導者として多くの学校で講師を務めている。昭和音楽大学研究員、ブラス・エクシード・トウキョウ メンバー。これまでにコントラバスを寺田和正、菅野明彦、黒木岩寿各氏に師事、指揮法を川本統脩氏に師事。趣味はアロマテラピーと釣り、ドライブ。