最近、クラウドファンディングという言葉がしばしば聞かれるようになりました。COSMUSICAでも利用している仕組みなのですが、改めてクラウドファンディングとはなんなのか取り上げたいと思います。
クラウドファンディングとは、インターネット上でおこなう資金調達(ファンディング)のこと。
クラウドとは英語の「crowd」つまり「群衆」の意味です。インターネットを介することで、不特定多数の人に寄付を募れる、という仕組み。寄付する側も、ネット上でちょいと操作するだけで寄付できてしまうわけです。
東京藝大×クラウドファンディング !?
のっけから IT なお話で恐縮ですが、ここからは音楽と関わりのあるお話です。
東京藝術大学が 4 月 6 日に、なんと 11 ものクラウドファンディング企画を打ち出したのです! 一体どういうこと? 何が起きたの? と卒業生ながら驚いたので、その詳細を紐解いてみました!
実は過去にも挑戦済み
実は昨年度、東京藝術大学(以下・藝大)は 2 つのファンディングに挑戦しています。ひとつは藝大図書館が持っている貴重なLPレコードを今後も維持管理していくための資金調達、もうひとつは戦乱で破壊されたアフガニスタンの壁画を修復するプロジェクトの資金調達、といった具合に、音楽分野と美術分野からひとつずつ企画が出されていました。
これはどちらも、日本で最初のクラウドファンディングサービス「Readyfor(レディーフォー)」にておこなわれたものでした。結果はどちらも成功。レコードのプロジェクトでは目標金額の143%、壁画修復は約116%と、どちらも目標金額を上回る支援を得たのです。この成功は、日本の芸術界において「藝術×市民からの寄付」という構図が成り立つという希望を見せてくれました。
なぜ自ら資金調達?
国立大学というと国家予算が下りているイメージだと思うのですが、実際はどこも経営が苦しいのが現状です。なぜならば、2004年以来、すべての国立大学は「国立大学法人」という名の下に運営されることになったから。
これは、ひとつひとつの大学が、それぞれひとつの会社のように動いているイメージです。まぁとっても端的に言うと、それ以前と比べて、自分で資金調達しないと回らない部分が出てきたんですよね。
「Readyfor」は現在、大学向けのクラウドファンディングを支援していて、藝大はその先駆けのモデルと言えます。なお筑波大学もすでに 3 つのプロジェクトを成功させています。
どんなプロジェクトがあるの?
この 4 月 6 日からは、READYFOR株式会社と藝大で、よりがっちりとタッグを組んでさまざまなクラウドファンディングがおこなわれることになりました。
今年、藝大は創立 130 周年を迎えます。そんな節目の年だからこそ “単純に寄附金を募るだけではなく”、“芸術家と支援者が積極的にコミュニケーションを図る機会” をつくることで “社会が芸術家をサポートできる文化の醸成を目指したい” と、澤和樹学長からのプレスリリースにはつづられています。
大学というのは教育機関であると同時に研究機関でもあります。つまり、自分の専門分野において、いつも世の中の最先端を、先陣切って進んでいかなければいけません。そこで藝大として、新しい時代の芸術家と社会の関わり方を示そうと、クラウドファンディングという挑戦を始めたわけです。
前置きが長くなりましたが、実際に始まったプロジェクトを見てみましょう。卒業生としては全てご紹介したくなってしまいますが、とっても長くなってしまうので、ここは我らが音楽に関わるものをのぞいてみましょう。
学長自ら! 知る人ぞ知る「シマノフスキ」の魅力に迫る
驚いたのですが、学長自らプロジェクトをしているという…。澤 和樹 学長は 2016 年 4 月に就任し今年が 2 年目、何を隠そう現役のヴァイオリニストであります。そして「日本シマノフスキ協会」の理事もお務めなんだとか。
シマノフスキとは、1882年生まれのポーランドの作曲家の名前です。ポーランドがロシアに侵略されていたり独立したりする激動の時代に生き、肺結核により 55 歳という若さで亡くなってしまいましたが、存命中にはかつてショパンを生んだワルシャワ音楽院の院長も務めたような、優れた作曲家です。
その神秘的な音楽が非常に魅力的なのですが、日本ではあまり知られていないのが現状。今回のクラウドファンディングでは、そんなシマノフスキの演奏会を開くための資金を募っています。シマノフスキ『神話』の動画をつけておくので、もし気になった方はぜひプロジェクトを応援してみてください♪
▷「知られざるシマノフスキの魅力を日本で。デュオ・リサイタル開催」
戦没死した作曲家の音楽を蘇らせたい!
こちらはかつて『題名の無い音楽会』のプロデューサーを務めていた大石 泰 教授のプロジェクト。
実は戦後70年も経っているにもかかわらず、学徒出陣で志半ばに命を落とした音楽学生の作品にスポットライトが当たる機会はなかったそうです。しかし70年をきっかけに、そうした作曲科の学生の作品を発掘する研究が始まりました。
もちろんこの研究の中で発掘された音楽を演奏会で披露するイベントもあるのですが、このプロジェクトの最終目的は、戦没学生の作品のアーカイブ化。まだまだはじまったばかりのこのリサーチを完遂し、未来に遺すための資金を募っています。
▷「戦没学生の音楽作品よ、甦れ!楽譜に命を吹き込み今、奏でたい。」
みんなの手で藝術を育てよう
11 のうちごく一部しかご紹介できませんでしたが、ほかにも『ピタゴラスイッチ』で知られる佐藤 雅彦教授のプロジェクトや、大阪万博で展示されたのち幻となった音を奏でる彫刻作品の復元活動などのプロジェクトがあります。
藝術はときにひとりよがりで、世間の人をおいてけぼりにして自らを突き詰めてしまうことがあります。それはそれでひとつのスタイルではありますが、藝術は人の目や耳に触れてこそ、その効果を発揮します。
しかし完成した作品だけに接するよりも、その過程から共に取り組めたらどんなに完成が待ち遠しく、また作品が愛おしいことでしょう。
一見異色にも思える「東京藝大×クラウドファンディング」のタッグですが、特設ページをのぞいて、あなたも藝術の片棒を担いでみませんか?
コスムジカへのご支援もお待ちしています♪
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取り上げていただいた『バシェ音響彫刻修復プロジェクト』ですが、実は5基修復され演奏もされています。
よろしければ『バシェ協会』のHPもご覧下さいませ。
http://baschet.jp.net/archive/musicalsculpture/katsura/
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