初めまして! フルーティストの岩崎花保です。
みなさんは、「フラウト・トラヴェルソ」という楽器の名前を聞いたことがありますか? 多くの方にとって聞きなれない単語だと思いますが、その正体は「古楽器」と呼ばれる、フルートの前身となった横笛です。現代においては洋銀や銀などの金属で作られたフルートが一般的ですが、バッハやモーツァルトの時代はほとんどが木で作られていました。
「フラウト」とはイタリア語でフルートのこと、そして「トラヴェルソ」というのはイタリア語で「横向きの」という意味です。あれ? フルートって元から横向きでは…? と思いますよね。
実はバロック期以前、西洋ではフルートといえばリコーダーのことを表していたのです! そこでその縦型の”フルート”と区別するために、横笛のことは“フラウト・トラヴェルソ”と呼んでいたわけです(ちなみに、イタリア語でリコーダーの正式名称はフラウト・ドルチェです)。
というわけで! 今回は、私が普段使用しているフルートとフラウト・トラヴェルソを比較してみたいと思います。
フルートとフラウト・トラヴェルソを比較!
使用楽器
【フルート】メーカー:ムラマツ/モデル:14金製+メカニズム9金製 H足
【トラヴェルソ】メーカー:Tutz/モデル:J.H Rottenburgh
キィの数
キィというのは管楽器の部品のひとつで、フルートなら、管にまとわりついている小さな蓋のような丸いパーツのことです。キィは管に開いている穴を閉じる役割を持ち、キィの開ける個数や組み合わせを変化させることで、さまざまな高さの音を出せるのです。
フルートには実際に指でおさえるキィが 17 個もありますが、トラヴェルソにキィはひとつしかなく、あとは 6 つの穴が開いているだけという非常にシンプルな形です。吹き口は違うものの、名前の通りリコーダーを横にしたバージョンの笛といった感じです。
楽器の長さ
フルートは約 71 cm、トラヴェルソは約 63 cm。少しトラヴェルソの方が短いですが、私が使用しているフルートは少し長いタイプのモデルなので、一般的な長さはそれほど変わらないと言えそうです。
楽器の重さ
フルートは約 500グラム、トラヴェルソは約 250グラムとほぼ半分です。素材によって重さの異なるフルートの中で、中くらいの重さと言われている総銀製のフルートは約 440 グラムなので、そちらと比べてもトラヴェルソはかなり軽いですね。ただし、トラヴェルソに使用されていた木材にもいろいろ種類があるので、材質によっても細かな違いがあるかもしれません。
チューニング
フルートは「ラ」の音が 442 Hzであるのに対し、トラヴェルソの「ラ」は 415 Hzです。数字だけだとわかりにくいですが、要するに基本としている音の周波数の違いです。415 Hzは 442 Hzより約半音低く聞こえます。
現代ではピアノやその他の西洋楽器も 440〜442 Hzで調整されているので、慣れるまでは 415 Hzを聴くと不思議な感覚に襲われるかもしれません。
さらに、フルートはC管(基本となる音階がドレミファソラシド)なのに対しトラヴェルソはD管(基本となる音階がレミ♯ファソラシ♯ドレ ※ただし移調楽器ではない)という違いもあるので、両方の楽器を勉強したことがある人は、この辺りで一度心が折れたことでしょう。
これはたとえば、トラヴェルソの場合「♯ファ」は出しやすいけれど、「♮ファ」は少し工夫しないと出ない、ということです。管の種類が違うと、演奏家にはどういうことがおきるのか、簡単にたとえるならば(厳密にはもっと複雑ですが)、ソプラノリコーダーとアルトリコーダーで、同じ指づかいなのに違う音だと教えられたときの、あの感覚です。
音域
フルートは約 3 オクターブ半、トラヴェルソは約 2 オクターブ半の音域を持ちます。
キィのメカニズムが複雑化し、トラヴェルソからフルートに至るまでに、音域が 1 オクターブも広がりました。通常、管が長くなると低い音が出るのですが、フルートとトラヴェルソの長さはそれほど変化していません。つまり低音域はほぼ変わらず、現代のフルートは高音域が充実しています。
音量
フルートは管楽器の中でも音が小さいと言われている楽器ですが、トラヴェルソはそれとは比べものにならないほど音が小さいです。トラヴェルソはすべての穴がフルートよりも小さいため、管体に入っていく息の量も、外に出ていく息の量もとても少なく、結果音量も小さいということです。
現代では規模の小さいコンサートから大きな会場でのコンチェルトなど演奏形態もさまざまですが、昔は貴族たちが個人的な趣味として楽しんだり、よく響くサロンや教会などで演奏するのが一般的だったので、音量はそれほど問題にはならなかったのかもしれません。
まとめ
今回フルートとトラヴェルソの違いを改めて比べてみて、楽器の変化は時代の変化と密接な関係があると感じました。もっと良くしたい! という気持ちが楽器の構造や奏者の技術を発展させ、それが地層のように積み重なり、文化が培われていくのでしょう。
今日ではまったく別の楽器と言えるフルートとフラウト・トラヴェルソ。フルート奏者と言えど、その吹き分けには苦労しますが、それでも吹きたいと思うのは、この楽器の魅力あってこそ。
機会がありましたら、ぜひフラウト・トラヴェルソの柔らかく美しい音色をお楽しみください。
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