現代音楽の原点から進化を、オーケストラの曲で体感しよう!

こんにちは。2回目の登場、打楽器奏者のyuccaです。

私は地方出身なので、毎年夏休みは少しだけ帰省しています。しかし地元オーケストラはちょうどオフシーズン真っ只中、演奏会はあまりやっておりません…。

夏休みだからこそ! 時間があるからこそ! オーケストラを聴きに行きたいのにー! とお思いの方はきっと私だけじゃないはず。そんなあなた(と私)のために、今回はオーケストラ特集で参りましょう。

無調の始まりはわりと唐突

さて、まずはうっとり美しい曲からいきましょう。

ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲

実はこの曲は、厳密に言うと現代音楽ではなく、音楽史の区分上は近代音楽-印象派です。あれ、このコラムは現代音楽じゃないの…?とお思いの皆様。なぜこの曲を紹介したかというと、現代音楽によくある無調音楽の片鱗が見えるからなのです。まあ、現代音楽らしい無調音楽は後ほどご紹介しますのでご安心ください…(にやり)

無調音楽とは、調性のない音楽のこと。聞き馴染みのある多くの音楽には、ハ長調(ドレミファソラシド)、イ短調(ラシドレミファ(♯)ソラ)のように、調性が存在しています。これはそれぞれ、ハ音=ド、イ音=ラという基準音(主音)があります。そのような基準音を持たず、長調や短調などの調性もわからず、調性を判断するのに大切な5度から1度への和声進行もない…そんな音楽が「無調音楽」です。

さて、この曲の一番最初のフルートの主題にご注目下さい。クラシックイントロクイズ初級の鉄板曲とも言える、超個性的な出だしです。♯ドの伸びた音から、その増4度下のソの音の間を、ほぼ半音階で往復しています。実はこの増4度という音程は、歌いづらくて音程も取りづらく、調性もどっちつかずで曖昧にしてしまうことから、通称「悪魔の音程」なんて言われております。

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実はこの曲、譜面上ではホ長調(ミ♯ファ♯ソラシ♯ド♯レミ)なのですが、このほぼ半音階の部分でホ長調以外の音を多く使っています。この効果は、ホ長調っぽさを消しているだけでなく、どの調性も感じ取れず、無調感を引き出します。

ドビュッシーは、従来の調性に逆行する技法を作った人です。この曲の無調感に関しては、あくまで音楽的な色彩を豊かにするために、部分的に無調に感じられるフレーズを書いた…という感じでしょうか。

ちなみにこの作品は189294年に発表されたのですが、そのど真ん中である1893年に発表された曲がこちら。

ドヴォルザーク:交響曲第9番 新世界より第4楽章

そうなんです…この“ザ・クラシック”という感じの交響曲と、先ほどの前奏曲が、まさかの同時代に発表されたものなのです。ちなみに、そこからさかのぼることわずか約20年、ブラームスが交響曲第1番を発表(1876)しています。このことからも、当時ドビュッシーがいかに革新的なことをやってのけたのかがわかりますね。

大スキャンダルを生んだ!? 現代音楽の古典

今度はさきほどの牧神の午後から約20年後、こんなスキャンダラスな曲が発表されました。

ストラヴィンスキー:春の祭典

この曲がパリで初演された際、観客たちはとにかく大興奮。一説によると、演奏中にもかかわらず客席から嘲笑やヤジが飛び、それを火種として観客同士の殴る蹴るの暴動が起こり、「とにかく最後まで聴いてください!」とホールの支配人が叫ぶ始末だったとか…。

ドビュッシーが、決まりごとを綺麗に壊したとしたら、ストラヴィンスキーは意図的かつ徹底的に破壊したような印象第1回目で触れた、現代音楽の特徴をちょっと思い出してみてください。この曲、まさに「調性、リズム、形式などの、いわゆるクラシック音楽の伝統的な決まりごとから逸脱している 」という特徴に当てはまります。

現代音楽と呼ばれる音楽の中では初期の作品ですが、通称「ハルサイ」という略称が浸透しているくらいには有名な曲ですね。そのため、現代音楽の古典なんて言われたりします。実はこの曲から現代音楽にハマる人がなかなか多いのです。難しそうな現代音楽とはいえ、わりと覚えやすいフレーズがあったり、リズムがかなりロックだったり、トゥッティで力強く攻めてくる音楽に気分が高まったり、なんだか聴いていて興奮してきます

もはやひとつのオーケストラではたりない

牧神の午後の際にお約束しました、お待ちかねの現代音楽らしい無調音楽です。

シュトックハウゼン:グルッペン

動画を再生してすぐに目につくのが、人の多さと散らばり具合。オーケストラが3つの群にわかれていますが、これは別にこのオーケストラが不仲だから分かれているのではなく、もとより3群オーケストラのための作品なのです。なんと指揮者も3人。なんだかお得な感じがするのは私だけじゃないはず。

この3つのオーケストラはお互いのオーケストラを聴きながら、独立して演奏しています。どういうことかというと、「Aのオーケストラがテンポ954分の6拍子で演奏する中、一定のタイミングでBのオーケストラがテンポ1274分の4拍子で演奏を重ねだす」とか。

…楽譜に書いてあることをそっくりそのまま言うとこんな表現になってしまいますが、実際聞こえてくるのは、オケが他のオケを呼び、応えたり同調したりこだましたりする様子。難しいように聞こえるこの曲にも、コミュニケーションが見えてくるはずです。

そして、この3群オケの特徴は、空間的な配置で聞くことができることです。自分の周りを奏者が囲んで演奏してくれる機会なんてなかなかありません。映画館に行ったときのことを思い出してみてください。あの迫力がある音楽や、距離感がリアルな効果音は、前や横や後ろにあるスピーカーが立体的な音響を生み出しているから聞こえるのです。この3群オケも同じで、さまざまな場所から音が聞こえてくる仕組み。いわば、会場でしか体感できない臨場感があるのです。

ここまで言っておいてなんですが、残念ながら動画だとこの曲の魅力である立体的な音響は楽しめませんね…。ごめんなさい。しかし、朗報があります。なんとこの曲、12月に京都で実演されます!

3群ともバランスよく聴ける席を狙うもよし、ひとつのオケに寄って奏者と同調するもよし、近くで鋭利的な音を楽しんでも良し、後ろの方で角の取れたまとまったサウンドを聴くもよし…。色んな楽しみ方ができると思うので、興味のある方はぜひ聴きにいってみてくださいね!

京響創立60周年記念 特別演奏会

日時:20161223日(金祝)2:00pm 開演
会場名:京都市勧業館みやこめっせ(第3展示場)
出演者:広上 淳一(常任指揮者兼ミュージック・アドヴァイザー)、高関 健(常任首席客演指揮者)、下野 竜也(常任客演指揮者)、大谷 麻由美(指揮)、水戸 博之(指揮)
曲目等:シュトックハウゼン:3つのオーケストラのための「グルッペン」
ジョン・ケージ:5つのオーケストラのための30の小品
チケット:20169/18から発売
3,000(全席自由)

思い返せば、私が初めて現代音楽の演奏会に行ったのは、忘れもしない高校3年生のとき。受験予定だった、国立音楽大学の打楽器アンサンブルの演奏会でした。同じく受験予定だった友達と行ったのですが、初めて聴いた現代音楽にただ圧倒されるばかりで、「わからない…けど、わからないことが恥ずかしいな…」という閉じた気持ちで聴いてしまっていたことを思い出しました。

最近では楽しみ方がわかるようになって、「さーて、何が起こるのか見つけてみよう!」と開いた気持ちで向き合えることが多くなりました! それでもびっくりしてしまう曲に出会ったときは、腰が引けちゃったりすることもあるのですが…(笑)。

みなさんにもここで少しずつ楽しみ方を知っていただいて、次第に演奏会に足を運んでいただけるようになれば嬉しいな、と思います!

それでは、第3回目でまたお会いしましょう♪

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yucca

小学4年生のとき入った金管バンド部で、「きみには絶対音感があるから、移調楽器は出来ないと思う」という顧問の計らいにより打楽器を始める。国立音楽大学打楽器専攻卒業。