一人三役! エンジニアと建築家と音楽家の肩書きを持つクセナキスの音楽観

こんにちは!

秋が深まってまいりました。秋といえば、芸術の秋ですね。正直秋を楽しむどころか台風に予定を変えられっぱなしの私ですが、秋の夜長を生かして夜更かししつつ(?)記事を書いております。早いものでもう3回目なのですね…!

現代音楽は、作曲家によってさまざまな作風があります。そこで、この連載でも作曲家シリーズと題してひとりずつ取り上げてみようと思っているのですが、初回となる今回はこんな特徴の人に注目してみました。

・建築と数学の知識を作曲に取り入れた
・コンピュータを用いて作曲をした
・打楽器奏者が避けては通れない作曲家

いかにも現代音楽っぽそうな、手堅いワードが並びました。この方、名前をヤニス・クセナキスといいます。

クセナキスってどんな人?

クセナキスはギリシャのアテネ工科大学で建築と数学を学んだあと、第二次世界大戦中に反ナチスの抵抗運動に加わりました。その際に銃弾を顔の左側に浴びて重症を負い、左目を失明してしまいます。彼はそのまま逮捕され死刑を宣告されましたがなんとかパリへ亡命し、以後フランスを拠点にしました

その後、パリで建築家ル・コルヴィジェの弟子として建築に関わる一方、作曲家オリヴィエ・メシアンのすすめもあって、パリ音楽院にて作曲を学んでいきます。クセナキスは音楽の英才教育を受けていたわけではないので、どちらかというと音楽院では落ちこぼれだったようで、勉強の遅れを悩んでいたとのこと。対して、メシアンはこう助言したそうです。

君は建築家であり数学者だ。それを自分の音楽に役立てるべきではないか?」と。

そこから、彼の独特な作風が生まれ育ったというのは有名なエピソードです。冒頭にあげた特徴の一つに「コンピュータを用いて作曲した」とありますが、こちらは今のご時世のように作曲ソフトを使ってコンピュータ上で作曲する…ということでも、コンピュータで音を作り出して曲を作った…というわけでもなくありません。コンピュータを使い計算した結果を作曲に応用した、という意味です。コンピュータの高速計算が、作曲家を支援したというわけです。

ちなみにクセナキスのプロフィール写真でよく見かけるものは、ビートルズのアルバム「with the beatles」のジャケットよろしく、顔の左半分が影になっているものです。左目を失明していたからそのような写真を使ったというのはわかるのですが、この一致は果たして偶然なのか…?(どなたかクセナキスの写真を撮った写真家さんをご存じの方がいらっしゃいましたら、こっそり編集部宛てに教えてください。)

では、クセナキスの作曲した曲をご紹介します。

ピアノの88鍵をまとめ上げた傑作『Herma』

この曲は『ヘルマ』というタイトルですが、とにかくいろいろな音域の音があちらこちらに散らばって聞こえてきます。しばらく聴き進めていくと、やたら低い音域とやたら高い音域しか聞こえてこない個所があったり、耳につきづらいですが中音域が混ざっている部分があったり。

ペダルをずっと踏んでいるような部分もありますね。音が散らばっていることと、なんとなく部分ごとに分けられていることはわかります。こんなに音の場所が散っているのに、不思議とまとまって聞こえる曲です。

実はこの曲は、クセナキスが数学の「集合論」を使って作った最初のピアノ曲です。みなさん「集合」って覚えていますか? 私は全く覚えていなかったので、高校時代の白くてきれいな参考書を引き出して確認しました。

ピアノの鍵盤は全部で88鍵ありますが、その88鍵を全体集合Uとします。さらに部分集合として、3つの集合 A,B,Cを作成します。これらの和集合、積集合、補集合を組み合わせることによって曲が構成されており、さらに説明通りの縛りがある中で音を確率的にばらまいて作曲されています。ちなみに最後の部分の数式(楽譜に[F]と表記があります。)と、それに基づく図はこんな感じです。

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この青色の部分の範囲の音のみで、最後の部分は書かれているのですね。

なんだか、余計に聴き手が遠ざかってしまいそうな理論があった上でまとめ上げられている曲ですが、実のところ聴き手がその理論を理解している必要はあまりない気がします。

たとえば88色の色鉛筆を全色使って、塗り絵をしなければいけないとき、どうやって使い分けますか?

たとえば暖色と寒色にざっくり分けて使ったり、更に細分化して赤系、黄色系、橙系…とわけたり、はたまたあまり気にせず適当に塗ってみたり。88という数字は少ないようで、まとめようとすると結構大変そうなものです。

分割の仕方もまとめあげ方も人それぞれ。クセナキスの凄いところは今までになかった、集合論、群論、確率論などの数学的視点を用いて曲を作ったこと。そして88鍵もの音があるにも関わらずピアノ曲としてまとめあげたことです。

実はそのような手法だからか、クセナキスの楽曲には人間が演奏できないものも割とあるのです。完全に無理なものもありますが、奏法や奏者それぞれのアイデアやテクニックで、クリアされつつある曲もあるので、何事も諦めず挑戦する姿勢が求められている気がします(笑)

さて、続いてはクセナキスの打楽器曲について見ていきたいのですが、今日のテーマは難解である上に少々長くなってきてしまったので、こちらは後日に持ち越しましょう♪

どうぞ、お楽しみに!

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yucca

小学4年生のとき入った金管バンド部で、「きみには絶対音感があるから、移調楽器は出来ないと思う」という顧問の計らいにより打楽器を始める。国立音楽大学打楽器専攻卒業。