世界が激震した2020年も、ついに最終月を迎えました。予断を許さない状況から、復活しつつあった演奏会などのイベントが改めてキャンセル・延期されて、この年末年始は巣ごもりをいかに工夫して過ごすかが肝となりそうです。
ところで、2020年上半期において、音楽ストリーミング配信サービスにおいてどのような音楽が聴かれていたか、英国の音楽機関が調査したところ、前年比でクラシック音楽の伸び率がもっとも高かったそうです(出典:「The Classical Revival in 2020」レポート)。
音楽は、アルバムで聴かれることよりも、ストリーミング配信のプレイリストで流されることが増えました。それは、新たな音楽に出会うチャンスが増したとも言えます。「Stay Home」も手伝って、結果としておうちでの「ながら聴き」のお供にクラシックが選ばれることが多くなったのではないでしょうか。
そこで本日は、おうちでの年越しにぴったりなクラシック音楽を3曲ご紹介します。クラシック音楽好きにとっては定番の選曲ではありますが、何がいいってどれも長い! 年賀状づくりや大掃除の良いお供になることでしょう。筆者おすすめ音源と併せてお楽しみください。
1.ヘンデル:オラトリオ『メサイア(救世主)』
世界的に年末の定番曲として挙げられる『メサイア』は、聖書に基づいて救世主としてのキリストの姿を音楽で描いたもので、中でもオーケストラと合唱による一曲「ハレルヤ」が有名です。
その有名なハレルヤコーラスに至るまでにおよそ1時間半あるので、聴きなれないうちは辛抱がいるものの、そうして積み上げた時間を経て「ハレルヤ」を聴いたときの喜びはひとしおです。繰り返し聴いていくと、ハレルヤまでの道のりにマイルストーンのように埋め込まれたアリアの、ソリストによる歌声の美しさが染み入ります。
筆者が最近聴いている『メサイア』は、サー・コリン・デイヴィス指揮、ロンドン交響楽団による演奏です。
2.ベートーヴェン:交響曲第9番『合唱付き』
日本の年末といえば『だいく』が欠かせません。実は年末の風物詩というイメージは日本独自のものですが、いかんせん合唱がつくこともあり、オーケストラと合わせてかなりの人数が必要なこの曲は、今年の年末に演奏するのはとても困難で、2020年は残念ながら例年よりも『だいく』の生演奏が少なくなっています。
『だいく』もなかなか長い曲で、みなさまご存知「歓喜の歌」が出てくるまで実におよそ45分。合唱団は出番のある4楽章になるまでずっと舞台の上で出番を待っていることはご存知でしたか? 筆者がおうち時間のアクティビティにお勧めしたいのは、この「歓喜の歌」のオリジナル歌詞の暗記です。明日すぐ使える知識、というほどのことはないかもしれませんが、かくし芸として役立ちます。たとえば円周率の暗記や百人一首の暗記に取り組む冬休みがあるように、文豪シラーが書いた詩を味わってみるのはいかがでしょう。
ここではわたしが歌詞を覚えようとしていた頃に聴いていたサイモン・ラトル指揮、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏を引用します。
3.ヨハン・シュトラウスⅡ:オペレッタ『こうもり』
オペレッタとはオペラのライト版のことで、オペラとはオーケストラの伴奏によって歌手が歌で演じる劇です。ここでご紹介する『こうもり』は台本に日付の指定はないものの、オーストリアはウィーン国立歌劇場や、ドイツ各地の劇場では大晦日に上演するのが定番です。舞踏会を含むどたばたコメディが、にぎにぎしくニューイヤーを迎える雰囲気を連れてきます。
ヨハン・シュトラウス2世には「ワルツ王」という異名があり、3拍子のワルツの、その独特の間合いは生粋のウィーンっ子にしかできないとも言われています。ここでは本家ウィーン国立歌劇場の管弦楽団による演奏で、ヘルベルト・フォン・カラヤンが指揮した音源をご紹介しましょう。
通常オペラと言ったら2時間3時間かかって当たり前なのですが、こちらライト版ですので、特にCDで聴けば1時間ちょっとで一周できます。作業しながら音源をかけた日には、ああ聴き終わったから1時間たったんだなあ、という使い方もできます。
おうち時間にいろどりを
いつもだったらできたことが制限される日々は、つい「できなくなったこと」ばかりが目に入りますが、おうちにいるからこそ楽しめることもあるはず。日頃はなかなか腰を落ち着けて聴けないような長い音楽を聴けるのもおうち時間のなせる技です。
不急不要と言われて久しい音楽ではありますが、そんなノン・エッセンシャルなものは平和を守る最後の砦だとも思っています。生活の中に音楽を聴く余白をあえて作ることで、心のゆとりも生まれる気がします。音楽が、これからも皆さんの暮らしの彩りでありますように。
最新記事 by 原田 真帆 (全て見る)
- 次々に演奏し、ばんばん出版。作曲家エミーリエ・マイヤーが19世紀に見せた奇跡的な活躍 - 24.05.18
- ふたりで掴んだローマ賞。ナディア&リリ・ブーランジェ、作曲家姉妹のがっちりタッグ - 23.10.30
- 投獄されても怯まず、歯ブラシで合唱を指揮。作曲家エセル・スマイスがネクタイを締めた理由 - 22.11.07
- 飛び抜けた才能ゆえ失脚の憂き目も経験。音楽家・幸田延が牽引した日本の西洋音楽黎明期 - 22.09.28
- 「暗譜」の習慣を作ったのは彼女だった。クララ・シューマンという音楽家のカリスマ性 - 22.01.30